
東京チョコレートサロンとは?
今年で3回目の開催となった「東京チョコレートサロン(Tokyo Chocolate Salon:略してTCS)」。本記事では、(株)ポットラックインターナショナル 平田がこのイベントについて詳しくレポートします。
イベントの概要
渋谷ヒカリエ9階 ヒカリエホール ホールBで2025年9月27日(土)、28日(日)に開催された東京チョコレートサロン。様々なチョコレートを発見・体験することのできる、チョコレートが好きな人に向けたイベントです。今年は日本国内・海外のブランド合わせて42ブランドが出展しました。
このチョコレートイベントを主催するのはカカオ商社の株式会社立花商店。世界各国のカカオ豆を輸入している会社です。2013年と2014年には、TCSの前身となる「Tokyo Chocolate Salon ~Bean to Bar Experience~」を横浜・赤レンガ倉庫で開催。カカオやチョコレートの作り手と消費者を繋げる活動を早くから展開し、ブランクを経て2023年にTCSとしてイベントを再度実施。それから3年目となり、少しずつ認知度も上がってきているようです。

主催者の想いやイベントコンセプト
他のチョコレート関連のイベントや催事はバレンタインからホワイトデーの時期に行われることがほとんどですが、TCSはカカオやチョコレートが好きな消費者と、カカオの生産者やチョコレートの作り手がバレンタイン以外の時期にも交流できるようにしたい、という思いからスタートしたイベント。今年は「カカオの深さと広さ」「生産者・作り手・消費者のつながり」がコンセプトです。
お目当てのチョコレートを買ったり、作り手と交流したりできるのはイベントの楽しみのひとつですが、今年はTCSならではの新たな企画がいろいろと登場。詳しくは後ほどご紹介しますが、チョコレートを「買う・食べる・交流&体験する」など様々な切り口で楽しめるのがTCSの特徴です。
会場の雰囲気や来場者の様子
チョコレートが好きなファンが中心で、幅広い年齢層が来ているTCS。1人の方もいれば数人のグループもあり様々です。作り手との交流やテイスティングを楽しみながらブースを回るほか、熱心に複数のセミナーに参加している来場者もいます。
カカオやチョコレートを扱うブランド、メーカーなど業界関係者の方も多く、今年のトレンドや今後の動向などの情報交換のほか、作り手同士が交流する場面もあちらこちらで見られました。
出展者にも会場の雰囲気や来場者について聞いたところ、知識があるお客様、熱心なチョコレートファンも多く、店舗に立っている側もとても勉強になるとのこと。全体を見渡せるコンパクトなフロアではありますが、皆が笑顔で楽しんでいる様子が印象に残りました。

今年の出展者の顔ぶれ
初出展の9ブランドを含めて、42ブランドが一堂に会した今回のTCS。Bean to Barに関しては、北海道から沖縄まで日本全国の様々なブランドのほか、オランダやベネズエラなど日頃 日本国内で手に入らないブランドもありました。そのほか、ショコラティエやパティスリー、大手メーカーなどが出展。カカオポッドの形のアクセサリーを扱う店もあり、多種多様なカカオ・チョコレート商品との出会いの場となりまた。

また、昨年も人気だったイートインコーナーが今年も設けられ、ドリンクやデザートだけではなくカレーの提供も。カカオやチョコレートを使った食の広がりが感じられます。


充実したコンテンツ
3回目の今年は、昨年よりもブランド出店以外のイベント要素が盛りだくさんの印象を受けました。
会場を入ると、本物のカカオの樹や、カカオ⾖の発酵・乾燥などのプロセスがわかる模型などが並び、視覚的に楽しめる仕掛けがいろいろ。また、業界初と言える全国の Bean to Bar チョコレートブランドをまとめたマップも展⽰され、食べるだけではなくカカオ・チョコレートを学ぶ情報収集の場としての価値も感じられます。

今年人気だったのが「カカオ交換所」。カカオの⽂化のひとつとして、その昔カカオ豆が貨幣として使われていたことを体験するという企画で、来場者は各ブースで買い物をした際にカカオ豆を3粒受け取り、それを集めて様々な景品と交換できます。めったに体験できない“カカオカッター”の体験や各ブランドの⾮売品などもあり、交換所には行列ができていました。
そして、もうひとつの目玉はベネズエラ・チュアオ村から来日した、7人の子どもたちによる音楽生演奏。チュアオ村といえば、品質の高いカカオで知られる有名なカカオ産地です。同村では、カカオを育てたり収穫したりカカオと向き合う時、感謝の意を込めて⾳楽を奏でる⽂化があるとのこと。主催者の立花商店では、気候変動やカカオの品質向上のため、カカオ栽培⽂化の保護も重要な課題で、消費者がチョコレートを楽しみ続けるためにも、カカオにまつわる⽂化を⽇本に伝える、理解・保護することも⼤事だと考え、今回の企画に繋がったそうです。

また、カカオポッドの一部になれる?!顔出し看板はフォトスポットとして人気に。写真を撮り合う人も多く、改めて「体験」がこのイベントのキーワードになっていることを実感しました。

