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カカオハスクをバイオプラスチックへ。開発者が語るカカオ樹脂プラスチックの可能性、未来への想い。

カカオハスクをバイオプラスチックへ。開発者が語るカカオ樹脂プラスチックの可能性、未来への想い。

カカオの未活用部位を最大限に活用できないか? 研究開発の中で新しい可能性が発見され、今後その活用が期待される「カカオ樹脂プラスチック」。それを手掛けるのは、バイオプラスチックの分野で世界的に高い評価を受けている株式会社へミセルロ―ス(以下、ヘミセルロース社)の代表取締役社長・茄子川 仁氏です。 今年行われたカカオ”美容”新素材発表会にも登壇された茄子川氏に、協業背景からバイオプラスチックについて、そして「カカオ樹脂プラスチック」について詳しく伺いました。

ヘミセルロース社と明治の協業経緯

株式会社 明治(以下、明治)では、「ひらけ、カカオ。」をスローガンに、チョコレートの原料としてだけではなくカカオが持つ様々な可能性を追求し、新しい価値の創造を推進しています。その中で、昨年2023年には今までほとんど活用されてこなかったカカオハスクを活用し、食品を超えて、あらゆる生活をデザインするプロダクトを展開する「CACAO STYLE」を立ち上げました。そこでヘミセルロース社と明治の協業が始まりました。

ヘミセルロース社のアップサイクル活動

バイオプラスチック事業のきっかけ

茄子川氏が会社を設立したのは2009年。バイオプラスチック事業に取り組まれたのはどのようなきっかけなのでしょうか。

茄子川氏は、「自動車でもスマホでも、素材からいきなりできあがるのではありません。“素形材”※1 といわれる金型、部品を作る工程があります。その大半を中小企業が担っていて技術力も優れています。この分野が日本の製造業で最も付加価値を生んでいると考え、素形材メーカーを支える会社を作りたいと思い起業しました。」と話します。
※1 金属やプラスチックなどの素材に熱や圧力を加えて形を作った部品や部材のこと

しかし、この産業分野は国内では仕事が少なくなりつつあるとのこと。そうした状況下で、茄子川氏は環境に優しい植物由来のバイオプラスチックという素材を国内で開発・生産すれば、素形材産業にもプラスになるのではないかと考えました。
「わざわざ海外から原料を仕入れるのではなく、日本国内にある植物を使うということは、資源が少ない日本でも作れるメリットがあります。メイドインジャパンの素材なのです。」と伺い、私たち消費者が何気なく手にする製品が、国内の植物でできている可能性があることに驚きました。

バイオプラスチック原料へのこだわり

現状流通しているバイオプラスチックの多くは、農薬栽培や遺伝子組み換えがされた食品・飲料向けのサトウキビ、トウモロコシの実などが使われています。ヘミセルロース社は、植物の中でも食品や飲料に使われていない皮、茎、絞りかすなどを原料にする“未活用植物のアップサイクル”にこだわっています。

出典:「カカオ“美容”新素材発表会」より

カカオ樹脂プラスチックについて

カカオ樹脂プラスチックの特徴

カカオハスクからプラスチックができるというのはなかなか想像しづらいですが、その特徴はどのようなものでしょうか。

茄子川氏は、カカオハスクの分析・研究を行う中で大きな可能性を感じたそうです。これまで様々な植物素材、食べられない部分などで研究開発をしてきた茄子川氏。できあがる製品の硬さと柔らかさは植物素材に含まれるセルロースとヘミセルロース※1という多糖類の種類や割合によって変わり、植物により違いがあります。通常はどちらかに偏っていることが多いのに、カカオハスクはその両成分がうまく含まれており、とても珍しいとのこと。
※1 植物の細胞壁に含まれる主成分

「カカオハスクにはセルロースやヘミセルロース以外にもいろいろな成分が含まれているため、構成は複雑。それが不安定な要因になる可能性もあり、コントロールする技術は必要です。ただ、コントロールすることで、硬いものから、柔らかさを活かした薄いものまで作ることができる点が特徴でありメリットです。」と茄子川氏は語ります。
このカカオハスクの特徴を活かし、他のバイオプラスチックを配合することで、100%植物由来でありながら様々な製品に成形できるカカオ樹脂プラスチックが開発されました。すでにチョコベビーの容器やマカダミアチョコのトレーへの製品開発が行われています。


