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ひらけ、カカオ。ライフスタイルブランド発表会レポート

チョコレートはカカオを原料として作られる菓子。そのことは広く知られていますが、食べ物ではない分野においてもカカオを活用する動きが始まっています。2023年6月28日、株式会社 明治(以下、(株) 明治)は「ひらけ、カカオ。ライフスタイルブランド発表会」を開催し、メディアに向けてその取り組みを発表しました。この記事では、発表会の様子や具体的な取り組み内容などをお伝えします。

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「ひらけ、カカオ。ライフスタイルブランド発表会」の様子

発表会会場となった六本木ヒルズ ヒルズカフェ/スペースの前には大きなカカオポッドのオブジェが設置され、これからカカオの話を聞く期待が高まります。中に入るとカメラを携えた多くの報道関係者が集まっており、その人数の多さからも関心の高さが窺えました。(株) 明治(代表取締役社長:松田 克也)は、「衣・住のカカオコーディネートでカカオに関わる全ての人のウェルネスライフを実現」をコンセプトに、カカオのアップサイクルを通じてプロデュースするライフスタイルブランド「CACAO STYLE」を立ち上げ、そのお披露目を兼ねた発表会が行われました。
食品ではない分野でのカカオの利用、と聞いてもピンと来ない方も多いかもしれません。発表会で紹介された製品は、「これがカカオでできているの?」と、カカオとイメージが結びつかないようなものが数多くありました。実は、松田社長が報道陣の前に登場した時、スーツではなくデニムジャケットを着用されていたことに少し驚いたのですが、発表会が進むにつれこれについても納得。カカオハスク(カカオの種皮)を使った繊維で作られているデニムジャケットだったのです。

発表された「CACAO STYLE」とは?

「CACAO STYLE」は、(株) 明治が手掛ける新しいブランドの名前。同社として食以外のブランドを立ち上げるのは初の試みです。これまで、チョコレートの製造工程においてカカオハスクは取り除かれ、有効活用されることはあまりありませんでした。飼料や肥料、燃料などに使用されてきたものの、カカオハスクの持つ可能性を広げ、さらなる価値を作り出したいという想いから、カカオのアップサイクルを通じて新しいライフスタイルを提案するブランド「CACAO STYLE」が立ち上がりました。カカオハスクの量は日本国内では推定4千900トンほどで、これは日本のカカオ豆の輸入量の約10%に当たります。世界に目を向けると50万トンほどカカオハスクがあると推定されており、「世界的に大きなビジネスチャンスがある」と松田社長は語ります。
食品を超え、あらゆる生活をデザインするプロダクトを「カカオ」から作り出し、それらの発売を通じて、これまでとは異なるカカオの新たな可能性に挑戦するというブランドは、(株) 明治としては新たな挑戦。一体、どんな製品がカカオから生まれているのでしょうか?

(写真下:カカオの種皮、カカオハスク)

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カカオから生まれた「CACAO STYLE ROOM」

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写真のCACAO STYLE ROOM(カカオの部屋)は、床から壁、雑貨や布製品まで、原料の一部にカカオハスクを使用した製品で構成されています。CACAO STYLE ROOMに近づくとほんのりとカカオの香りを感じ、原料にカカオを使っていることを体感することができました。これらの製品は、(株) 明治のサステナブルアクション「ひらけ、カカオ。」のコンセプトに賛同した、異業種のパートナー企業との協業で開発されたアップサイクル商品。最近良く目にしたり聞いたりすることがある「アップサイクル」とは、本来使用することのない素材に新たな価値を付与して、全く別の製品へと生まれ変わらせることで、創造的再利用とも呼ばれています。リサイクル(再資源化)とは異なり、元の製品よりも価値が高いものを生み出すことを目的とします。今まで積極的に活用されてこなかったカカオハスクを利用し、新たな価値を持つ別の製品に生み出す動きもアップサイクルのひとつと言えるでしょう。
次に、具体的にどのような製品が、カカオハスクを原料にして誕生したのかをご紹介します。