体験という点では、昨年に続き幅の広いセミナーが2日間で10コマ開催され、熱心に話を聞く来場者で席が埋まっていました。例えば、商社対談『カカオショックってなに?これからのカカオとチョコレートの世界について』は、カカオ豆を扱う商社で働く方々のトークセッション。日頃どういう働き方をしているのか、苦労していることはあるのかなど本音トークに耳を傾ける人が多くいました。また、昨年人気だった百貨店バレンタイン担当者対談は今年も実施。来年のバレンタインの情報をいち早く知りたい、トレンドはどう作られるのかなど、リアルな現場の声が聞けるとあって立ち見者も多数出たセミナーです。
東京チョコレートサロンから、気になるトピックスや商品を紹介
①それぞれが掘り下げるカカオ・チョコレートの世界
“これ”という1つの流行があるのではなく、カカオが不足し価格高騰がニュースでも報じられる今、ブランドやショコラティエそれぞれが素材に向き合い、カカオやチョコレートの世界を掘り下げているように感じます。
例えば、鹿児島のBean to Barブランド「kiitos(キートス)」では、同じカカオ産地でもスムースな食感と、あえて粒子を粗くつくった食感のあるタブレットを販売。同じ板チョコレートでも、食感が異なることで風味の感じ方が違うという驚きと、新たなカカオの楽しみ方を感じた商品です。
オランジェット橋本氏がオランジェット※1好きが高じて立ち上げた専門ブランド「oranjewel(オランジュエル)」は、国産柑橘の個性をいかした様々なオランジェットがずらりと並び、購入者が絶えない状況でした。「ショコラティエ パレドオール」では、再生を意味するネーミング「Re-Cacao(リ カカオ)」をイベントで先行販売。ホワイトチョコレートを作る工程で脱脂してできるカカオパウダーに、再度 油脂を足してチョコレートに再生できないか、という発想によるチャレンジとのことです。
また、カカオ産地との繋がりもTCSらしいトピックスのひとつ。日頃、日本国内では購入できない海外のBean to Barブランドの出店もありました。そのひとつ「AZU CHOCOLATE」は、ベネズエラの産地・チュアオやサバネタなど希少な産地のカカオ豆のタブレットがあり、チョコレートファンからはその風味や品質の高さに対して高評価の声も聞かれました。

②新素材の広がり
様々なチョコレートに出会えるのがTCSの魅力のひとつ。
「(株)明治」では、世界で初めて※1素材化に成功したカカオハスク由来の美容サポート成分「カカオセラミド」を配合したチョコレート「カカオボーテ」を紹介。9月30日の新発売に先駆けて、TCSでのお披露目となりました。「カカオセラミド」を配合し、高カカオポリフェノール含有、さらに低糖※仕立てとのことで、チョコレートは食べたいけど美容や健康も気になる、という方に嬉しい商品です。(※明治ミルクチョコレート比 糖類40%減)

さらに、ややマニアックかもしれませんが、このTCSならでは、といえそうな商品をご紹介します。
ひとつはマカンボを扱うブランドがいくつかあり、思わず足を止めました。マカンボはカカオの親戚とも言われるナッツで同じテオブロマ属、カカオのシェードツリーにもなる植物です。日頃なかなか口にすることがないこうした商品に出会えるのは新しい体験。サクサクとした食感で、食べるとカシュ―ナッツのような風味が感じられます。今年は、マカンボを使ったチョコレートが、「ママノチョコレート」や「カラティール」、「Tatsunori Sato(タツノリサトウ)」にも並んでいました。

③五感で楽しむ
TCSに来ている多くのチョコレートファンにとって、次のトレンドは気になる点かと思いますが、意外にも、今回セミナーに登壇した阪急うめだ本店、松屋銀座店、高島屋のバレンタイン担当者のセミナーでは「トレンドを追わない」という興味深い話を聞きました。流行りを追いかけずお客様と一緒に売場やイベントを作っていくこと、作り手の思いや素材に対する情熱などを伝えて楽しんでもらうことなどを軸に、 “五感で楽しむ”、“体験”といった要素を大事にしているそうです。
TCSの会場で味わうドリンクやデザート、フードはまさに五感で楽しむ、その場ならではのワクワク感。筆者も会場で「memento mori(メメント モリ)」のアマゾンモレカレーを食べました。アマゾンカカオや香辛料を使用したメキシコの伝統料理「モレ」をカレーにアレンジしたもので、スパイシーな料理。スイーツからフードまで幅広いジャンルに使えるカカオ、チョコレートの魅力を再確認した一品です。
先述の①にも通じますが、TCSに並んでいるブランドや商品からは、それぞれの価値観でカカオやチョコレートの魅力と新たな可能性を伝えようとしているような印象を受けました。
まとめ
商品を買うだけではなく、TCSでは作り手との距離が近い会場で交流を楽しんでいる人が多い印象で、コンセプト「生産者・作り手・消費者のつながり」を感じるイベントとなっていました。
いろいろな素材との組み合わせ、味の種類やサイズ、見た目などチョコレートは本当に多種多様で、その世界はさらに横に、そして奥に広がっています。何を買って良いかわからない、自分に合う商品を見つけたい、といった方も、作り手と直接話をし、情熱や想いに触れることで商品やブランドに対する理解が深まるはず!ぜひ来年以降も、このTCSがお気に入りのブランドを見つけるほか、新しい味覚や商品との出会いを楽しむ場になればと思います。
(撮影:平田早苗)

管理栄養士、スイーツプランナー、ショコラコンシェルジュ®
大学卒業後、洋菓子関連の会社に入社し販売や商品開発に携わる。
その後2007年に独立、商品企画開発や店舗開発等のマーケティング、経営面でのアドバイスなど、スイーツやチョコレートのコンサルタントとして幅広く活動。2008年以降、サロン・デュ・ショコラ・パリをはじめ、世界各国のスイーツやチョコレート市場の調査を行うほか、カカオ産地も訪問。
ウイスキーとチョコレートが好きで、カルチャースクー等でショコラとウイスキーのマリアージュセミナーを多数実施。ウイスキー専門誌「ウイスキーガロア」のテイスターを務めるほか、日本で初となるスピリッツのコンペティションTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)の審査員も務める。
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