日本人は昔から、生活にめぐみをあたえてくれる自然をとてもたいせつにし、敬いながら暮らしてきました。人々は自然の中に神様を感じ、その神様に豊作や大漁をいのり、収かくのよろこびと感謝を表すために、季節の節目に祭りをとりおこなってきました。みこしを担いだり、つな引きをしたり、音楽を奏でておどったりと、盛大に祝う祭りは今も各地域に根付いています。
このように自然からいただいた食べ物に感謝して日本の食文化は、はぐくまれてきました。
日本は南北に長くのびた列島で、海や川、山、平野などさまざまな地形があります。地域ごとの気候や風土にもずいぶんちがいがあり、その土地ならではの四季折々の海の幸・山の幸にめぐまれています。
これまで、そうした自然の味をいかした料理を作り、たいせつに食べてきました。食材をむだなく使うために調理や保存にくふうをし、四季を味わうために料理の器、盛り付け、部屋のかざりに気を配り、お正月などの行事に合わせた特別なごちそうを作り出してきました。
このように自然のめぐみを尊重しつつ、暮らしの中で伝えられてきたくふうの上に、海外の食材や料理をじょうずに取り入れて、1つの文化をはぐくんできました。これが、和食の文化として評価され、無形文化遺産に指定されました。
和食は、「ごはん」、「汁物」、「おかず」、「つけ物」の組み合わせが基本形です。「ごはん」を中心に、「汁物」と「おかず」の何品かが加わります。たとえば、ごはんにみそ汁、またはすまし汁などの汁物が1品付くことを「一汁」。そして大きなおかず(たいてい肉や魚が使われ、これを主菜といいます)に加え、和え物やおひたしなどの小さなおかず(副菜)が1~2品付くことを「二菜」、「三菜」などといいます(つけ物は三菜には含まれません)。これらを合わせたものを「献立」といい、平安時代の終わりごろから現在にいたるまで長く引きつがれてきました。
具がたくさん入ったみそ汁やたきこみごはんはおかずの役目もはたしますので、おかずの数を気にするより、主菜を魚や肉類を中心にしたものにするとよいでしょう。副菜にいろいろな野菜類を組み合わせるなど、身近にある季節の野菜や海産物、肉などのいろいろな食材を取り入れることを心がけると自然に栄養バランスのよい食事になります。
また、カレーライスやどんぶり物など、一皿にごはんとおかずを盛り付けた料理や、すしや、うどん・そばなどのめん料理も、基本の形とは少しちがいますが、和食といえます。
和食には、昔からある料理のほかに、海外から伝わった料理を時間をかけて独自のものに変化させた料理があります。
カレーライスやカレーうどん、ラーメン、コロッケ、オムライス、とんかつ、スパゲティナポリタン、あんパンなどは、海外の食材や料理を日本の食習慣に合うようにくふうして作られた和食です。しょうゆで味付けされている肉じゃがやすき焼きも、海外から来た食材を和食に変化させた料理です。
春、夏、秋、冬とはっきりとした四季があり、和食にはその季節ごとにしか味わえないさまざまな食材が取り入れられてきました。そのような食材を「旬」といいます。
また、南北に細長く、海や山に囲まれた地形から、地域ごとに風土が異なり、各地にその土地ならではの伝統的食材や伝統料理が生まれました。それを「郷土食」または「郷土料理」といいます。
発酵食品とは、微生物が食品を分解する働きにより作られた食品のことをいいます。伝統的な和食の調味料のしょうゆ、みそ、かつお節、納豆、つけ物なども発酵食品の仲間です。
発酵食品の特ちょうには、「保存がきく」、「栄養価が高まる」、「独特の風味や香りが付き、おいしくなる」などがあげられます。
監修 : 江原絢子(東京家政学院大学名誉教授)