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健康寿命を延ばすカギはタンパク質! 意識して摂るとよい理由とは?

「健康寿命」という言葉をご存じですか? 平均寿命から支援や介護が必要な期間を差し引いた、健康で自立した生活ができる期間のことです。これからは平均寿命よりも「健康寿命」を意識することが大切。健康寿命を延ばすために気をつけたい栄養の摂り方のポイントをご紹介します。

健康寿命と平均寿命の違いとは?

2021年に公表された平均寿命は、男性は81.64歳、女性は87.74歳で、いずれも過去最高を更新しました。私たちの平均寿命はどんどん延び続けています。一方で、数年前から話題になっているのが「健康寿命」です。健康寿命とはWHO(世界保健機関)が取り入れた新しい寿命の指標で、平均寿命から「寝たきり」や「認知症」などの、支援や介護を必要とする期間を差し引いた期間を指します。つまり、日常生活に支障がなく、自立して健康に暮らせている期間が健康寿命です。

この平均寿命と健康寿命にはいったいどのくらい差があるのか、健康寿命の最新データである2016年で比較してみましょう。

平均寿命と健康寿命の差は、なんと男性で8.84年、女性では12.35年もあります。約9~12年もの長い間、支援や介護が必要になる期間があるのです。

私たちは誰でも年を取るにつれて心身が衰え、やがては支援や介護が必要な状態になります。しかし、健康で自立している期間はできるだけ長くしたいもの。これからは、「健康寿命」を延ばすことを目指す生活にシフトしていきましょう。

フレイル予防で健康寿命を延ばそう

健康寿命を延ばす上で知っておきたいキーワードが「フレイル」です。フレイルとは「Frailty(虚弱)」の日本語訳で、「健康と要介護の間の状態」を指します。多くの高齢者がフレイルを経て徐々に要介護に移行するリスクがありますが、適切なケアをすれば健康な状態へと戻ることが可能な時期でもあり、フレイルまでが健康寿命とされています。健康寿命を延ばすには、このフレイルにいち早く気づき、対策をすることが大切になってくるのです。

では、どのような状態になるとフレイルと判定されるのでしょうか。現在フレイルには、世界共通の基準はありませんが、アメリカのLinda Friedが提唱した「CHS」という評価法を日本人に合わせた「J-CHS基準」が2020年に改訂され、フレイルの判定に用いられています。

<判定方法>

  • どれも当てはまらない:健常
  • 1~2項目に当てはまる:プレフレイル(フレイル予備軍)
  • 3項目以上当てはまる:フレイル

また、フレイルは、「身体的フレイル(運動器障害・低栄養・口腔機能低下など)」「精神・心理的フレイル(認知症・うつなど)」「社会的フレイル(閉じこもりなど)」の3つの要素で構成されており、これを踏まえた15問の質問票が、2020年度の後期高齢者健診の問診から使われるようになりました。以下の質問票を参考に、今の生活の中でフレイルのリスクがないかどうか振り返ってみましょう。

フレイル予防・改善のポイントは「低栄養」と「筋肉量の低下」を防ぐこと

フレイルを予防・改善する最も重要なポイントは、その中心的な病態である「低栄養」と「筋肉量の低下」を防ぐことにあります。この2つには強い関連があり、「低栄養になる→筋肉量が低下する→疲れやすくなって活動量が減る→エネルギー消費量が減って食欲が湧かない→低栄養になる……」という悪循環(フレイル・サイクル)に陥りやすいのです。

フレイルの予防・改善のためには、運動習慣(特に筋力トレーニング)をもち、栄養をしっかり摂って、好循環に戻していきましょう。

タンパク質は、健康寿命を延ばす栄養のカギ

一般的に高齢になると、食事量が減り、あっさりしたものを好むようになるため、食事に偏りが生じやすくなります。こうした偏りから、毎日3食食べているのに栄養が足りていない「新型栄養失調」が増えており、65歳以上の男性の12.4%、女性の20.7%が低栄養傾向にある(※)といわれています。※出典:厚生労働省「令和元年度 国民健康・栄養調査結果の概要」

不足している栄養素の筆頭はタンパク質。中でも、高齢者は肉や魚、卵や牛乳などの動物性タンパク質の摂取不足が問題になっています。タンパク質は、筋肉や骨、内臓、血管や血液、皮膚など、体をつくるための主成分で、免疫にかかわる様々なホルモンも、タンパク質なしにつくることはできません。タンパク質が不足すると筋肉量が減ったり、免疫力が弱くなったりしてフレイルを加速させてしまいます。まさに、「健康寿命を延ばすカギはタンパク質にあり」といえるでしょう。

シニア(高齢者)が1日のタンパク質量を増やすには?

