基礎知識

レシチンとは?

2024/01/29

レシチンとは?

レシチンという名前は聞いたことがあるけど、あまり身近ではない印象をお持ちの方も多いと思います。本記事では、なめらかな流動性のあるチョコレートには欠かせないレシチンについて、その概要や特徴などを詳しく解説します。

レシチンとは?

レシチンはリン脂質の一つで、動植物のすべての細胞中に存在します。脳、神経組織、肝臓に多く、卵黄や豆類などにも多く含まれます。卵黄では約32%の脂肪分のうちの70%をレシチンが占めていて、大豆油では約1~3%含まれています。レシチンは乳化力が強いため、製菓では乳化剤として使用されており、他にもマーガリンの乳化剤には大豆レシチンが使われています。
レシチンは最も一般的な乳化剤で、チョコレートには1930年よりも前から使われています。まずは、レシチンを理解するうえで大切な「乳化」について説明します。

乳化、乳化剤とは?

液体中に他の液体の細かい粒が分散した状態をエマルジョン(emulsion)といい、この状態になることを「乳化」といいます。乳化状態を安定に保ち、微粒のエマルジョンを保持するために加える物質を「乳化剤」といいます。例えば、水の中に油が分散して乳化しているのがマヨネーズです。

酢とサラダ油を合わせただけでは混ざりませんが、ここに卵という天然の乳化剤(卵黄レシチン)を加えると水と油が混ざり、マヨネーズになります。卵黄が乳化剤となっていて、このように「本来混ざらない水と油を混ざるようにする」のが乳化剤の第一の機能です。

レシチンはどんな場面で使われる?

レシチンは、ひとつの分子で水と油の両方と馴染みやすい性質を持っています。

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出典:新版 お菓子「こつ」の科学P.109/河田昌子著/柴田書店

卵黄の固形分には65%の脂質が含まれていますが、レシチンによって水と油の両方を引き付け、卵黄中の油脂やコレステロールを安定した乳化状態にすることができます。この力を利用しているのが、前項にも記載したマヨネーズです。

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出典:新版 お菓子「こつ」の科学P.109/河田昌子著/柴田書店

レシチンの乳化力は食品分野でいろいろ利用されています。例えばマーガリン、ショートニング、アイスクリーム、マヨネーズなどの製造に用いられます。また、菓子作りでも利用されていて、バターケーキやバタークリームの中で、バターと水分(卵白など)が分離しないで混じり合っているのは、レシチンの乳化作用によるものです。
また、チョコレートの製造においても重要な役割を果たしているのがレシチンです。乳化剤が持つ「微粒子の分散機能」を活用しています。チョコレートに用いられるのは主に大豆由来の大豆レシチンで、レシチンが砂糖やカカオマスの微細な粒子に吸着して、液体状のココアバターにうまく分散させることで均一化し、凝集を防止します。

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出典:「チョコレート製造技術のすべて」Stephen T.Beckett 、Mark S.Fowler, Gregory R.Ziegler 著、
古谷野 哲夫、佐藤 清隆訳(幸書房)砂糖周囲に局在するレシチン分子の模式図

チョコレートの粘度を下げることで作業性が良くなるほか、ブルーミングを遅らせるなどの効果もあります。
以下の図より、レシチンの添加によってダークチョコレ―トの粘度が低減することがわかります。

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出典:「チョコレート製造技術のすべて」Stephen T.Beckett 、Mark S.Fowler, Gregory R.Ziegler 著、
古谷野 哲夫、佐藤 清隆訳 (幸書房)
2種類のダークチョコレートにおけるキャッソン粘度因子へおよぼす大豆レシチンの添加効果:(1)油分33.5%,水分1.1%;(2)油分39.5%, 水分0.8%.

但し注意点もあります。チョコレートと表示して販売するためには、チョコレートの種類や製造国、販売国によってレシチン含量は0.5%から1.0%に制限されています。高濃度のレシチンを添加することでチョコレートの流動性が悪くなることもわかっており、適量を使うことが大切です。

レシチンの種類

日本では、「植物レシチン(アブラナ又はダイズの種子由来に限る。)」及び「卵黄レシチン」が既存添加物名簿に掲載されています。大豆レシチンは大豆由来のレシチンで、大豆油に含まれています。卵黄レシチンは卵黄から得られるレシチンです。前項で解説したとおり、日本でチョコレートに大豆由来のレシチンが多く用いられます。また、わずかではありますが、レシチンはカカオや乳成分、特にバターミルクにも天然に存在しています。

レシチンに関する国内の動向

大豆は、食物アレルギー表示対象品目に該当(特定原材料に準ずるもの20品目)します。大豆アレルギーを持つ方でもチョコレートが食べられるようにするため、これまで大豆レシチンを使っていたチョコレートメーカーが、ヒマワリ種子由来のヒマワリレシチンに変える動きが出てきています。日本では2014年にヒマワリレシチンが指定添加物に追加されました。例えば、クーベルチュールメーカー大手の「ヴァローナ」(フランス)は、2021年初旬からヒマワリレシチンを使ったチョコレートへ切り替えを進めています。また、エクアドル産のカカオを使ったBEAN to BARブランド「ママノチョコレート」では、2020年10月1日製造分から、ヒマワリレシチンを使ったチョコレートの製造を開始しています。

まとめ

レシチンという物質名ではなかなか馴染みがないかもしれませんが、レシチンは、マヨネーズやマーガリン、チョコレートなど身近な食品に用いられており、重要な役割を果たしているのです。今度、食品を手に取った時にレシチンを目にしたら、「乳化」や「乳化剤」といった言葉の意味も含めて思い出してみてくださいね。