現在の高齢者が要介護になる原因は、「生活習慣病と関節疾患」および「衰弱と転倒」の二つで半分以上になります。これは高齢者が直面している課題が前者では「過剰栄養対策」、後者では「低栄養対策」であることを意味しています。このことを「栄養障害の二重負荷」(世界保健機関(WHO)が定義する "Double Burden of Malnutrition (DBM)" の和訳※)と呼びます。中高年期にはメタボ対策をしていた人でも、高齢者になってからはむしろ低栄養への注意が必要なのです。
この二つの課題に対して、たんぱく質は重要な働きをします。生活習慣病に対しては、過剰なカロリー摂取に気を付け適度な運動を心がけ、たんぱく質を積極的に摂取して筋肉量を増やす、また、低栄養に対しては十分なたんぱく質摂取で筋肉量の低下を防ぐことが大切です。
高齢者の筋肉量の減少がたんぱく質摂取量によってどのように変化するかを調査した研究があります(下図参照)。これによると、たんぱく質の摂取量が多いほど筋肉の減少割合の少ないことが分かりました。このことは加齢による筋肉の減少を、適量のたんぱく質摂取により遅らせることを示しています。
体の組織は日々入れ替わっており、筋肉も3~4か月で入れ替わります。筋肉の合成のピークは20~30代で、それ以降は加齢により筋肉合成が徐々に低下するため、一年に1%ずつ減少するともいわれています。また、使用していない筋肉もどんどん衰えます。一方で筋肉の合成そのものは、高年齢になっても運動刺激により高めることができ、60代を超えても筋肉量を高めることは十分可能です。
※Jミルク報道用基礎資料(2016年3月)「日本人の栄養問題の変遷と今、直面する“栄養障害の二重負荷”」より引用
現代日本では、若い女性の「やせ(BMI18.5未満)」の問題が表面化しています。女性では、体重を気にするあまり、朝食を抜いたり、低カロリー食を続けたりすることで栄養素不足状態になります。若い成人女性の1日当たりのたんぱく質摂取量は少なく、50歳代や60歳代が65g以上なのに対して、20歳代では62.2g、さらに30歳代では59.7gと明らかに不足しています。
筋肉の材料となるたんぱく質摂取が減ることにより筋肉量が減少すると、筋肉が脂肪に置き換わって基礎代謝量も減少し、どんどん痩せにくいからだになってしまいます。
また、妊娠時や出産後の育児期の女性には、胎児や乳幼児の成長のために、エネルギーもたんぱく質も非妊娠時より多く摂ることが推奨されています。ところが日本産婦人科学会の調査では、妊娠時に摂取するエネルギーやたんぱく質量がふだんと変わらない女性が多く、また出産後の授乳期にも推奨量を満たしている女性は半数未満にすぎません。このことが背景となり、日本では、出生時体重が2,000g以下の低出生体重児数は、30年前と比較して約2倍に増加しています。低出生体重児は、将来成人になると、生活習慣病リスクの高まる可能性が指摘されており、社会的に大きな問題となってきています。
子どもはまだ体が未完成で、18~20歳に向けてどんどん発達していく時期です。この時期の食事では、「栄養バランスを考えて食べる」「成長の分の栄養をしっかり摂る」ことが重要です。とくに、体のすべての部位の材料であるたんぱく質は、成長期には充分摂ることが求められますが、小・中学校卒業後など、学校給食が終わってしまうタイミングで、バランスの良い食事から遠ざかり、たんぱく質摂取不足になっていることが課題となっています。
また、給食を食べている時期でも、家庭での孤食や偏食などがあると、たんぱく質摂取量は不足してしまいます。この時期は、保護者が食事を用意して一緒に生活する期間が長く、同居する大人の影響を受けやすいといえます。大人が正しい知識を持って、子どもに正しい食習慣を身に着けさせることが大切です。
ダイエット志向の低年齢化も問題です。美容を意識した女子が間違ったダイエットをすると、将来、出産や妊娠時に必要なからだの機能に障害が生じたり、骨粗しょう症などの障害が早期に現れたりします。さらに思春期には、ちょっとしたことから摂食障害など深刻な事態に陥ることも。からだの成長に合った食事をきちんと食べて、適度な運動を心がけ元気なからだをつくりましょう。
運動してたんぱく質をきちんと摂り、しっかりした筋肉をつくり維持することが、すべての世代の健康課題の解決につながります。
筋肉づくりには、動物性たんぱく質(牛乳・乳製品、肉、魚、鶏卵など)がおすすめです。なかでも牛乳・乳製品に含まれる乳たんぱく質には、筋肉の材料になるBCAA(分岐鎖アミノ酸:バリン、ロイシン、イソロイシン)が豊富です。また、消化吸収性が非常に高いことも大きな特徴です。
牛乳を原料としているヨーグルトやチーズでは、乳酸菌の働きでたんぱく質の一部がアミノ酸やペプチドにまで分解されているので、さらに消化・吸収されやすい形になっています。 また、特別な調理の必要がないため毎日続けて摂りやすく、運動後でも手軽に摂取できます。
牛乳は脂肪分が多く太ると考えられがちですが、牛乳200mlのエネルギー138kcalは、20歳代女性の1日に必要な1,950kcalのわずか7%にすぎません。少ないエネルギーにもかかわらず、良質なたんぱく質の他、ビタミンAやB2、日本人に不足しやすいカルシウムを豊富に含んでいて栄養素密度が高いのが牛乳です。
普段の食事に一品プラスしたり、料理に使うなど、乳・乳製品を食事の中でうまく活用して、しっかりとたんぱく質を摂取し、健康維持に役立てましょう。