基礎知識

カカオ豆の原産地はどこ?品種別の特徴、収穫からチョコレートになるまでを紹介

カカオ豆の原産地はどこ?品種別の特徴、収穫からチョコレートになるまでを紹介

ほっとする甘い香りや味わいが魅力のチョコレート。カカオ豆が原料となっていることは知られていますが、産地や種類によって香りや味が異なることはあまり知られていません。本記事では、限られた地域でしか栽培されないカカオについて、産地別の特徴や代表的な種類、収穫からチョコレートができるまでを紹介します。

カカオ豆の基礎知識

チョコレートのベースとなるカカオは限定された地域でしか収穫できません。まずは、カカオの基礎知識を紹介します。

カカオ豆とはカカオの実の中にある種子

shutterstock_1709105758.jpg

カカオの樹にぶら下がるラグビーボール状の実。このカカオポッドという実の中の種子がカカオ豆です。カカオポッドの堅い殻の中には、パルプと呼ばれる白い果肉と共に30~40粒ほどのカカオ豆が入っていて(※品種や産地によります)、これがチョコレートの原料になります。カカオ豆の胚乳中にはココアバターという脂肪が50~57%含まれるのが特徴です。カカオ豆はカカオ樹の種子そのもので、土壌に植えれば芽が出て、やがてカカオの樹に成長します。世界のカカオ豆生産量は約502万トン(※1)、コーヒー豆が約989万トン(※2)ですからそれと比べて量が少ないことがわかります。

(※1国際ココア機関カカオ統計2020/21年)
(※2 USDA「World Agricultural Supply and Demand Estimates」、「Coffee:World Markets and Trade」(June 21,2021)

カカオは高温多湿でしか育たない

カカオの樹は、赤道を挟んで北緯20度から南緯20度の高温多湿の熱帯でしか生育しません。この栽培適地を「カカオベルト」と呼んでいます。この中ならどこでも育つというわけでもなく、高度30~300m、年間平均気温が約27℃で気温差が小さい、年間降雨量は最低1000㎜以上であることなどが条件となります。それらを満たすカカオの生産地域は主に中南米、西アフリカ、東南アジアに分類されますが、その中でも主力はアフリカで世界の生産量の約77%を占めています(国際ココア機関(ICCO)カカオ統計2020/21年)。

カカオ豆の代表的な3つの品種

カカオ豆には様々な品種がありますが、主にクリオロ種、フォラステロ種、トリニタリオ種の3種に大別されます。ここでは代表的な3種について紹介します。

マイルドな味「クリオロ種」

クリオロ種の発祥地は南米(アマゾン川上流域地帯)といわれていますが、メソアメリカと呼ばれた中米地域(メキシコ、グアテマラ、ホンジュラス、ベリーズ辺り)での栽培が記録されています。病虫害に弱く栽培が困難、現在はベネズエラやメキシコなど限られた地域で栽培されていますが、栽培量は少なく幻のカカオとも言われています。味わいの特徴は渋味が少なくマイルド、ナッツのような香りが特徴です。その良質な風味からフレーバービーンズ(風味をプラスする豆)とも呼ばれます。

渋味と苦味が強い「フォラステロ種」

フォラステロ種の発祥地はアマゾン川上流域地帯、ベネズエラのオリノコ川流域など。現在はガーナなどの西アフリカ、ブラジル、東南アジアなどで広く栽培されています。成長が早く、病気や害虫への抵抗力が強いため栽培しやすい品種で、世界のカカオ生産量の80~90%はこのフォラステロ種が占めるとされています。渋味と苦味が強いのが特徴ですが、カカオ感もしっかりしていて、チョコレートのベースやブレンドに欠かせないベースビーンズとしての役割を担っています。

フルーティーな風味「トリニタリオ種」

トリニタリオ種は、カリブ海のトリニダード島で誕生したことから命名されました。クリオロ種とフォラステロ種の自然交配でできた品種とされ、両者の中間的な性質を持ちます。栽培しやすく良質なのが特徴で、中南米、ベトナムなどで栽培されています。フルーティーな酸味を持つものが多く、風味をプラスするフレーバービーンズとしてチョコレート作りに用いられることがしばしばあります。

【産地別】カカオ豆の特徴

同じ品種のカカオ豆でも産地が変わると香りや味は異なるものになるとも言われています。ここでは、産地別のカカオ豆の特徴を紹介します。特徴を知り、いろいろなチョコレートの違いを楽しんでください。

【コートジボワール/西アフリカ】ヨーロッパのメインカカオ

世界の生産国トップはコートジボワール。全体の約44%を占めています(2020/21年推定)。ヨーロッパのチョコレートはコートジボワール産カカオをベースにしているものが多く、世界的に親しまれている味と言えるでしょう。マイルドでおとなしい苦味や重厚感が特徴です。

