
2024年9月21日、22日に開催された東京チョコレートサロンの様子をレポートします。2023年に続き2回目の開催となる「東京チョコレートサロン」。国内外の様々なチョコレートを発見、体験できる、チョコレートファンに向けた新しいイベントです。
東京チョコレートサロンとは?
「東京チョコレートサロン(Tokyo Chocolate Salon:略してTCS)」とは、日本国内・海外の様々なチョコレートを発見・体験することのできる、全てのチョコレートファンに向けた新しいイベントのこと。
2023年に続き2回目の開催となった「東京チョコレートサロン」。本記事では、(株)ポットラックインターナショナル 平田がこのイベントについて詳しく解説します。
イベントの概要
今年の東京チョコレートサロンは、2024年9月21日(土)、22日(日)の2日間、渋谷ヒカリエ9階 ヒカリエホール ホールBで開催され、47ブランドが出展しました。
主催者の株式会社立花商店は、世界各国のカカオ豆を輸入しており、実はこのイベントの前身となる「Tokyo Chocolate Salon ~Bean to Bar Experience~」を2013年、2014年に赤レンガ倉庫で開催していました。

主催者の想いと、他のイベントとの違い
日本国内では、1月中旬~2月14日までのバレンタイン時期に合わせて、チョコレート関連の催事・イベントが開催されることが多いです。一方、海外に目を向けると、アメリカ・シアトルでは10月初旬に「ノースウェストチョコレートフェスティバル」が、フランス・パリでは10月下旬に「サロン・デュ・ショコラ パリ」が毎年開催されています。
東京チョコレートサロンは、チョコレートファンと、カカオの生産者やチョコレートの作り手が、バレンタイン以外の時期にも交流できるようにしたいという思いからスタートしたイベントです。よって、本格的なチョコレートシーズンが始まる秋に開催されています。
また、日頃はなかなか聞くことができないカカオ生産者や、ブランドを越えた作り手同士、チョコレート業界の裏方を支える方々のトークなど、ここでしか聞けないセミナーを多数設定しているのも東京チョコレートサロンの特徴です。
出展者の顔ぶれ
東京チョコレートサロンに出展した47ブランドは、Bean to Bar、ショコラトリー、メーカー、その他に分けられ、中でもBean to Barが全体の半数以上を占めました。北海道から沖縄まで、日本各地から集まった作り手のみならず、海外のチョコレートを扱うブランドもありました。また、その場でドリンクやデザートを提供するイートインコーナーも設けられました。
カカオ、チョコレートに関するセミナー
東京チョコレートサロンでは、カカオ生産者やショコラティエ、カカオを扱う商社、百貨店バレンタイン担当者など、様々な顔ぶれのバラエティ豊富なセミナーが、2日間で10講座以上開催されました。参加費無料、テイスティングができるものも多くあって、チケットが販売されると早くに満席となり、その人気の高さが窺えました。当日は、熱心に聴講する方々の様子が印象的でした。
例えば、21日に行われたセミナー『今世界でカカオはどうなってるの?チョコレートは高級品になっちゃうの?』では、カカオ商社の視点から、今なぜカカオ豆は入手困難な状況になっているのか?何か対策できることはあるのか?などが語られました。
また、22日には『カカオパルプを楽しもう!パルプを使った商品大試食会!!』というセミナーが開催されました。(株)明治も含めた4ブランドがカカオパルプ を使った商品を持ち寄り、解説と共にテイスティングするという内容。カカオはフルーツという認知が少しずつ広がり、東京チョコレートサロンでもチョコレートファンの関心が高まっていることを感じました。

