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乳の価値
人と乳の素敵な関係
乳は「食品としてつくられた唯一の天然物」と考えられ、長い歴史の中で世界中から愛され、私たちの健やかな暮らしに役立っています。牛から搾られた生乳(せいにゅう)から、さまざまな加工技術で牛乳やチーズ、ヨーグルト、バター、クリームなど、多彩な乳・乳製品が生まれる過程を「木」に例えたものが「ミルクツリー」です。乳は命を大切に育むための知恵のかたまりなのです。
それぞれの動物で乳の成分は違う?!
哺乳動物の乳は、子供の成長に最適な乳成分を備えています。例えばクジラやオットセイなどの海に棲む哺乳動物は、赤ちゃんに海の中でも授乳しやすいように乳固形分40%以上で乳脂肪分30%以上の濃厚な半固形状の乳を出します。ウサギやネズミなど成長速度の速い動物の乳は、乳清たんぱく質とミネラルのバランス、さらにミネラル中のカルシウムとリンの含有量が多いのが特徴です。半面、人間は体の成長速度が哺乳動物の中では最も遅いため、たんぱく質やミネラルは少なくなっています。脳の発達速度が体の成長速度に比べ速いため、脳や神経の発育に欠かせない乳糖が7%と最も多く含まれているのも人間の乳の特徴です。
哺乳動物の発育と乳成分組成の関係(出生体重の倍増日数)
乳と人の壮大な歴史
私たち人間が、羊や山羊の乳を利用し始めたのは約1万年前の西アジアです。牛に関しては、それより少し後で、6,500年前には農耕にも使われ家畜化されていました。ヨーロッパでは、約5,000年前頃の古い人骨の歯石からβ-ラクトグロブリンという乳清タンパク質の一種が見つかっています。この乳たんぱく質は人乳にはない成分で、当時のヨーロッパで動物の乳を飲んでいたことが明らかになっています。それ以前は、フランス・ラスコーの洞窟画で見られるように、野生の牛は狩猟の対象だったと考えられています。
私たち日本人が牛乳を飲用するようになったのは、諸説あるようですが仏教伝来の時期と言われています。
- 【 世界の歴史 】
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約4,000~5,000年前
古代エジプトやメソポタミアでは、牛から乳を搾って飲んでいたことを示す壁画やレリーフが見つかっています。 -
旧約聖書の時代(アブラハム:約4,000年前 モーゼ:約3,300年前)
旧約聖書には、アブラハムが「発酵乳と新鮮な牛乳で三人の天使をもてなした」と記されています。また、モーゼは、「発酵乳は最高唯一神であるエホバが、民衆に与えた食べものである」と旧約聖書で讃えています。 -
釈迦の時代(約2,400年前)
仏教の開祖である釈迦(しゃか)は、厳しい修行で衰弱した際に村の少女が差し出した乳粥(かゆ)のおいしさに驚き、元気を取り戻したと言われています。 -
匈奴の時代(約2,000~2,300年前)
モンゴル高原で活躍した匈奴(きょうど)が騎馬民族国家をつくり、馬や羊、牛を遊牧して乳を食用していたと言われています。モンゴルでは、今も独自の乳加工品が受け継がれています。 -
新約聖書の時代(イエス・キリスト:約2,000年前)
新約聖書では、救世主キリストが「滋養に富んだ大事な飲みものである」と乳について説いたと書かれています。
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乳の歴史をひも解くと、西アジアで始まった牧畜がその発展とともに、ヨーロッパやモンゴル、チベット、インドヘと広がり、乳の利用が普及していったと考えられています。
- 【 日本の歴史 】
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飛鳥・奈良時代(592年~794年)
大化の改新(645年)頃に、百済(くだら)からの渡来人で智聡(ちそう)の子の善那(ぜんな)が、孝徳(こうとく)天皇に牛乳を献上したのが始まりと言われています。大宝律令(たいほうりつりょう)(701年)で、「官制の乳戸(にゅうこ)」と呼ばれる酪農家が集められ、都の近くで皇族用の搾乳場がつくられ牛乳を献上しました。また、元正天皇の時代には、牛乳を煮詰めてつくる「酥(そ)」の献上を七道諸国に命じています。
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平安時代(794年~1185年)
醍醐(だいご)天皇の時代に「貢酥(こうそ)の儀」の順番や献上する容器が、法典『延喜式(えんぎしき)』に定められました。
『医心方(いしんぽう)』という日本最古の医術書にも「牛乳は全身の衰弱を補い、通じを良くし、皮膚を滑らかに美しくする」と書かれています。 -
江戸時代(1603年~1868年)
1596年に海外の宣教師が、貧民の幼児を集めて牛乳を飲ませる乳児院を長崎に建てましたが、キリシタン弾圧により廃止されました。1727年に8代将軍吉宗は、馬の医療用に牛乳が必要であることをオランダ人に教えられ、白牛3頭をインドから輸入して房総で飼育を始めました。これが日本の近代酪農の始まりだといわれています。
開国により外国人の居留が始まり、1863年に前田留吉(とめきち)がオランダ人から牛の飼育や搾乳を学んで、日本で初めての牛乳搾乳所を横浜に開き、牛乳の販売を開始しました。
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明治時代(1868年~1912年)
1869年に熊本出身の町田房造(ふさぞう)が、横浜で「あいすくりん」としてアイスクリームの製造販売を開始しました。1871年に新聞や雑誌に「天皇が毎日2回ずつ牛乳を飲まれる」という記事が掲載され、国民に牛乳が知られ、1872年にはミルクホールが出現しました。さらに1873年にバターの製造開始、1875年にチーズの製造開始と続き、牛乳および乳製品は広く日本に普及していきます。
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現代では、戦後に私たちの生活が欧米化し、1948年に学校給食に牛乳が採用されたことから、牛乳の消費量は飛躍的に伸びました。
命をつなぐ栄養「乳」
牛乳は、栄養素が豊富な準完全栄養食品として知られています。仔の成長に必要なほぼすべての栄養素(たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなど)が含まれています。ただし、ビタミンC、鉄、食物繊維などは少量になっています(これらは子牛は必要としないからです)。特にカルシウムやたんぱく質、乳糖などを豊富に含みます。さらに、栄養素が未発達な仔の消化器官でも吸収しやすい状態(微粒子)で存在しているのも特長です。簡単にそのまま飲むことができ、さまざまな料理にも利用できます。また、多彩な乳製品がつくられ、栄養素が凝縮されたり、分解されたりすることで、人にとってさらに利用価値が高まっています。
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仏教の経典でも乳製品のおいしさが!?
『大般涅槃経(だいはつねはんぎょう)』には「牛より乳を出し、乳より酪(らく)(ヨーグルト)を出し、酪より生酥(せいそ)(濃縮乳)を出し、生酥より熟酥(じゅくそ)を出し、熟酥より醍醐(だいご)(チーズかバターオイルのようなもの)を出す」とあり、醍醐は最高の美味とも書かれています。醍醐という言葉は、「仏の最上の経法」の意味で、乳と仏教の深い関りを示しています。
世界中で「牛乳の日」?
2001年に国連食糧農業機関(FAO)は、牛乳に対する関心を高め酪農・乳業の仕事を多くの人に知ってもらうことを目的に、6月1日を「World Milk Day(世界牛乳の日)」と定めました。日本では日本酪農乳業協会(現 Jミルク)が平成19年(2007年)に6月1日を「牛乳の日」、また、6月を「牛乳月間」と定めました。