
ウイスキーとチョコレートは相性が良いといわれていますが、ウイスキーって難しそう、ハードルが高いお酒、と思っている方も多いかもしれません。でもちょっとした知識があれば、気軽にウイスキーを楽しむことができます。本記事では、ウイスキーの基礎知識から、相性の良い理由、おすすめの組み合わせ、ウイスキーに合うチョコレートをご紹介します。
ウイスキーとチョコレートの相性が良い理由
世の中には多種多様なお酒がありますので、もちろんウイスキー以外でもチョコレートとのマリアージュを楽しむことができますが、特にウイスキーはチョコレートとの相性が良いことで知られています。
ウイスキーについては後の項目で紹介しますが、仕込みの段階から蒸留工程で生まれる香味や、木樽での熟成中に樽から溶出する成分は、香ばしさや甘味、果実香、スモーキーフレーバーなど様々。カカオ豆を原料とし、同じく香ばしさや甘味、果実のようなフルーティさなどの風味を持つチョコレートとは相性が良いのです。
またウイスキーには苦味や渋味、酸味などもあり、チョコレートの風味と繋がる点が多くあります。
ウイスキーってどんなお酒?
まずはウイスキーがどんなお酒なのか解説します。
少しでも基礎知識があると、より、ウイスキーとチョコレートの組み合わせを楽しめることでしょう。
・ウイスキーとは
まず、世界中で様々なお酒が造られていて、「醸造酒」「蒸溜酒」「混成酒」の3つに分けられますが、ウイスキーはこのうち「蒸溜酒」に該当します。
醸造酒 | ビール、日本酒、黄酒、紹興酒、マッコリ、ワイン、ペリー、シードル(サイダー)、ミードなど |
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蒸留酒 | ウイスキー、ブランデー、ジン、ウォッカ、ラム、テキーラ、アクアビット、カルヴァドス、グラッパ、キルシュ、シュナップス、焼酎、泡盛、白酒など |
混成酒 | リキュール、ベルモット、梅酒、屠蘇、みりん、酒精強化ワイン、ヴァン・ド・リケール、薬用酒、カクテルなど |
ウイスキーは世界中で造られており、各国によりその定義は異なります。ただし、一般的には次の3つの条件をクリアしていればウイスキーと定義できます。
①穀物を原料としていること
大麦、ライ麦、小麦、オート麦、トウモロコシなどの穀物であることが条件です。
②糖化、発酵、蒸留を行っていること
穀類を麦芽などで糖化させ、発酵によってアルコールを生じさせます。そして、そのアルコールを含んだ溶液を蒸溜したのが蒸留酒です。
③木樽熟成をしていること
②の蒸留で得られた液体を木製の樽に貯蔵し、熟成させます。
以上の3つをクリアしてウイスキーというお酒になります。

・世界の五大ウイスキー
世界中で様々なウイスキーが生産されています。「世界の五大ウイスキー」と呼ばれるウイスキーがありますので、覚えておくとウイスキー選びのひとつの指標になるでしょう。
①アイリッシュウィスキー/アイルランドで造られるウイスキー。
②スコッチウイスキー/スコットランドで造られるウイスキー。スコットランドの中でも地域によりいろいろな風味があります。
③アメリカンウイスキー/アメリカで造られるウイスキー。最も有名なのはケンタッキー州などで造られるバーボンウイスキーです。
④カナディアンウイスキー/カナダで造られるウイスキー。軽くマイルドな味わい。
⑤ジャパニーズウイスキー/日本で造られるウイスキー。スコッチウイスキーの流れを汲む。
五大ウイスキーには、それぞれ法的な定義がありそれに沿ってウイスキーが生産されています。その風味はひとくくりにはできませんが、国や地域、さらには蒸留所ごとに多種多様な味わいがあるのがウイスキーの魅力です。