シニア世代が1日のタンパク質量を増やすのは案外難しいものです。
例えば、タンパク質が多い食材である鶏のささみ100g(普通サイズのささみで約2枚分)の中には、タンパク質が23.9g含まれていますが、これでは男性が1日に摂取すべき量の1/3程度しかまかなうことができません。ささみを2枚食べても1食分程度のタンパク質にしかならないということは、食の細い高齢者にとって、タンパク質を摂るのが意外と難しいことなのだと実感できるのではないでしょうか。

タンパク質を無理なく摂るポイントは、朝食・昼食・夕食の3食全てにおいてバランスよく摂ることです。特にタンパク質を摂取しにくいのが朝食。「朝はパン1枚とコーヒーだけ」という人は、パンはチーズトーストに、飲み物は牛乳等に代えて、目玉焼きやヨーグルト、チーズを追加したりするなど、その都度の食事の中でタンパク質を意識してプラスしてみましょう。ヨーグルトにきな粉を入れるなど、ちょっとした工夫でも、タンパク質の摂取量を増やすことができますよ。

あなたの今日の食事のバランスが分かる「食の栄養バランスチェック」で、今日の栄養バランスをチェックしてみましょう。

タンパク質が多い食ベ物は? 動物性タンパク質と植物性タンパク質の違いも理解しよう

タンパク質には、「動物性タンパク質」と「植物性タンパク質」があります。それぞれ、含有量の高い主な食品とメリットをお伝えします。
※以下のタンパク質含有量は、文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」による。

●動物性タンパク質を多く含む主な食品(100g中)

<肉類>

  • 鶏ささみ……23.9g
  • 鶏胸肉(皮なし)……23.3g
  • 豚ヒレ肉……22.2g
  • 牛モモ赤身肉……21.9g

<魚介類>

  • 黒マグロ赤身……26.4g
  • 初ガツオ……25.8g
  • 戻りガツオ……25.0g
  • マカジキ……23.1g
  • 紅鮭……22.5g

<卵・チーズ>

  • 卵……49.1g
  • パルメザンチーズ……44.0g
  • プロセスチーズ……22.7g
  • カマンベールチーズ……19.1g
  • モッツァレラチーズ……18.4g

【動物性タンパク質のメリット】

肉と魚は必須アミノ酸をバランスよく含んだ良質なタンパク質で、フレイル予防のために積極的に摂ることが推奨されています。噛みごたえもあるので口腔機能の衰えを防ぐことにもつながります。卵は様々な料理に使いやすく、チーズは調理不要の物が多いので、気づいた時にすぐにプラスできる摂りやすさもメリットです。

●植物性タンパク質を多く含む主な食品(100g中)

<大豆製品>

  • きな粉(黄大豆/全粒大豆)……36.7g
  • 大豆(乾)……33.8g
  • 生湯葉……21.8g
  • 納豆……16.5g

<穀類>

  • マカロニ・スパゲッティ……12.9g
  • そば(生)……9.8g

【植物性タンパク質のメリット】

大豆は「畑の肉」と呼ばれるほど、タンパク質を豊富に含んでいます。大豆は加工品が豊富で様々な料理に使いやすく、簡単にタンパク質をプラスできます。穀類からもタンパク質は摂れます。主食なので摂りやすいのがメリットです。

監修 田中 明先生 たなか・あきら 女子栄養大学名誉教授、女子栄養大学臨床栄養医学研究室教授/栄養クリニック所長

田中 明先生 近影

医学博士、糖尿病専門医、糖尿病研修指導医、元東京医科歯科大学医学部臨床教授、元日本健康栄養食品協会学術委員。
1976年東京医科歯科大学医学部医学科卒業後、東京都立府中病院内科(糖尿病)医長、東京医科歯科大学第3内科講師などを経て、2007年より現職。栄養クリニックでは生活習慣病の診察と予防教育を行う他、各種健康雑誌、テレビ番組などで監修を行う。著書多数。

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