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カカオ豆の選定から板チョコレートの製造までを一貫して行うBEAN to BAR(ビーントゥーバー)は、世界中のチョコレート業界で注目される取り組みです。この記事では、BEAN to BARとは何かから、作り手のこだわりが詰まったBEAN to BARの製造工程や特徴、楽しみ方まで詳しく紹介します。
生産者と消費地をつなぐ「BEAN to BAR」
チョコレートの新しい潮流として注目されるBEAN to BARは、チョコレート製造における取り組みのひとつです。世界中に広がりつつあるBEAN to BARについて紹介します。
カカオ豆選びからチョコレートを作る取り組み
BEAN to BARとは、BEAN(カカオ豆)からBAR(板チョコレート)の通り、カカオ豆から板チョコレートまでを自社内で一貫して行う製造スタイルのこと。1990年代後半、サンフランシスコに登場したシャーフェンバーガーが先駆けと言われていて、2000年代になると全米に作り手が広がりました。一方フランスでは、1884年創業のボナや、1953年創業のベルナシオンなどの老舗でもカカオ豆からショコラ作りを行っていて、こちらのほうが歴史は長いと言えそうです。日本でも、クラフトなモノ作りへの関心の高まりを背景に作り手が全国に増えています。
進化するBEAN to BARの取り組み
近年はサステナブルな取り組みに目を向けるブランドも多く、カカオ生産地と消費地を繋ぐワードとしてもBEAN to BARが注目されています。現地に赴き、発酵や乾燥の技術指導に携わるほか、生産者の貧困や教育、雇用など暮らしや環境の改善に取り組むメーカーもあります。カカオ樹の生産から手掛けるスタイルをTREE to BARと呼び、農園の管理から関わるスタイルをFARM to BARと呼びます。これらに取り組むメーカーも現れています。
板チョコレート以外の商品の登場
板チョコレートが完成形とされてきたBEAN to BARですが、自家製チョコレートをベースにボンボンショコラやドリンク、ケーキなど様々なチョコレート商品を作るブランドが増えています。他に、ローストしたカカオニブをそのまま又は砂糖掛けして瓶詰にしたり、蜂蜜にニブを加えたものなど、カカオ豆を扱うBEAN to BARらしい商品も広がりを見せています。
BEAN to BARチョコレートの製造工程
BEAN to BARでは、カカオ豆の個性を生かすために配合や製造工程を工夫する作り手が多いのが特徴です。ここではBEAN to BARチョコレートができるまでの製造工程を見ていきましょう。
1.カカオ豆の選定
赤道を挟み北緯・南緯20度のカカオベルトと呼ばれるエリアで生産されるカカオの樹。生産地域はアフリカ、中南米、東南アジアに分類されます。世界の生産量の約77%はアフリカで生産され(2020/21年)、フォラステロ種という品種が中心で、フォラステロ種はベースビーンズとも呼ばれます。一方、フレーバービーンズと呼ばれるのは、希少な品種であるクリオロ種や、フォラステロ種とクリオロ種の交配で生まれたトリニタリオ種、フォラステロ種から派生したナシオナル種等です。BEAN to BARの作り手は、世界各地のカカオ豆から自らが求める香味や品質のカカオを選定するところからスタートします。
2.ロースト~コンチング
悪い豆や石、ゴミなど異物を取り除き良いカカオ豆を選別、それらをローストします。カカオ豆の香りと風味を引き出すために100~140℃の熱を加えますが、温度や時間、機械の種類などは企業秘密でもあります。豆の個性を引き出すため、浅めのローストにするか深煎りにするかなど、その加減は作り手の腕の見せどころ。その後、細かくすり潰してペースト状にし、砂糖やココアバター、粉乳などを混ぜて練り上げていきます。これはチョコレート製造独特の工程で、機械を使って長時間練り上げる作業をコンチングと言います。
