では、筋肉を上手に維持・増加するためにはなにをすればいいか。答えは、適度な “運動”と、筋肉の合成に必要不可欠な“たんぱく質”の摂取です。
特に、筋肉を増加させるためには、ややきついと感じる以上の運動が効果的と言われていますが、その一方で、適切な食事を摂ることも必要です。朝食を摂らなかったり、無理なダイエットを行ったりしながら運動だけを行うと、筋肉の合成に加えて、分解も促進されるため、筋肉はむしろ低下してしまいます。
適度な“運動”と、“たんぱく質”摂取の両方を組み合わせることで相乗的に筋肉増加効果が現れるため、筋肉を効果的に増やすためにはたんぱく摂取と運動の両方が欠かせないのです。
第3回 運動×たんぱく質で“筋肉”をつけよう!
みなさんは「筋肉」と聞いた時、どのような印象をお持ちですか?
プロのアスリートなどに必要なものであって、自分にはあまり関係ないと、思っていないでしょうか?
実は私たちの健康な体を維持するためには、この「筋肉」がとても重要な役割を果たしているのです。
- 信州大学大学院医学系研究科 特任教授
能勢 博(のせひろし)先生 - 医学博士。信州大学医学系研究科スポーツ医科学講座教授(1995~2018)。NPO法人熟年体育大学リサーチセンター理事長(副理事長)(2004~)。京都府立医科大学・医学部卒。米国Yale大学・医学部John B. Pierce研究所留学(1985~1988)。趣味は登山。著書に「ウォーキングの科学」(講談社)、「インターバル速歩で健康になる!」(宝島社)など。ほか、NHK「ためしてガッテン」などマスコミ出演も多数。
筋肉の減少予防が、病気にならない秘訣!
われわれ人間が、人生で最も筋肉のあるのは20代で、30歳以降は10歳年をとるごとに5〜10%ずつ筋肉は衰えていきます。実はこの筋肉の衰えが、加齢とともに人の体力を奪い、さまざまな病気を引き起こすひとつの原因だと言われています。体重のうち筋肉の占める割合を筋肉率といいますが、その標準値は男性で33%、女性で27%程度といわれます。
男性女性にかかわらず、この数値をひとつの目安に、20代まではしっかりと筋肉を身につけること、そして30歳以降ではその筋肉をできる限り維持していくことが、今の健康だけではなく、将来の健康を考える上でも重要なことなのです。そのためには①筋肉をつけるためのトレーニングの実践、②筋肉の素となる良質なたんぱく質の摂取が大切なポイントだといえるでしょう。
生活習慣病が大きな社会問題になっている現代。この状況を打破していくには、個々の体力を改善させることが有効な手段だといわれています。体力を改善させるというと、何のことかちょっとわかりにくいかもしれませんが、これはズバリ筋肉量をアップさせることと理解していただいて結構だと思います。
例えば、最近の女子大生を観察してみると、その大きな特徴として“朝食欠食”が指摘されています。そのためか全体的には、以前と比較すると体力の低下傾向が見られます。このような体力の低下は、近い将来生活習慣病発症の危険性をはらんでいます。
実は最近の研究から、生活習慣病だけでなく、さまざまな病気の発症と筋肉量とは密接な関係があることがわかってきています。中高年を対象に筋肉量アップのプログラムを実施したところ、筋肉の増加と生活習慣病をはじめとする病気の改善度、さらに医療費の減少度は高い相関関係が見られました。こうした事実から考えても、メタボリックシンドロームやロコモティブシンドロームをはじめ、万病の原因は、すべて加齢による筋肉の萎縮が関与しているといっても過言ではありません。筋肉の維持・増強が、病気にならない秘訣だといえます。
要介護にならないためには、最低でも20代の筋肉の30%以上を維持し続けることが重要
人間は20代の筋肉量の30%を切ると、運動機能的に要介護状態になるといわれています。
また、筋肉の問題は運動機能だけではなく、同時に脳にも関係してきます。皆さんも経験があるかもしれませんが、運動しないと頭がぼんやりして判断力が鈍ることがあります。これなどは、筋肉からの刺激が、脳に対してもポジティブに働くというひとつのいい例だと思います。
しっかりと運動をして、効率的にたんぱく質を摂取することは、すなわち筋肉をつけること、または維持させていくこと。それは将来の要介護状態を回避させ、人に迷惑をかけない生活を続けていくことにつながっていきます。
つまり、筋肉をつけること、または維持させていくことは「自分自身の将来に、どれだけ責任をもてるか?」ということに対するひとつの答えでもあるのです。
そもそも人類は二足歩行すること、そして群れを形成して狩猟や農耕などを行うことを大きな起点として、さまざまな進化を遂げてきました。そして、この500万年にわたる人類の進化を遺伝子に刻み込んできているのです。人類は「運動」することによって進化し、そして自らを健全な状態に保っていたと言えるでしょう。しかしここ100年の人類を見ると、歩かない方向(体力負担のかからない方向)の技術革新などによって、遺伝子の特徴を否定する方向に動いているような気がします。私たちの体が本来備えている能力を、十分に活用することが、健康維持につながっていくのです。