【助産師監修】母乳が出ないときはどうすればいい?原因や出ないときの対処方法について

母乳が出ないと、「どうすればよいのか?」と不安になる方も多いでしょう。
この記事では、母乳が出ないときの原因や対処方法について紹介します。ぜひ参考にしてみてください。

この記事の監修者

  • 氏名:古市 菜緒
    経歴:保有資格 助産師・看護師・保健師
    助産師として1万件以上の出産に携わり、講座の受講者は年間3万人を超える。企業の開発支援、産院のコンサルタント、国・自治体の母子保健関連施策などにも従事。株式会社バースリンク代表取締役、2児の母。

母乳はいつから出るのか?

母乳が出始める時期は個人差が大きく、出産直後から出る人もいれば、数日かかる人もいます。一般的には産後2日目以降から母乳の分泌が徐々に増え始めることが多く、完全に安定するのは産後1ヵ月から3ヵ月頃が目安です。これは母乳分泌に関係するホルモンの影響によるものです。

母乳に関係するホルモン

プロゲステロン

プロゲステロンは、妊娠中に母乳の分泌を抑えながら乳腺を準備するホルモンで、出産後に分泌が減ることで母乳が作られるようになります。

プロラクチン

プロラクチンは、乳頭の刺激で分泌が促され、母乳を作る働きを持つホルモンで、授乳回数や刺激が多いほど母乳が活発に作られるようになります。

オキシトシン

オキシトシンは、乳腺周囲の筋肉を収縮させて母乳を乳管から乳頭へ押し出す(射乳反射)の役割をもつホルモンで、乳頭の刺激などで分泌されます。

ホルモンの働きや分泌には個人差があるため、母乳が出始める時期や量にも大きな差が生じます。多くの場合、授乳を続けることでホルモン分泌が促進され、母乳分泌は安定していくようになります。

母乳が作られるメカニズムとは?

母乳が作られるメカニズムについて、3つにわけて解説します。

出産後、母乳が出始めるきっかけ

分娩が終了すると、母乳分泌を抑えていたプロゲステロンというホルモンの分泌が急激に減少し、母乳をつくるスイッチが入ります。

母乳作りを支える2つのホルモンの働き

出産後、赤ちゃんが乳頭を吸うと、その刺激が母親の脳に伝わり、プロラクチンとオキシトシンの2つのホルモンが分泌され母乳が出ます。

母乳量は需要と供給で調節される

母乳分泌は「需要と供給」の原理で調節されています。
産後初期はホルモンによる調節が主体ですが、産後9日以降は赤ちゃんが飲んだ分だけ作られる自動調節システムに移行します。
つまり産後しばらくすると、赤ちゃんが飲んだ量だけ作られるようになり、余分に乳母乳が作られることがなくなります

母乳が出ない原因

母乳が十分に出ないと感じると、「どうして?」と不安になるママも多いでしょう。実は母乳の分泌には、さまざまな要因が影響しています。ここでは、母乳が出にくくなる主な原因について解説します。

赤ちゃんがおっぱいを吸う回数が少ない

授乳回数が少ないと母乳の分泌量が減少してしまいます。赤ちゃんがおっぱいを吸うと、お母さんの脳から母乳を作るホルモンが分泌されます。このホルモンは、赤ちゃんがおっぱいを吸うたびに分泌される仕組みになっています。
つまり、授乳回数が少ないとホルモンが分泌される機会も減ってしまい、結果として母乳が出なくなってしまうのです。

ママに疲労やストレスが溜まっている

疲労やストレスが溜まっていると母乳の分泌が悪くなってしまいます。母乳を作るホルモンと母乳を押し出すホルモンがありますが、ストレスによってこれらのホルモンの分泌が減少してしまうからです。産後は慣れない育児や睡眠不足、食欲の低下などが重なるため、ストレスが溜まりやすくなります。ストレスが強くなると、特に母乳を押し出すホルモンの分泌が抑制されるため、結果として母乳が出にくいという状況に陥るのです。

ママの栄養や水分が足りていない

母乳はママの血液から作られるため、ママの栄養状態や水分摂取量が母乳の分泌に直接影響します。例えば、母乳の約9割は水分でできているので、体内の水分が不足すると母乳の分泌量が減少することが知られています。また、栄養バランスが乱れると、母乳の量や質が低下することがあります。
つまり赤ちゃんのお世話に追われて水分補給が十分でなかったり、食事が不規則になったりすると、母乳の量だけでなく質の面でも悪影響を与える可能性があるのです。