硬さを活かして容器化、柔らかさを活かしてシート化できるカカオ樹脂プラスチック。  出典:「カカオ“美容”新素材発表会」より

カカオ樹脂プラスチックからできた「カカオシート」の厚みは0.2mm。そこから作られる名刺を見せてもらうと、向こう側がうっすら透ける薄さなのに両面に印刷ができ、尚かつ簡単には破れない強さも持っています。
茄子川氏は、「これまでコーヒーやビールの搾りかすなど様々試したが、ここまで薄いシート状にはならなかった。ほとんどの植物ではここまで薄く平滑なものにならないと思います。」と付け加えました。
水分が多い植物の場合はプラスチック化が難しいところ、チョコレートの製造にはカカオ豆をローストする工程があり、カカオハスクが安定して乾いた状態で入手できることがプラスチックの原料として優位であるそうです。


すでに取り組まれている開発製品

他にもどのような開発をされているか茄子川氏に伺いました。
「最近、カカオハスクから糸を作ることに成功しました。長繊維と短繊維という2種があり、長繊維はブラウスやスカートなどが作れます。短繊維は不織布といってふわふわした綿のような状態。Tシャツやポロシャツ、マスクや生理用品、ティーバッグ、おむつなどに使用することができます。」
製品化までには価格、製造工程などいくつかのハードルがありますが、カカオから洋服や身の回りの製品ができることになれば、夢が広がります。


新プロジェクト「meiji CACAO BEauty Project」参画の背景

明治は、世界初の「カカオセラミド」の素材化に成功し、その価値を、世の中へ届けるプロジェクト、「meiji CACAO BEauty Project」を立ち上げました。
本プロジェクトに参画した茄子川氏は、次のように語ります。
「今まで、カカオハスクを活用してチョコレートの容器やストローなど、バイオプラスチック製品をいろいろ開発しました。同じカカオハスクから、バイオプラスチックと化粧品が両方生まれたらより素晴らしいのではないか、と明治さんからお声がけいただきました。」

つまり、「meiji CACAO BEauty Project」はカカオハスクを起点に中身の化粧品となるカカオセラミドが抽出され、残ったカカオハスクで容器が作られるという、驚きのプロジェクトなのです。


「meiji CACAO BEauty Project」の発表があったカカオ”美容”新素材発表会の登壇者。 写真左から、ヘミセルロース社 茄子川仁氏、明治 松田克也、帝京大学 古賀仁一郎教授、Zero Gravity株式会社 竹岡篤史氏

カカオ樹脂プラスチックの可能性、未来への期待

最後に今後への期待などを伺いました。

「カカオ樹脂プラスチックの活用は日本のみの活動とは考えていません。このカカオハスクが日本のチョコレート工場で出るのと同じように、世界でもチョコレートにならない部分が大量に排出されています。カカオハスクのアップサイクルから生まれる収益を、カカオ産地の生産者の方々に還元していきたいと思っています。日本からこういった技術を、消費地や生産地など世界中に広げて、使っていただき、資源循環の輪を広げていくことが今後の目標です。」と教えていただきました。

世界中で消費されるチョコレート。だからこそ、未活用部位から新しい価値が生まれれば、資源の循環や生産地への支援が広がるはず!茄子川氏が手掛けるカカオハスクからバイオプラスチックへのアップサイクルは、大きな可能性を秘めています。今後、そこから生まれる製品を私たちが手にできる日がとても楽しみです。


茄子川 仁
株式会社ヘミセルロース 代表取締役社長

総合商社勤務を経て、2009年に製造業の根幹である金型・素形材分野を支援する()事業革新パートナーズを創業。2018年には植物・樹木の約20%を占めながら世界的に未活用の糖類“ヘミセルロース”を活用した100%植物由来・生分解性樹脂を世界で初めて開発に成功。
202371日付けで植物由来材料の研究開発・製造を行う「バイオマス事業」を分社化し、『株式会社ヘミセルロース』を設立。地球のCO2削減、海洋プラスチックごみ問題解決に挑戦している。