「和食」のポイント 和食に欠かせないだし、しょうゆ、みそなどの伝統的な調味料や、季節感を味わうさまざまな食材、海外から伝来して日本に根付いた野菜が、和食のおいしさと健康のもとです。

和食を支えるえんの下の力持ち「だし」~うま味が「味」をひきたてる~

食べ物の味には「あまい、すっぱい、しょっぱい、にがい」などの種類がありますが、ほかに、この中のどれにもあてはまらない味「うま味」があります。和食は、このうま味を作り出す「だし」をとても大事にしています。かつお節やこんぶからとるだしには何ともいえないおいしさがありますが、これがうま味です。和食はこのうま味をじょうずに使うことで、素材そざいの味をいかしながら、深みのあるおいしい味を作り出してきました。

かつお節/こんぶ煮干し/干ししいたけ

水の大切さ

水は、人間が生きていくための自然のめぐみとして大切なものです。日本の平均へいきん雨量は年間およそ1800mmもあり、これは世界平均へいきんの2倍にあたる雨の量です。この豊富ほうふな水は、日本の食文化をはぐくむ上で重要な役割やくわりをはたしてきました。
雨や雪どけ水は、地層ちそうにしみわたり、だしのうま味のもとであるこんぶやかつお節などの持ち味をよく引き出してくれるおいしい水になります。そのため、だしを使うしる物や物やなべ物などの料理が発達したともいえます。冷ややっこやおひたし、流しそうめん、魚をあらっておさしみ(おつくり)にすることにも水をふんだんに使います。しつのよい水により、素材そざいそのものの持ち味がいかされたおいしい和食が生まれました。

すまし汁/冷ややっこ/おひたし/おさしみ

発酵させてできた調味料

①しょうゆ

しょうゆは、大豆と小麦にこうじきんと塩水を加えて発酵はっこうさせた「もろみ」をしぼって作る調味料です。とうふにかけたり、おさしみにつけたり、魚料理などに焼き色やかおりをつけたりと、多くの和食の味付けに使われています。

しょうゆ

しょうゆの種類

地域ちいきにはさまざまなしょうゆがあり、その原料や製造せいぞう方法によって、色合いや味がちがいます。おおまかには関東を中心に日本列島を北に行くほどしょっぱい味が強いものが好まれ、九州など南に行くほどあまい味が強いものが好まれます。また、北陸や東北などの地域ちいきでは、うま味の強いこい味も好まれるようです。

こい口しょうゆ

一番よく見かけるしょうゆで、全国の出荷量の約8わりはこい口です。食欲しょくよくをそそるこうばしいかおり、とう明感のある明るい赤だいだい色です。

こい口しょうゆ
うす口しょうゆ

色がうすいので、色を付けたくない白い野菜の物などに最適さいてきです。塩分はこい口しょうゆより1わりほど高めです。

うす口しょうゆ
たまりしょうゆ

大豆が主な原料で、とろみがありのうこうなうま味と独特どくとくかおりが特ちょうです。「さしみたまり」ともばれるように、おさしみを引き立てるしょうゆです。

たまりしょうゆ
再仕こみしょうゆ

原料の食塩水の代わりに、でき上がったしょうゆを使ってふたたび仕こみをするので、再仕さいしこみとばれます。
色、味、かおりともにのうこうで、とろみがあります。

再仕こみしょうゆ
白しょうゆ

小麦が主な原料で、大豆をごくわずか使う点が他のしょうゆとことなります。うす口よりもさらにうすいこはく色。たん白ですが、あまの強い味わいが特ちょうです。

白しょうゆ

しょうゆは何から作られる?

調味料としてのしょうゆの魅力みりょくは、なんといっても色・味・かおり。味は主に大豆のたんぱくしつから、かおりは小麦のでんぷんから、それぞれ生物の働きにより生まれます。また色は、たんぱくしつから得られたアミノさんと、でんぷんから得られたブドウとうが組み合わされて生まれます。こうじきん乳酸菌にゅうさんきん酵母こうぼなどの生物の働きを調節するのが食塩。すべての原材料がたがいに作用し合い、じっくり時間をかけて発酵はっこう熟成じゅくせいし、しょうゆが誕生たんじょうします。

主役は大豆(脱脂加工大豆)、小麦、食塩

大豆・脱脂加工大豆
大豆・脱脂加工大豆

大豆の主成分のたんぱくしつが、こうじきんのたんぱくしつ分解酵素ぶんかいこうそ(プロテアーゼ)により分解ぶんかいされ、しょうゆのうま味成分のアミノさんを生みます。脱脂だっし加工大豆とは、しょうゆ製造せいぞう上必要なたんぱくしつを残し、あまり必要のない脂肪しぼう分をあらかじめ取りのぞいたものです。

小麦
小麦

小麦の主成分のでんぷんがこうじきん酵素こうそ(アミラーゼ)の働きでブドウとうに変わり、あまとコクを生み出します。さらにブドウとう乳酸菌にゅうさんきんにより乳酸にゅうさん酢酸さくさんなどの有機酸ゆうきさんに変化し、塩からさをやわらげ、しょうゆの味をひきしめます。ブドウとうの一部は酵母こうぼの働きでアルコールに変わり、かおりを高める働きをします。

