稲作は、食料としてのお米を作るだけではなく、稲を脱穀したあとの稲わらで、なわやわらじ(はきもの)をあみ、家ちくの飼料や畑の肥料にしました。玄米を精米したあとの米ぬかは洗剤、肥料、たくあんづけやぬかづけのぬかどこなどとして、すべてをむだなく利用しました。白米も主食になるほかに、おかしやこうじ、日本酒、酢、みりんなどを作る材料になっています。
自然のめぐみである食べ物をむだなく保存するためのくふうの1つに「乾燥」があります。魚や野菜などを干して乾燥させると水分がぬけ、生のままより、長い間保存することができます。それだけでなく、太陽を浴びて風にあたると、味がしっかりして栄養価も高くなります。野菜、果物、海産物、あるいは肉なども、乾物にすることで、新しいおいしさになることを昔の人々は知っていました。
乾燥させることにはもう1つよい点があります。重さやかさが減るので、遠くの地にも運ぱんしやすくなります。遠い北の海で採れたこんぶが、関東や関西や遠く沖縄などに届けられるようになったのは、乾燥させて乾物になったからです。
干物、乾物などと呼ばれる保存食は、和食の重要な素材になっています。
「つけ物」の多くは、大根やかぶ、きゅうりなどの野菜をつけこんだ発酵保存食です。ぬかを使ったぬかづけや、塩を使った塩づけなどがあり、食材を発酵させることで味や香りがよくなります。つけ物は「お新香」、「おこうこ」、「香の物」などと呼ばれ、ごはんのお供に欠かせないものです。
冷蔵庫がなかった時代でも、野菜がたくさん出回る時期につけ物にしておけば、くさらせずに保存ができ、冬の大切な栄養源として重宝します。特に野菜がさいばいできない雪国などでは、なくてはならないものでした。
梅干し
梅の実を塩づけして干したもの(梅干しはつけ物ですが、発酵食品ではありません)。
たくあん
大根を干して水分を一部ぬき、塩とぬかを加えて発酵させたもの。江戸時代に全国に広まりました(現在は調味液につけて作るたくあんもあります)。
べったらづけ
大根をこうじにつけて発酵させたもの。
監修 : 江原絢子(東京家政学院大学名誉教授)