3.調温~充填
重要な最終工程が調温(テンパリング)です。適切な温度調整を行い、ココアバターを安定した結晶にすることで、艶のある見た目と口どけの良いチョコレートになります。調温後の液状チョコレートを型に充填し、冷やし固めれば板チョコレートが完成します。
※関連ページ:カカオ豆の原産地はどこ?品種別の特徴、収穫からチョコレートになるまでを紹介BEAN to BARチョコレートの特徴
作り手のこだわりが詰まったBEAN to BARチョコレート。ここではBEAN to BARの特徴を紹介します。
カカオ豆の個性が際立つシングルビーンが多い
一般的に、チョコレートは異なる産地や品種のカカオ豆をブレンドして作られます。しかしBEAN to BARでは、単一の国やエリアのカカオ豆で作るシングルビーンと呼ぶチョコレートが多い傾向。カカオ産地の違いや豆の個性をダイレクトに味わってほしいという作り手の思いが窺えます。一方、目指す味わいのために複数の産地のカカオ豆をバランス良くブレンドする作り手もいます。いずれの場合も、豆の個性を見極め、それを最大限に引き出す工程や配合が重要で、作り手のこだわりを反映した商品が多いのが特徴です。
オリジナリティを求めて配合や製造工程を工夫している
カカオ豆の個性や風味を表現するため、原材料はカカオ豆と砂糖のみというシンプルなものも多いですが、例えば、砂糖や乳の種類を変えて風味に個性を出す、口どけをより滑らかにするために自社で搾ったココアバターを加えるなど、一貫して手掛けるからこそ配合調整が可能なのも魅力のひとつ。また、チョコレートを微細化する工程で、あえて粒子を粗めにして異なる食感に仕上げたものもあります。このように、BEAN to BARは作り手の数だけ工夫があると言えるでしょう。
BEAN to BARチョコレートの日本での楽しみ方
最近では、日本でもBEAN to BARの認知度が上がり、専門店も増えています。ここでは、国内のBEAN to BARの傾向や楽しみ方を紹介します。
日本各地にある専門店で食べ比べる
今や全国的に専門店が増えているBEAN to BAR。カカオ産地の異なる板チョコレートを食べ比べ、好きな風味、産地を見つけてみましょう。例えば、「ダンデライオン・チョコレート」では、自家製チョコレートをベースにしたドリンクやケーキ、カカオ産地の違いを味わう焼菓子など親しみやすい商品もあります。こうしたものから試すのもいいですね。専門店ではチョコレートを包むパッケージデザインにも要注目!各ブランドの個性が色濃く表れる部分で、比較することでデザインも味も自分好みの1枚が見えてくると思います。ちなみに迷った時は店のスタッフに相談するのが一番。風味の特徴などを聞いて選べば、新しい発見があるかもしれません。また、スーパーやコンビニなどで気軽に買える「明治 ザ・チョコレート」も産地が異なるカカオの味わいを楽しむのにおすすめのBEAN to BARです。
地域性を取り入れたチョコレートを楽しむ
日本各地のBEAN to BARには、地域素材を取り入れたものもあります。例えば、沖縄の「OKINAWA CACAO」ではシークワーサーや、泡盛、黒糖を使ったチョコレートを、北海道の「SATURDAYS CHOCOLATE」ではミルクパウダーや大豆を使った板チョコレートを作るなど、その土地だからこそのオリジナリティある商品に出会うことができます。カカオ豆は海外のものですが、こうした地域素材との掛け合わせにより、唯一無二の味わいが生まれています。
ひと味違うBEAN to BAR チョコレートを食べてみよう
カカオ豆から一貫して作ることで様々な工夫が反映できるBEAN to BAR。カカオ産地の個性や素材との掛け合わせなど各作り手のこだわりを味わうほか、サステナブルな点で選ぶなど、BEAN to BARチョコレートの選択肢は広がっています。ぜひカカオ産地を思い浮かべながら食べ比べて、味の違いを楽しんでみてください。