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母乳が出ないときの対処方法

母乳がうまく出ないと、心配になるママもいるでしょう。ここでは、母乳が出ないときの対処法をいくつかご紹介します。ママが無理せず、自分のペースで取り組めるものからはじめましょう。

赤ちゃんにおっぱいを吸ってもらう回数を増やす

母乳の分泌を増やすためには、赤ちゃんにできるだけたくさんおっぱいを吸ってもらうことがとても大切です。赤ちゃんが乳頭を吸う刺激が多いほど、「プロラクチン」と「オキシトシン」という母乳を作るホルモンの分泌が活発になるからです。

プロラクチンは乳腺で母乳を作り出し、オキシトシンは母乳を乳管から乳頭へ押し出す働きをします。この2つのホルモンがうまく作用することで、母乳の量が増えて赤ちゃんも満足しやすくなります。

休息をとる

休息をしっかりとることは、母乳の分泌を安定させるために非常に重要です。疲労やストレスは母乳に関わるホルモンの分泌を妨げ、母乳の量や質に影響を与えることがわかっています。

特に強いストレスはホルモンバランスを乱し、母乳中の免疫成分にも影響を及ぼします。また、産後の疲労は自律神経の働きを低下させ、乳腺を刺激するホルモンの分泌を減らしやすくなります。だからこそ、十分な休憩と良質な睡眠を確保し、リラックスした時間を持つことが大切です。

休息をしっかり確保するためにも、家族や周囲の人に助けを求めましょう。ひとりでは無理をせず、サポートを受けながら、心身ともにゆったりとした環境が、母乳育児を助けるよい循環をつくります。

参照元:那須野 順子 ほか(2018‐2025)「産褥期にある母親の自律神経機能の疲労度解析による授乳支援プログラムの開発」

食生活を見直す

母乳の質と量を保つためには、産後も鉄分、カルシウム、葉酸などの栄養素をしっかり摂ることが大切です。

鉄分は、母乳を通じて赤ちゃんに優先的に届けられるため、ママの体内の鉄分が不足しやすくなります。鉄は血液中のヘモグロビンの主成分で、酸素を全身に運ぶ役割があり、赤ちゃんの健やかな成長とママの健康維持には欠かせません。出産時の出血や母乳を作る過程でママの鉄分は消耗されるため、授乳期は特に積極的に鉄分を補う必要があります。

葉酸は赤血球の生成に関わるビタミンで、母乳の質の維持にも関係しています。カルシウムは赤ちゃんの骨の発育に欠かせず、ママの骨密度低下を防ぐためにも十分な摂取が望まれます。

母乳を続けるためにも、これらの栄養素を特に意識しながら、脂っこい食事や過度に高カロリーな食事は控え、和食を中心に魚や野菜、豆製品などをバランスよく取り入れましょう。まずは、無理のない範囲で続けることが大切です。

参照元:厚生労働省 妊娠中・産後のママのための食事BOOK

参照元:厚生労働省 産後の食生活のポイント

ミルクを併用する

母乳のみでの育児を続けようと無理をすると、ママの体や心に大きな負担がかかってしまいます。そんなときは、ミルクを適宜併用することが大切です。ミルクを加えることで、赤ちゃんに必要な栄養を十分に与えることができ、成長をしっかりサポートできます。

また、ミルクはパパや家族など、ママ以外の人も授乳ができるため、ママが休みたいときや体調がすぐれないときに大きな助けになります。ママが無理をして疲れをため込むよりも、周囲のサポートを受けながら心身の負担を減らすことが、母乳育児を長く続けるうえでも重要です。

母乳のメリットを活かしつつ、ミルクの良さも取り入れ、ママと赤ちゃんにとって無理のない最適な授乳方法を見つけましょう。

おっぱいマッサージをする

おっぱいマッサージは、母乳トラブルなどの予防が期待できます。ただし、自己流のマッサージは乳房の張りを悪化させたり、乳腺炎の原因になったりすることがあるため、必ず専門家の指導を受けてからおこなうようにしましょう。

マッサージ前の準備

乳頭や乳房をマッサージするときは、まず、手を清潔にし、爪は短く切っておきましょう。マッサージの際は、肌をやわらかくして滑りやすくするために、専用のオイルなどを使うのがおすすめです。これにより摩擦が減り、マッサージがより快適におこなえます。

