第4回 運動×ミルクプロテインで熱中症対策!

熱中症対策は、本格的な夏が来る前から始めましょう。最近の研究から、ややきつい運動後に牛乳や乳製品を摂取すると暑さに負けない体になることがわかっています。暑くなる前から筋力を高め、血液量を増やしておくことで熱中症になりにくい丈夫な体がつくられます。 そのための運動と栄養補給のポイントを知っておきましょう。

信州大学大学院医学系研究科 特任教授
能勢 博(のせひろし)先生
医学博士。信州大学医学系研究科スポーツ医科学講座教授(1995~2018)。NPO法人熟年体育大学リサーチセンター理事長(副理事長)(2004~)。京都府立医科大学・医学部卒。米国Yale大学・医学部John B. Pierce研究所留学(1985~1988)。趣味は登山。著書に「ウォーキングの科学」(講談社)、「インターバル速歩で健康になる!」(宝島社)など。ほか、NHK「ためしてガッテン」などマスコミ出演も多数。

運動中に起こりやすい熱中症

熱中症は高温多湿な環境で大量の汗をかき、体内の水分や電解質が失われてバランスが崩れ、体温の調節機能がうまく働かなくなった状態です。総務省消防庁によると熱中症で救急搬送された人数は、2010年約5万人、2011年約4万人。都道府県別では、東京都が最も多く、次いで埼玉県、大阪府。大都市を含む都府県で増加する傾向にあります。東京消防庁の動作別発生状況によると熱中症で救急搬送された人のうち運動に起因したものは、約41%。スポーツをしている時の発生が増加しています。
運動種目別に見ると発生件数が最も多いのは、野球。次いでラグビー、柔道、サッカー、剣道の順です。屋外の種目ばかりでなく、柔道、剣道などの室内の種目や登山、マラソン、長距離徒歩など長時間にわたるスポーツでも多く発生しています※1。学年や性別は中学生、高校生の男子が大半を占めますが※2、最近は登山やマラソンなどを楽しむシルバー世代も増えています。高齢者は若年者に比べて脱水を起こしやすく、体温の調節機能も低下しています。熱中症で亡くなる人は65歳以上が最も多く、約8割となっています※3。気温別では、気温28℃前後から熱中症で救急搬送される人が増え始めます。そのため、夏日になる前から熱中症対策をする必要があります。

※1
「学校の管理下における熱中症死亡事例の発生傾向」
場合別・スポーツ種目別発生傾向 昭和50年〜平成22年 (日本スポーツ振興センター)
※2
「学校の管理下における熱中症死亡事例の発生傾向」
学年・性別発生傾向 昭和50年〜平成22年(日本スポーツ振興センター)
※3
「人口動態統計」平成22年の熱中症による死亡者数について(厚生労働省)

動作発生別の状況 運動に起因したものは、約41% 出典:東京消防庁 発生要因動作別救急搬送人員

救急搬送時の気温と搬送人員 気温28℃前後から熱中症で救急搬送される人が増え始めます 出典:東京消防庁 気温別救急搬送人員 資料は、平成23年6月1日から9月30日までに熱中症(疑いを含む)で救急搬送された4040人を調査したもの。

暑熱環境で発生しやすいおもな症状

体には発生する熱と体の外に放散される熱のバランスをとって、体温を一定に保つ調節機能があります。熱中症は、このバランスが崩れた状態といえます。体から産生する熱が放散される熱を上回り、熱が体に留まるために体温が上昇します。運動中は筋肉で大量の熱が産生されます。そのため、気温がそれほど高くない日や短時間の運動でも熱中症を起こすリスクが高くなります。

運動によって大量の熱が発生しても、発汗によって皮膚の表面から熱がスムーズに放散されて血液の温度が下がれば体温は一定に保たれます。しかし、運動中は筋肉への血流を確保しながら皮膚への血流も増やしているため、血液中の水分が不足しやすくなります。こうなるとポンプの役目をしている心臓に血液が戻りにくくなり、血圧が維持できず、次のような熱中症の症状などが起こります。運動中は熱疲労や熱射病を起こしやすいので十分な注意が必要です。

・熱失神
めまい、失神、顔面蒼白、呼吸数の増加、唇のしびれなどの症状がみられます。皮膚の血管が拡張して血圧が低下します。
脳への血流が減少することで起こります。
・熱疲労
脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気などの症状がみられます。大量の汗によって十分な水分補給が間に合わず、
脱水によって起こります。
・熱けいれん
足、腕、腹部の筋肉などに痛みのあるけいれんがみられます。大量の汗によって血液中のナトリウム濃度が低下したときに起こります。長時間の運動や水だけを補給しているときにおこりやすい症状です。
・熱射病
応答が鈍い、言動がおかしい、意識がないなどの意識障害が現れます。体温を調節する中枢神経に異常が起きた状態で臓器障害を合併すると死亡率が高くなるため、注意が必要です。

熱中症の発生には、温度、湿度、輻射熱などの環境条件と運動の強度が影響します。運動による熱中症は適切な対処で防ぐことができます。熱中症予防のための運動指針を目安にして無理しないようにしましょう。

熱中症予防運動指針 35℃以上 運動は原則中止 WBGT31℃以上では、特別の場合以外は運動を中止する。特に子どもの場合は中止すべき。/31〜35℃ 厳重警戒(激しい運動は中止) WBGT28℃以上では、熱中症の危険性が高いので、激しい運動や持久走など体温が上昇しやすい運動は避ける。運動する場合には、頻繁に休息をとり水分・塩分の補給を行う。体力の低い人、暑さになれていない人は運動中止。/28〜31℃ 警戒(積極的に休息) WBGT25℃以上では、熱中症の危険が増すので、積極的に休息をとり適宜、水分・塩分を補給する。激しい運動では、30分おきくらいに休息をとる。/24〜28℃ 注意(積極的に水分補給) WBGT21℃以上では、熱中症による死亡事故が発生する可能性がある。熱中症の兆候に注意するとともに、運動の合間に積極的に水分・塩分を補給する。/24℃未満 ほぼ安全(適宜水分補給) WBGT21℃未満では、通常は熱中症の危険は小さいが、適宜水分・塩分の補給は必要である。市民マラソンなどではこの条件でも熱中症が発生するので注意。 出典:熱中症予防のための運動指針(日本体育協会2013) ※WBGT(湿球黒球温度)とは、人体の熱収支に影響の大きい湿度、輻射熱、気温の3つを取り入れた熱中症予防の温度指標です。