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①床材と壁材
未利用部位や食品廃棄物などから新素材を作るfabula(ファーブラ)株式会社は、その技術を生かして建材や雑貨などを手掛ける企業です。同社との協業により、カカオハスクを使った床材が誕生しました。床材は、鼻を近づけるとチョコレートと間違えてもおかしくないくらい香りがしっかりとしていて驚きました。
また、壁材は大日本印刷株式会社(DNP)がカカオハスクを活用して開発したリサイクルボード。DNPグループは、再生素材を活用して環境に配慮した販促物を製作しており、その実績やノウハウを生かして、今回(株) 明治と共同で、カカオハスクを活用した壁材を開発、作成しました。
こんな床材や建材を使ったお部屋があれば、一日中カカオ・チョコレートの香りに包まれて過ごせそうです。

(写真奥が床材・手前が壁材)

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②小物類
<コースター>販売中
前述のfabula株式会社と、株式会社 漆琳堂との協業によるコースター。カカオハスクの表情を残したものと、違ったテクスチャーのものと2種類あります。チョコレートドリンクやココアを飲む際にカカオハスクからできたコースターを使えば、チョコレート好きにとっては楽しいティータイムになりますね。

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https://store.fabulajp.shop/items/75660912

<GATOボンボニエール>販売中
石川県・山中温泉は漆器の地。伝統工芸「山中漆器」の廃材にカカオハスクをブレンドし、アップサイクルした漆器です。開発パートナーは、菱華産業株式会社と株式会社我戸幹男商店。カカオハスクを入れたことで、漆器の成型不良が改善したという新たな発見もあり、カカオハスクの可能性を感じたそう。お菓子を入れたり、小物を入れたりするのにぴったりの一品です。

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https://www.miraiwood.com/

<花瓶>販売中
3Dプリンターの技術を使って作られたのは、カカオハスクを使用した花瓶です。これを開発したVOID株式会社は、(株) 明治の考えるカカオハスクの可能性(食品を超えて様々な領域にカカオを利用する)に共感し、brown(茶色)とnew(新しい)を組み合わせた「brownew」というブランドを立ち上げました。見た目はシンプルですが、花瓶は一つ一つ表情が異なり、使うほど愛着が沸く商品になりそう。VOID株式会社は、カカオ特有のブラウンカラーから新たな表情をもつ商品として、人々の生活の一部になることを目指しているとのことです。

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https://brownew.com/

これらの他にも、紙コップにはめて使うスリーブ「CACAOカフェスリーブ」や、チョコレートを入れておきたい「CACAOキャニスター」、カカオハスクを混ぜ込んだ樹脂から作られたトレー、カカオハスクを加えた繊維から作られたデニムジャケットなど様々な製品が会場内に展示されていました。商品により販売時期が若干異なりますが、発表会が行われた6/28から各社のwebサイトで販売開始しているものもあります。

CACAO STYLE HP:
https://www.meiji.co.jp/sustainability/newaction/cacao/cacaostyle/https://www.meiji.co.jp/sustainability/newaction/cacao/cacaostyle/
※展示した一部商品を販売しております。
※HPを通じて販売先にアクセスできます。

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(写真上:(株) 明治 松田社長(中央右)と協業した企業の方々)

CACAO STYLE ROOM(カカオの部屋)を体験!