乳頭のマッサージは体が冷えていると痛みを感じやすいため、入浴後など血行がよい良いときにおこなうのがおすすめです。乳房全体のマッサージでは、母乳が洋服に付くこともあるため、あらかじめ清潔なタオルを数枚用意しておくと安心です。

乳頭マッサージの手順

手順1

5本の指の腹を乳輪の周りに置き、体に向かって優しく圧迫し、1分程度キープします。指の位置を変えながら、この動作を乳輪全体に繰り返しましょう。ここで痛みがある場合は、無理せずここだけおこないましょう。

手順2

次に親指と人差し指、中指の3本で乳頭の根元をつかみ、優しく圧迫します。このとき力を入れすぎないように注意してください。位置を変えながら全体におこないます。痛みがある場合は無理せずここまでにしておきましょう。

手順3

最後に乳頭の根元を痛くない程度につまみ、縦・横・斜め方向にゆっくり引っ張る動きを3回ほど繰り返します。乳頭を強く引っ張りすぎないように気をつけましょう。余裕があれば、乳頭の根元をつかんだまま、ねじるように乳頭の先端に向かって揉みほぐします。

手順4

手順1から手順3を片方5分ほどおこないます。

乳房マッサージの手順

横方向のマッサージ

マッサージをする乳房とは反対側の手(例:右の乳房をマッサージする場合は左手)の指4本(人差し指~小指)の手の指を使い、乳房の外側の基底部(乳房の付け根部分、ブラジャーのワイヤーが当たる辺り)に指を沿わせて、乳房全体を下から支えるように包み込みます。

マッサージする側の手(例:右の乳房なら右手)の手のひらを使って、乳房を横方向(脇から胸の中心に向かって)にやさしく押します。これを3〜5回繰り返します。

斜め方向のマッサージ

マッサージをする乳房とは反対側の手(例:右の乳房をマッサージする場合は左手)の小指の側面を乳房の外側斜め下の基底部に沿わせ、両手の位置を少し下のほう方にずらし、マッサージする側の手(例:右の乳房なら右手)を上からそえます。

そこから斜め下から斜め上に向かって(鎖骨の方向へ)乳房を包み込むように押していきます。これを3〜5回繰り返します。

下から上方向へのマッサージ

乳房を支えていた手をそのまま真下にずらし、マッサージをする乳房とは反対側の手(例:右の乳房をマッサージする場合は左手)の小指の側面をしっかり基底部に沿わせ、マッサージする側の手(例:右の乳房なら右手)は上からそえます。

乳房を下からしっかりと支え、真上に向かって優しく押上げます。これを3〜5回繰り返します。

上記の各方向からのマッサージを片方3〜5分にかけておこないます。

これらのマッサージは痛みを感じない程度の優しい力加減でおこない、長時間の強いマッサージは避けましょう。もし痛みやしこりがある場合は、無理をせず専門家に相談してください。

母乳が出ないからといって焦らず、できるところから見直そう

母乳が思うように出なくて不安になったり、心細く感じたりするママは決して少なくありません。そんなときこそ、焦らずにゆっくり向き合い、できることから少しずつ見直していくことが大切です。授乳の方法や生活習慣、食事のバランスを整えていくことで、母乳の分泌が徐々に良くなることもあります。

また、ひとりで悩まずに、産院や母乳外来、助産師など専門家のサポートを積極的に受けることもおすすめします。ママも赤ちゃんも健やかに過ごせるよう、周りの力を借りながら少しずつ前へ進んでいきましょう。

しかし、どんなに頑張っても、体調やさまざまな状況によっては十分に母乳が出ないこともあります。そんなときは、どうか自分を責めず、ミルクの力も上手に活用してください。ミルクはママの心身の負担を軽減してくれる大切なサポート役です。

母乳を優先しつつも、無理をせず赤ちゃんに必要な栄養をしっかり届けるために、母乳の栄養バランスに近づけて作られた乳児用ミルク「明治ほほえみ」も、ぜひご検討ください。鉄分や亜鉛など、赤ちゃんの成長に欠かせない成分がしっかりと配合されています。ミルクも上手に取り入れながら、ママが無理せず、安心して笑顔ですごせることを心から願っています。

明治ほほえみ