・ウイスキーの分類
本記事で後ほど登場する4種類のウイスキーは、いずれもスコッチのシングルモルトウイスキーです。
スコッチウイスキーとシングルモルトについてもう少し解説します。
スコッチウイスキーは、原料と製法の違いからモルトウイスキーとグレーンウイスキーの2つに大別されます。原料に大麦麦芽(モルト)を使って、単式蒸留器(ポットスチル)で2回もしくは3回蒸留したものがモルトウイスキーです。
一方、グレーンウイスキーは、トウモロコシや小麦など大麦以外の穀物(グレーン)を主原料として連続式蒸留機で蒸留したものです。
そのなかで、単一の蒸留所で造られるモルトウイスキーを瓶詰めしたものは「シングルモルトウイスキー」と呼ばれます。
原料も含め各メーカーの造り方、機械や樽の種類と大きさ、立地条件、樽の貯蔵年数など様々な要因が複雑に合わさり、フルーティやフローラル、スモーキーなど多種多様なアロマとフレーバーが生まれます。
蒸留所ごとの違いが愉しめるのがシングルモルトウイスキーの魅力のひとつです。
・ウイスキーの味わい分類
これまで紹介したとおり、原料、製造方法、機械や樽の種類や大きさ、立地条件、そして樽での熟成年数などの要素が複雑に絡み合い、ウイスキーはそれぞれ個性的な風味を有しています。
本当に多くのアロマ、フレーバーがありますが、ここではより気軽にウイスキーを楽しむために、初心者の方にもわかりやすいキーワードを押さえておきましょう。
●フルーティタイプ
フルーティと言われる果実の香りが特徴のウイスキーです。甘い香りを併せ持つものも多いです。
柑橘類(オレンジ、レモンなど)や、ベリー系(いちご、ラズベリーなど)、トロピカル系(バナナ、パイナップルなど)のほか、りんご、洋梨、メロン、レーズンやプルーンのようなドライフルーツなど様々。フルーティといってもいくつかのタイプに分かれます。
●甘い香りタイプ
バニラ、カスタード、はちみつ、カラメル、メープルシロップなど、甘い香りを有するタイプもあります。
また白い花など、甘い花のような香りを持つウイスキーもあります。
●スモーキータイプ
スモーク(煙)のような風味は「燻香」とも言われます。
この独特な風味は、原料の大麦を発芽させた後、水分を含んだ麦芽(モルト)を乾燥させるときに燃やすピート(泥炭)の煙に由来するもの。ウイスキーを飲み慣れていないと、苦手と感じる方もいるかもしれませんが、ウイスキー特有の香りのひとつがこのスモーキーです。
また、正露丸やヨードのような薬品香と燻製のようなスモーキーさが混じり合ったフレーバーをピーティと言います。

マリアージュについて
マリアージュ(mariiage)は直訳すると結婚という意味。互いの良さを引き立てる組み合わせについて解説します。
・マリアージュとは
料理とワインのマリアージュなど、主に食事と飲み物との組み合わせでこの考え方が浸透しています。
例えば、チーズと赤ワイン、魚と白ワインなどです。これは、単なる食べ合わせではなく、1+1=2にとどまらずさらにおいしさや食のたのしさを広げる組み合わせのことを言います。互いに持っている良い要素を引き立てたり、また、隠れている要素を引き出したり、単体では味わえない奥行やより良い風味がマリアージュの魅力です。
チョコレートとウイスキーは相性が良く、マリアージュをたのしみたいというニーズも増えてきています。
ウイスキーに合うチョコレート
理論を頭の片隅に入れつつ、大切なのは実際に楽しんでみること!
ウイスキーもチョコレートもどちらも嗜好品ですので好みに差はあると思いますが、ここでは一例として筆者が選定した組み合わせをご紹介します。

・おいしく楽しむ、ウイスキーとの合わせ方ヒント
お好みの飲み方、食べ方で問題ありませんが、より楽しむためのヒント2点をご紹介します。
①ウイスキーをまずはストレート(もしくは少しだけ加水する)で用意します。
チョコレートはしっかりした味わいがありますので、最初からウイスキーにたくさん水を加えて薄めてしまうと、バランスが取りづらくなることがあります。
まずはストレートで飲んでみて、強すぎる場合は少し加水して調整してください。
(注:アルコール度数が高いため、無理のないようお好みで加減してください。)
②ウイスキーとチョコレートを何回か往復して、口の中で重ねます。
チョコレートは口どけが重要。ゆっくりと口の中でとかしてから、ウイスキーを飲み、両方の風味の繋がりを感じてみてください。何往復かするのもポイントです。
・ウイスキーとチョコレートのマリアージュ 実践編
まず実践しやすいのは「似たもの同士」を合わせること。
例えばフルーツの香りのウイスキーには同じタイプのチョコレートを合わせる…といった方法です。
(1)フルーティタイプのウイスキーとチョコレート

●ウイスキー:グレンモーレンジィ オリジナル 12年(スコットランド)
スコットランド北側のハイランド地区のシングルモルトウイスキーです。
テイスティングすると、はちみつ漬けのオレンジピール、レモンなど柑橘系のフルーツや、ピーチ、バニラのようなスイートで優しいアロマ。ほのかにフローラルも感じます。味は非常にスムースでクリーン、みずみずしさが魅力です。
合わせるチョコレート①:
meiji THE Cacao「フルーティカカオ・ラテ(51%)」

ドミニカ共和国産カカオを使った、フルーティな酸味が魅力のダークミルクチョコレート。
グレンモーレンジィ オリジナル 12年と合わせると、オレンジのような酸味とはちみつを感じ甘味が広がります。余韻にはミルクやバニラ、カカオのコクが続きます。
合わせるチョコレート②:
ジャン=ポール・エヴァン「サロメ」

ボンボンショコラのセンターはバニラ風味のムースガナッシュ。
やさしい風味がグレンモーレンジィ オリジナル 12年にすっと寄り添い、ボンボンショコラの甘味とミルクのコクが感じられます。
ウイスキーが持つフルーティさも引き立ち、お互いが持つバニラのような香りやスイートな余韻が印象的です。

