しょうゆは、大豆と小麦にこうじ菌と塩水を加えて発酵させた「もろみ」をしぼって作る調味料です。とうふにかけたり、おさしみにつけたり、魚料理などに焼き色や香りをつけたりと、多くの和食の味付けに使われています。
食べ物の味には「あまい、すっぱい、しょっぱい、にがい」などの種類がありますが、ほかに、この中のどれにもあてはまらない味「うま味」があります。和食は、このうま味を作り出す「だし」をとても大事にしています。かつお節やこんぶからとるだしには何ともいえないおいしさがありますが、これがうま味です。和食はこのうま味をじょうずに使うことで、素材の味をいかしながら、深みのあるおいしい味を作り出してきました。
水は、人間が生きていくための自然のめぐみとして大切なものです。日本の平均雨量は年間およそ1800mmもあり、これは世界平均の2倍にあたる雨の量です。この豊富な水は、日本の食文化をはぐくむ上で重要な役割をはたしてきました。
雨や雪どけ水は、地層にしみわたり、だしのうま味のもとであるこんぶやかつお節などの持ち味をよく引き出してくれるおいしい水になります。そのため、だしを使う汁物や煮物やなべ物などの料理が発達したともいえます。冷ややっこやおひたし、流しそうめん、魚を洗っておさしみ(お造り)にすることにも水をふんだんに使います。質のよい水により、素材そのものの持ち味がいかされたおいしい和食が生まれました。
各地域にはさまざまなしょうゆがあり、その原料や製造方法によって、色合いや味がちがいます。おおまかには関東を中心に日本列島を北に行くほどしょっぱい味が強いものが好まれ、九州など南に行くほどあまい味が強いものが好まれます。また、北陸や東北などの地域では、うま味の強いこい味も好まれるようです。
一番よく見かけるしょうゆで、全国の出荷量の約8割はこい口です。食欲をそそるこうばしい香り、とう明感のある明るい赤だいだい色です。
色がうすいので、色を付けたくない白い野菜の煮物などに最適です。塩分はこい口しょうゆより1割ほど高めです。
大豆が主な原料で、とろみがありのう厚なうま味と独特な香りが特ちょうです。「さしみたまり」とも呼ばれるように、おさしみを引き立てるしょうゆです。
原料の食塩水の代わりに、でき上がったしょうゆを使って再び仕こみをするので、再仕こみと呼ばれます。
色、味、香りともにのう厚で、とろみがあります。
小麦が主な原料で、大豆をごくわずか使う点が他のしょうゆと異なります。うす口よりもさらにうすいこはく色。たん白ですが、あま味の強い味わいが特ちょうです。
©しょうゆ情報センター
調味料としてのしょうゆの魅力は、なんといっても色・味・香り。味は主に大豆のたんぱく質から、香りは小麦のでんぷんから、それぞれ微生物の働きにより生まれます。また色は、たんぱく質から得られたアミノ酸と、でんぷんから得られたブドウ糖が組み合わされて生まれます。こうじ菌・乳酸菌・酵母などの微生物の働きを調節するのが食塩。すべての原材料がたがいに作用し合い、じっくり時間をかけて発酵・熟成し、しょうゆが誕生します。
大豆の主成分のたんぱく質が、こうじ菌のたんぱく質分解酵素(プロテアーゼ)により分解され、しょうゆのうま味成分のアミノ酸を生みます。脱脂加工大豆とは、しょうゆ製造上必要なたんぱく質を残し、あまり必要のない脂肪分をあらかじめ取り除いたものです。
小麦の主成分のでんぷんがこうじ菌の酵素(アミラーゼ)の働きでブドウ糖に変わり、あま味とコクを生み出します。さらにブドウ糖が乳酸菌により乳酸や酢酸などの有機酸に変化し、塩からさをやわらげ、しょうゆの味をひきしめます。ブドウ糖の一部は酵母の働きでアルコールに変わり、香りを高める働きをします。
食塩は仕こみの段階で水にとかして加えられ、塩味のもととなります。また、乳酸菌・酵母といった有用な微生物をゆるやかに働かせるために重要な役割をになっています。
©しょうゆ情報センター
大豆にこうじと塩を混ぜて発酵させたみそは、みそ汁に欠かせない調味料です。
みそは発酵に使うこうじの種類によって「米みそ」「豆みそ」「麦みそ」の3種があります。大豆はどのみそにも使われます。
©みそ健康づくり委員会
日本の各地には種類がちがうみそがあります。
酢には、主に米から作られる「米酢」、麦などの穀物から作られる「穀物酢」、りんごなどの果物から作られる「果実酢」があります。
みりんはもち米と米こうじ、お酒の焼ちゅうから作られます。あまい味をつけるほか、コクとうま味を出したり、煮くずれを防いだり、つや出しにも使われます。
食材には、1年を通して、よくとれる時期と、もっともおいしい季節があり、これを「旬」といいます。現在食品の流通が発達して、食べ物によっては、旬に関係なくビニールハウスでさいばいされたものや、外国から輸入されたものなど、1年中出回っているものもあります。しかし旬の食材は、栄養価が高く、味もよく、その季節にたくさん出回って値段が安くなります。旬より少し前のものを「はしり」、旬を少し過ぎたものを「なごり」といいます。和食はこれらの季節感を大事にして、それぞれに合った料理をくふうしてきました。
また特に秋は、「実りの秋」、「収かくの秋」といわれ、米などの穀物や果物などが豊かに実ります。寒くなり、雪で閉ざされることが多い冬をむかえる前に豊かに実った食べ物を利用して冬をこします。暖かくなる春に芽ぶき、夏にぐんぐん育って秋に実を結ぶという1年の流れが日本の四季にあります。
日本人は、料理を盛る器で四季を感じたり、おもてなしの席には季節の花をかざったりして、旬の食たくをいろどるくふうをしてきました。こうして移りゆく季節を楽しむのも和食の大きな特ちょうです。
ごぼう、じゃがいも、にんじんなど、いまお店で見かける野菜の多くは昔から日本にあるものと思いがちです。ところが、実はそのほとんどが海外から伝わったもので、それを地域ごとの自然に合うように改良してさいばいし、定着させました。
和食によく使われますが、実はシベリアやヨーロッパの北部が産地といわれていて、日本で食用としてさいばいされるようになりました。
江戸時代初期に伝来し、飢きんの時の食料にしていましたが、明治時代以降、西洋料理が入ってくるとそのおいしさが知られるようになり、肉じゃがやコロッケを作るようになりました。
江戸時代以前に伝来して、煮物、和え物などに広く使用されました。現在の三寸にんじんなどは、明治時代以降に出回りました。
江戸時代に伝来しましたが、当時は観賞用でした。明治時代以降に食用とされ、ケチャップなどが作られるようになると、チキンライス、オムライスの調味料としても使用するようになりました。
結球白菜(現在の白菜)という葉が重なっているものは、明治時代以降に中国より伝来しました。昭和期になってから、家庭のつけ物やなべ物などに利用されるようになりました。
江戸時代に伝来しましたが、独特な香りのためなかなかふきゅうせず、本格的に広まるのは明治時代以降です。
平安時代の貴族は利用していましたが、江戸時代後期になるまで発展しませんでした。明治時代以降、再び利用され始め、現在は、日本料理店で茶わん蒸しなどに使われたり、まっ茶アイスクリームなどで日本的な食材と組み合わせたりとじょうずにくふうして食べています。
監修 : 江原絢子(東京家政学院大学名誉教授)