【ガーナ/西アフリカ】日本になじみのあるカカオ豆

コートジボワールに続く生産量第2位はガーナ。コクや香ばしさがあり、酸味、苦味、渋味のバランスが良い風味。スタンダードなカカオの味わいです。実は、日本が輸入するカカオ豆の約79%はガーナ産(2020年)。日本人が慣れ親しんでいるカカオ豆なのです。

【エクアドル/中南米】華やかな香りが特徴

エクアドルのカカオ豆には独特の風味があります。ジャスミンのようと言われることもあるフローラルな香りと強いカカオ感、後味に残る適度な渋味が特徴。エクアドルはフォラステロ種から派生した「ナシオナル(アリバ)種」と呼ばれる品種の産地です。

【ベネズエラ/中南米】高品質のカカオ豆を生産

ベネズエラは高品質のクリオロ系カカオ豆を生産しています。ナッツのような香ばしい香りが特徴的で「ナッティ」な香味と表現されます。酸味、渋味、苦味のバランスが良く、コクがある、雑味が少ないなどの特徴を持つカカオ豆です。

カカオ豆の収穫からチョコレートになるまで

原料となるカカオ豆は、様々な工程を経てようやくチョコレートになります。ここでは、カカオ豆の収穫からチョコレートになるまでの長い道のりを紹介します。

1.成木から結実

shutterstock_717831448.jpg

カカオの樹は苗から育てた場合、3~4年目くらいで実がなります。成木は高さ6~7m、幹の太さは10~20cmになり、ラグビーボール状のカカオポッドと呼ばれる実があちらこちらにぶら下がる様子は、なんとも不思議な光景です。1年に2回収穫が可能で、重さ250g~1kgにもなる実が1本の樹に年間で10~40個ほどつきます。(※)カカオの花は1㎝程度と小さく、受粉はヌカカなど小さな虫が媒介します。カカオ豆は、カカオポッドの中にパルプという果肉に包まれて30~40粒ほど入っています。

(※)品種や産地によります。

2.収穫して発酵させる

shutterstock_731849029.jpg

幹や枝になるカカオポッドを、ナタや、長い棒の先にナイフを付けた道具で切り落とし、収穫。それを木の棒やナタで叩いて割り、中からパルプごと豆を取り出します。豆とパルプは木箱に入れたり、バナナの葉をかぶせたりして数日置き発酵させます。天然の微生物の働きによる発酵はおいしいチョコレートのために重要な工程。これにより豆はチョコレート色に変化し、後の工程(ロースト)でチョコレートの香味となる前駆体が生成されます。

3.乾燥させて出荷する

shutterstock_1644002599.jpg

発酵後のカカオ豆は約40%以上の水分を含むので、貯蔵や輸送中にカビが発生しないよう水分が7~8%になるまで乾燥させます。品質検査のあと、主に麻袋に入れて、チョコレートの製造国へ輸出されます。

4.カカオ豆をすり潰してカカオマスにする

IMG_6934.JPG

ここからは、カカオ豆がチョコレートになる工程を簡単に説明します。生産国から運ばれたカカオ豆は、悪い豆や石、ゴミなど異物を取り除いて良い豆を選別。100~140℃の熱を加えてローストし、カカオ豆の風味を引き出します。カカオ豆をそのままローストする豆ロースト法と、豆を粗く砕いてシェル(種皮)等を取り除いたカカオニブをローストするニブロースト法があり、産地や豆の特徴により温度や時間を調整します。その後、豆(またはカカオニブ)を機械で細かくすり潰し、カカオマスというペースト状にします。

5.カカオマスからチョコレートを作る

次に、カカオマスに砂糖、ココアバター、ミルク(粉乳)などを配合し、粉砕していきます。チョコレートの粒子を20ミクロン(1ミクロンは1/1000mm)以下にすることで、滑らかな舌触りになります。この後、練る工程を行っていくのですが、メーカーによりチョコレート生地を練る時間は異なります。できあがったチョコレート生地は、必ずテンパリング(温度調整)をし、型に流して冷やし固めます。この温度調整も非常に重要な工程で、ココアバターを安定した結晶にすることで、艶があり口どけの良いチョコレートに仕上がります。

カカオ豆の知識を深め、チョコレートの楽しみ方の幅を広げて

遠いカカオ産地から運ばれ、長い時間をかけて作られるチョコレート。これまで何気なく食べていたチョコレートも、原料となるカカオ豆の品種や産地の違いなどに注目すると新しい発見があり、楽しみ方が広がるかもしれません。

※関連ページ:【漫画で学ぶ、チョコレート①】チョコレートは「カカオ」から!
※関連ページ:【漫画で学ぶ、チョコレート②】チョコレートのおいしさの鍵を握るのは「カカオ豆」