メディア向け発表会のあと、6/30~7/2の期間限定で"CACAO STYLE ROOM(カカオの部屋)"が体験できる「ひらけ、カカオ。ポップアップストア」が、同スペースで開催されました。
カカオハスクをアップサイクルした様々な製品が並び、実際に見て質感や香りを体験することができるイベント。会場で案内をしていた(株) 明治の担当者・晴山さんに、カカオハスクを使った製品の展開についてお伺いしました。『「ひらけ、カカオ。」の取り組みに共感頂き、協力してくれる企業がさらに増えると嬉しい。製品の数を増やすというよりは、まずは共感の輪と活動を広げ、そのことが結果としてカカオ生産地への還元に繋がったら良いと考えています。」と話してくれました。
「CACAO STYLE ROOM(カカオの部屋)」を体験した来場者からは、これらがカカオでできている驚きや、おしゃれな印象を受けたなど、非常に良い評価だったとのこと。有効活用されてこなかった未利用部位がこのように生まれ変わり、身近な食品であるチョコレートに関連したサステナブルな取り組みを行っていることに対し、関心が高い消費者が多いという手ごたえを感じたそうです。

さらにこのポップアップストアでは、「ひらけ、カカオ。」のスローガンのもと生まれたカカオ新素材「カカフル」「カカウェル」シリーズの商品も無料でプレゼントしていました!(※タブレット、カカウェルの2商品は無料配布、ドリンクとソルベはSNS投稿でのプレゼント配布。)

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カカフルは、「カカオはフルーツ」「カカオフラバノール」「カカオで満たされる(full)」の3つの意味を込めた商品名のシリーズです。カカフルのタブレットやドリンク、ソルベは、私たちが知っているチョコレートとは全く違う味わい。喩えるなら・・アセロラやラズベリーのような甘酸っぱさとフルーティーな風味!ほっぺがキュッとなるような爽やかな酸味、甘酸っぱさがクセになりそうな感じです。そして、カカオがフルーツだと実感できる商品でした。

また、「カカウェル」は、「カカオ」と「ウェルネス」を組み合わせた商品名。スーパーフードと呼ばれるカカオに、アーモンドやはちみつ、デーツなどを加えた、ひとくちサイズの食品「カカウェル」を私も早速試食しました!
甘味はかなり控えめ。チョコレートのような菓子ではなく、カカオやナッツ、ドライフルーツをぎゅっとまとめた食品という表現が合うように感じました。これまでに食べたことがない新しい味わいかもしれません。食物繊維や4種のミネラル、ビタミンEを含む「カカウェル」は、ちょっと小腹が空いた時など、健康的な間食を求める方にはぴったりの、新しいカカオ素材食品と言えると思います。

様々な角度から、これまでにないカカオの可能性やその利用方法を感じた「ひらけ、カカオ。ライフスタイルブランド発表会」ならびにポップアップストア。
カカオといえばチョコレート、そしてチョコレートから派生するドリンクや菓子などは既に身近な存在ですが、食品にとどまらず、非食品の領域で価値を広げていくという(株) 明治の新たな挑戦に、取材した私も非常に刺激を受けました。
特に印象に残ったのは、メディア向け発表会で松田社長が発した「多くの人に愛されるチョコレートだからこそ、カカオに関わるすべての人が笑顔で豊かになる仕組みを作りたい。」というメッセージ。まずは多くの人がカカオの可能性を知り、アップサイクル製品などを通じて生産地や生産者のサポートに繋がる仕組みができればいいなと感じました。カカオからできた製品でコーディネートした空間、そしてそこでチョコレートを楽しむ・・なんていう、考えてもみなかったカカオの可能性と未来が広がるイベントでした。

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このコラムは私が書きました。

プロフィール:平田早苗 / 管理栄養士、スイーツプランナー、ショコラコンシェルジュ®

大学卒業後、洋菓子関連の会社に入社し販売や商品開発に携わる。その後2007年に独立、様々な商品企画開発や店舗改善、経営のアドバイスなど、スイーツやチョコレートのコンサルタントとして幅広く活動。2008年以降、毎年サロン・デュ・ショコラ・パリの視察や、世界各国のスイーツ、チョコレート市場の調査を行う。
ウイスキーとチョコレートが好きで、カルチャースクール等でショコラとウイスキーのマリアージュセミナーを多数実施、ウイスキー専門誌「ウイスキーガロア」のテイスターを務めるほか、日本で初となるスピリッツのコンペティションTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)の審査員も務める。
http://www.potluck-i.com/