●ウイスキー:ザ・マッカラン シェリーオーク 12年
スコットランドのスペイサイド地区で造られるシングルモルトウイスキー、ザ・マッカラン。
スペイン産のシェリー樽を使った「ザ・マッカラン シェリーオーク12年」は、レーズンやプルーンなどのドライフルーツやメープルのような甘い香り、シナモン、ジンジャーのようなスパイシーな香りが愉しめます。
複雑かつリッチな風味が魅力のウイスキーです。
合わせるチョコレート①:
meiji THE Cacao 「フローラルカカオ・ラテ(51%)」

花のような香り、甘味を持つペルー産カカオを使用したチョコレート。
ザ・マッカランのドライフルーツのような甘味が、チョコレートの華やかなフローラル感や程よいビター感を引き立てます。
甘味とほろ苦さ、お互いの渋味のバランスも良く、ふくよかで立体感なある後味が続きます。
合わせるチョコレート②:
ショコラティエ パレドオール「フランボワ」

フランボワーズ(ラズベリー)の甘酸っぱさが味わえるボンボンショコラ。
ザ・マッカラン シェリーオーク12年と合わせると、リッチなフルーティさとお互いの良さが愉しめるマリアージュです。余韻には華やかな香りが広がります。
(2)甘い香りタイプのウイスキーとチョコレート

●グレンモーレンジィ ネクター 16年
スコットランド北側のハイランド地区のシングルモルト、「グレンモーレンジィ ネクター16年」は2月26日より発売開始された新しいウイスキーです。
甘い香りと華やかさが魅力で、スイーツのようなニュアンスも。
レーズン入りのパン生地やプルーン、オレンジのようなフルーティさもあり、濃厚でスムースな味わいが愉しめます。
合わせるチョコレート①:
meiji THE Cacao「フルーティカカオ(70%)」

ドミニカ共和国産カカオを使用したダークチョコレート。
グレンモーレンジィ ネクター16年と合わせると、どちらにも共通する特徴であるアプリコットのようなフルーティさと柔らかい酸味がマッチ。
ウイスキーの甘い香りと、チョコレートのフルーティさ、双方の良さが引き立つ組み合わせです。
合わせるチョコレート②:
ラ・メゾン・デュ・ショコラ「オランジェット」

オレンジピールをダークチョコレートでコーティングした一品。
ウイスキーの中にもオレンジのような甘い香りがあり、甘味やフルーティな風味が繋がるマリアージュ。
ウイスキーとショコラ、どちらの要素も引き立ち、華やかで甘美な風味が愉しめます。
(3)スモーキータイプのウイスキーとチョコレート

●ボウモア12年
スコットランド西岸の島・アイラ島のボウモア蒸溜所で造られるウイスキーです。
「ボウモア12年」は甘味や旨味のあるスモーキーさが特長。潮気、ピート、乾いた草のほかダークチョコレートやコーヒー豆のような、独特の風味が印象的です。
合わせるチョコレート①:
meiji THE Cacao 「ナッティカカオ(70%)」

ベネズエラ産カカオを使用したダークチョコレート。
ボウモア12年と合わせると、ローストナッツのような香ばしさやスモーキーなアロマ、リッチでコクのある味わいが繋がります。
余韻にはチョコレートとウイスキーそれぞれの深い味わい、ロースト香が続きます。
合わせるチョコレート②:
ジャン=ポール・エヴァン「ブラジリア」

コーヒー風味のガナッシュをビターチョコレートでコーティングしたボンボンショコラ。
ボウモア12年と合わせることで、コーヒーの香ばしさ、心地よい焙煎香が鼻の奥に長く残ります。
お互いが持つダークチョコレートのようなコクも好相性で、双方の良さがしっかりと重なるマリアージュです。
まとめ
マリアージュを探す際のポイントは、まずはウイスキーとチョコレートそれぞれのタイプを掴んで整理すること。最初はわかりづらいかもしれませんが、いろいろ試すうちに「これはフルーティだな」「これはスモーキーさがある」など、タイプが把握できると思います。
理論だけにとらわれず、ぜひ好奇心と自由な気持ちで、ウイスキーとチョコレートを組み合わせてみてください。きっと新しい発見やおいしい広がりが楽しめることでしょう!

管理栄養士、スイーツプランナー、ショコラコンシェルジュ®
大学卒業後、洋菓子関連の会社に入社し販売や商品開発に携わる。その後2007年に独立、様々な商品企画開発や店舗改善、経営のアドバイスなど、スイーツやチョコレートのコンサルタントとして幅広く活動。2008年以降、毎年サロン・デュ・ショコラ・パリの視察や、世界各国のスイーツ、チョコレート市場の調査を行う。
ウイスキーとチョコレートが好きで、カルチャースクール等でショコラとウイスキーのマリアージュセミナーを多数実施。ウイスキー専門誌「ウイスキーガロア」のテイスターを務めるほか、日本で初となるスピリッツのコンペティションTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)の審査員も務める。