来場者の様子
チョコレートファンと思われる若い女性以外にも、落ち着いた年齢層の男女や、仕事としてカカオ・チョコレートに関わっていると思われる30代~50代の来場者も多く見られました。様々なチョコレートをテイスティングしたり購入したりしながら、ブース巡りを楽しむほか、熱心に生産者や作り手の話を聞く様子が各ブースで見られ、カカオ・チョコレート業界の情報収集や動向の視察、交流の場として活用されている雰囲気が感じられました。
東京チョコレートサロンで感じた、カカオ、チョコレートのトレンド
これから始まる本格的なチョコレートシーズンに向けて、東京チョコレートサロンというイベントならではのトピックスをいくつか紹介します。
①カカオ・チョコレートの世界の広がり
一般的にBean to Barとは、カカオ豆から板チョコレートを一貫して手掛けるスタイルを指しますが、その枠を超えた取り組みをするブランドが増えてきています。
例えば、カカオ農園からチョコレートファンの手に届くまで全工程に関わるほか、特定のカカオ産地を支援しそのカカオ豆を使うなど、産地との繋がりを大事にしたブランド。一方で、ショコラティエやパティシェが、自らが目指す味覚、品質のために、カカオ豆から手掛けるケースも増えています。Bean to Barは、本来は「カカオ豆から板チョコレートまで」を意味する言葉ですが、板チョコレートで終わらずお菓子やドリンクまで手掛けるなど、カカオ・チョコレートの世界は広がっていて、私たちチョコレートファンの選択肢も増えているのが最近の傾向です。
②和素材を合わせる、日本独自のチョコレート進化
広がりという点では、日本独自の進化も潮流のひとつでしょう。
新潟県の「SWEETS ESCALIER」では、一部の板チョコレートにカカオ豆を味噌や麹に漬け込んだものを使用、味噌や麹の風味が残った独自のチョコレートを展開しています。七味唐辛子製造元「根元 八幡屋礒五郎」では、七味唐辛子製造で培った焙煎・粉砕の技術をチョコレートづくりに転用。カカオに唐辛子や柚子、白胡椒、山椒、生姜、紫蘇、麻種などを合わせた、和のスパイスチョコレートを作っています。
こうした、海外ブランドにはない素材使いや味作りを手掛けるBean to Barブランドが出てきていて、チョコレートは日本独自に進化していることを感じました。

③カカオを食べるだけでなく「飲んで」味わう・愉しむ
「(株)明治」では、甘酸っぱい味わいのカカオ果汁と、カカオ豆から抽出した独自新素材カカオフラバノールエキスを配合した「カカオフラバノールドリンク」や、meiji THE Chocolateフルーティカカオをベースにした会場限定ドリンク「のむチョコ」3種を展開していました。

イートインコーナーに出展した「memento mori」では、カカオパルプやカカオパルプシロップ、カカオコニャック(カカオをコニャックに漬け込み)、カカオジン(カカオを漬け込んだジン)を活用したカクテルなどを提供。「食べる」チョコレート以外のこうした商品と出会えるのは、東京チョコレートサロンの魅力のひとつです。

東京チョコレートサロンからイチオシを紹介!
次に、東京チョコレートサロンに出展していた中からいくつかのブランドや商品をピックアップしてご紹介します!
①meiji
(株)明治では、カカオ豆から抽出した独自新素材「カカオフラバノールエキス」を活用し、ドリンクやゼリーを開発しました。カカオ全体を丸ごと有効活用(ホールカカオ活用)することで、カカオ生産者に対して新しい価値を創造することを目指しています。
また、イベントでは(株)明治 グローバルカカオ事業本部 宇都宮副本部長によるセミナーも開催され、ホールカカオ活用の取り組みの一環として、「ホワイトカカオミルク」というドリンクを開発、製品化を目指しているお話を伺うことができました。
メキシコのチアパス州タパチュラで栽培される「ホワイトカカオ」は、アントシアニンという色素がないためカカオ豆が白色の希少品種。(株)明治はこの希少性に着目、ホワイトカカオ専用栽培農園と契約しました。従来のカカオ、チョコレートは茶色ですが、このホワイトカカオの特性を活かして、白色でミルク風味 がするカカオドリンクを開発したとのこと。現在は販売目前の状況だそうです。