食塩
食塩

食塩は仕こみの段階だんかいで水にとかして加えられ、塩味のもととなります。また、乳酸菌にゅうさんきん酵母こうぼといった有用な生物をゆるやかに働かせるために重要な役割やくわりをになっています。

②みそ

大豆にこうじと塩をぜて発酵はっこうさせたみそは、みそしるに欠かせない調味料です。
みそは発酵はっこうに使うこうじの種類によって「米みそ」「豆みそ」「麦みそ」の3種があります。大豆はどのみそにも使われます。

みそ

米みそ 加熱した大豆+米こうじ+塩

米みそ

豆みそ 蒸した大豆(豆玉)+種こうじ+塩

豆みそ

麦みそ 加熱した大豆+麦こうじ+塩

麦みそ

日本の各地には種類がちがうみそがあります。

米みそ、豆みそ、麦みその分布図 お国自慢みそマップ(農林水産省)

③その他の発酵調味料

酢

酢

には、主に米から作られる米酢こめず、麦などの穀物こくもつから作られる穀物酢こくもつす、りんごなどの果物くだものから作られる「果実があります。

みりん

みりん

みりんはもち米と米こうじ、お酒のしょうちゅうから作られます。あまい味をつけるほか、コクとうま味を出したり、くずれをふせいだり、つや出しにも使われます。

旬をいかす~日本の四季~

食材には、1年を通して、よくとれる時期と、もっともおいしい季節があり、これを「しゅん」といいます。現在げんざい食品の流通が発達して、食べ物によっては、しゅんに関係なくビニールハウスでさいばいされたものや、外国から輸入ゆにゅうされたものなど、1年中出回っているものもあります。しかししゅんの食材は、栄養が高く、味もよく、その季節にたくさん出回って値段ねだんが安くなります。しゅんより少し前のものを「はしり」、しゅんを少しぎたものを「なごり」といいます。和食はこれらの季節感を大事にして、それぞれに合った料理をくふうしてきました。

また特に秋は、「実りの秋」、「しゅうかくの秋」といわれ、米などの穀物こくもつ果物くだものなどがゆたかに実ります。寒くなり、雪で閉ざされることが多い冬をむかえる前にゆたかに実った食べ物を利用して冬をこします。あたたかくなる春に芽ぶき、夏にぐんぐん育って秋に実を結ぶという1年の流れが日本の四季にあります。

【春】たけのこ/ふきのとう/菜の花/あさり【夏】とうもろこし/きゅうり/すいか/あゆ【秋】さんま/栗/柿/まつたけ【冬】みかん/ぶり/だいこん/白菜

季節を表現する

日本人は、料理をうつわで四季を感じたり、おもてなしの席には季節の花をかざったりして、しゅんの食たくをいろどるくふうをしてきました。こうしてうつりゆく季節を楽しむのも和食の大きな特ちょうです。

そうめん

外国から来た野菜

野菜類のほとんどが海外から伝来

ごぼう、じゃがいも、にんじんなど、いまお店で見かける野菜の多くは昔から日本にあるものと思いがちです。ところが、実はそのほとんどが海外から伝わったもので、それを地域ちいきごとの自然に合うように改良してさいばいし、定着させました。

ごぼう

和食によく使われますが、実はシベリアやヨーロッパの北部が産地といわれていて、日本で食用としてさいばいされるようになりました。

じゃがいも

江戸えど時代初期に伝来し、きんの時の食料にしていましたが、明治時代以降いこう、西洋料理が入ってくるとそのおいしさが知られるようになり、肉じゃがやコロッケを作るようになりました。

にんじん

江戸えど時代以前に伝来して、物、え物などに広く使用されました。現在げんざい三寸さんずんにんじんなどは、明治時代以降いこうに出回りました。

トマト

江戸えど時代に伝来しましたが、当時は観しょう用でした。明治時代以降いこうに食用とされ、ケチャップなどが作られるようになると、チキンライス、オムライスの調味料としても使用するようになりました。

白菜

結球白菜はくさい現在げんざい白菜はくさい)という葉が重なっているものは、明治時代以降いこうに中国より伝来しました。昭和期になってから、家庭のつけ物やなべ物などに利用されるようになりました。

玉ねぎ

江戸えど時代に伝来しましたが、独特どくとくかおりのためなかなかふきゅうせず、本格ほんかく的に広まるのは明治時代以降いこうです。

牛乳‏・乳製品

平安時代の貴族きぞくは利用していましたが、江戸えど時代後期になるまで発展はってんしませんでした。明治時代以降いこうふたたび利用され始め、現在げんざいは、日本料理店で茶わんしなどに使われたり、まっ茶アイスクリームなどで日本的な食材と組み合わせたりとじょうずにくふうして食べています。

監修 : 江原絢子えはらあやこ(東京家政かせい学院大学名誉教授めいよきょうじゅ