②カカオハンターズ
カカオハンター®小方真弓氏がコロンビアで立ち上げたブランド。昨年の東京チョコレートサロンはコロンビア滞在中のため参加できず、今年が初出展となりました。
小方氏は1997年よりチョコレートの開発に携わり、2010年よりコロンビアにて活動を開始。カカオの品種、遺伝子を追いかけるうちにコロンビアの山奥に住む先住民・アルアコ族生産者のカカオを知りました。サスティナブルな取り組みをしながら、生産者のサポートにも尽力、当初は22の農家との付き合いでしたが、現在は3000農家まで広がりました。ブランドの代表商品は「アルアコ72%」。何年もかけて人間関係を構築しながら誕生した商品で、カカオの遺伝子、現地の文化・歴史、おいしさがすべて絡み合った一品です。

③nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO
シェフ・ショコラティエ・村田友希氏が手掛けるBean to Barの手法を用いたチョコレート専門店。カカオの風味を最も感じてほしいという思いのもと、素材の風味を壊さないようにしながら製造しています。
Bean to bar業界は全体的に個性をとがらせる傾向があるのに対し、村田氏はよくも悪くもニュートラルなチョコレートづくりを心掛けているとのこと。それが、店を構える日本橋浜町において、子供から年配の方までに受け入れられる理由だと考えているそうです。チョコレート作りだけではなく「まち作りとして取り組んでいる」という思いや、誰もが普段使いしやすい「まちのチョコレート屋でありたい」と語る穏やかな笑顔が印象に残りました。

④SWEETS ESCALIER
3人で製造する新潟県の小規模なBean to Barながら、国際的なアワードで度々上位にランクインしているブランドです。サンプルを取り寄せるなかで、シングルオリジンのカカオだけにこだわらず、インスピレーションを掻き立てるフレーバーのものを採用。カカオと向き合い、その個性を壊すことなく素直に伸ばして商品にすることを心掛けているとのことです。
味噌、塩こうじ、かんずりなどを使用して作った、オリジナリティあるチョコレートが並びます。小ロットの製造のため、その時々で多彩な種類を展開していますが、代表商品は「サンタマリア デル フィオーレ ブレンドカカオミルク45%」です。

⑤Chocosil
業務用チョコレートメーカー「東京フード」が立ち上げた、同社初めてのB to Cブランド。2020年より社員の有志が集って活動開始し、小売りを始動しました。
2025年1月には、つくばに初店舗を開店するそう。社員が手掛ける商品が日の目を見られる場とすることや、やりがいを感じられる場所としての意義があり、地域貢献につなげたいという思いもあるとのことです。
ユニークなロゴキャラクターは、ブランド名「チョコシル(チョコを知る)」という好奇心を掻き立て、チョコレートの世界にどっぷり浸かってもらいたいという思いをデザイン化したもの。ブランドの推し商品は、甘味と塩味、柔らかさと硬さ、風味の構造全てにこだわった「ショコラ・テリーヌHASHIYA」や、割るとソースが出てくる「タブレット カラメルバナナ」です。

まとめ
東京チョコレートサロンでは、カカオ生産者や作り手と直接会話して思いやこだわりを知るなど、交流を楽しむ方々の笑顔がとても印象的でした。チョコレートを購入する楽しみはもちろんありますが、商品の背景にあるストーリーや産地の情報などを知ることで、さらにそのおいしさが深まると思います。
1年に1回、カカオやチョコレートファンが集う東京チョコレートサロン。今年行きそびれてしまった方は、ぜひ次回の情報をチェックしてくださいね。
(撮影:ヌマユミコ)

管理栄養士、スイーツプランナー、ショコラコンシェルジュ®
大学卒業後、洋菓子関連の会社に入社し販売や商品開発に携わる。その後2007年に独立、様々な商品企画開発や店舗改善、経営のアドバイスなど、スイーツやチョコレートのコンサルタントとして幅広く活動。2008年以降、毎年サロン・デュ・ショコラ・パリの視察や、世界各国のスイーツ、チョコレート市場の調査を行う。
ウイスキーとチョコレートが好きで、カルチャースクール等でショコラとウイスキーのマリアージュセミナーを多数実施。ウイスキー専門誌「ウイスキーガロア」のテイスターを務めるほか、日本で初となるスピリッツのコンペティションTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)の審査員も務める。