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近年注目のカカオ産地、台湾産カカオのチョコレートについて

近年注目のカカオ産地、台湾産カカオのチョコレートについて

日本から比較的近い台湾で、実はカカオが栽培されています。本記事では、台湾産のカカオを使ったチョコレートについて、その歴史や農園の様子、台湾のチョコレートブランドについて紹介します。

台湾産カカオとは?

台湾では、近年行政の支援もあり多くの農園がカカオを栽培しています。一部の農園では、Tree to Bar と呼ばれるカカオの木(Tree)から板チョコレート(Bar)までを一貫して手掛けるチョコレート作りを行っています。その背景や歴史について紹介します。

台湾でカカオ栽培がされるようになった背景

現在、カカオが栽培されているのは台湾の南部・屏東(へいとう)という地域です。この地域は元々ビンロウ(檳榔)ヤシというヤシ科の植物が栽培されていました。ビンロウは、台湾以外にもタイやベトナムなどアジア地域で噛みタバコのような嗜好品として知られています。発がん性があると言われており、健康意識の高まりから徐々に愛好者が減り、生産量や流通量も減少していきました。そこで、農家がビンロウヤシの代替として選んだのがカカオの木。2000年初頭頃からカカオの木を栽培する農家が少しずつ増え、屏東エリアに徐々にカカオ農園が広がっていきました。屏東は、熱帯果樹の栽培に適した気候で、マンゴーやパイナップルなどのトロピカルフルーツを栽培している地域です。
カカオは北緯20度から南緯20度のカカオベルトと呼ばれるエリアで栽培され、平均気温の変動が少ないことや、年間の降雨量が1000㎜以上あることなどが必要条件です。屏東は北緯約22度なのでカカオベルトよりわずかに北に位置しますが、5月~8月は雨量も多く、一年を通して温暖なため、カカオの栽培には適していたのです。

台湾のカカオ栽培の歴史

上記のように、台湾のカカオ栽培は、ここ20年ほどで注目されるようになりましたが、実はその歴史はおよそ100年前までさかのぼることができ、日本と関係が深いものでした。
1899(明治32)年、アメリカから帰国した森永太一郎氏が森永西洋菓子製造所(現在の森永製菓株式会社)を創業し、キャラメル、マシュマロとともにチョコレートクリームなどの製造販売を開始、1909(明治42)年には日本初の板型チョコレート(板チョコレート)の生産を開始しました。その後、1927(昭和 2)年2月、森永太一郎氏は台湾に渡り、カカオ栽培のための適地を探し求めて現地調査を行っています。これは、原料カカオ豆の自給自足体制を強化するためだったと考えられています。そして 1937(昭和12)年、同社の大串常務取締役が渡台、台湾の総督府当局と折衝のうえ基礎的栽培方針が確立したため、屏東農場の聖地、カカオ苗木の植付に着手しました。屏東には約千本の苗木を植付け、栽培、発酵、その他の研究が行われました。
また、1940(昭和15)年末頃から、明治製糖(現在の(株)明治)も台湾での適地を選び、カカオの栽培に着手しています。
その後、戦争によりカカオ樹栽培は中断されましたが、2000年初頭に再び台湾で栽培が始まることとなりました。

台湾のカカオ生産量

この20年ほどで再び栽培されるようになった台湾産カカオ。その生産量はどれくらいなのでしょうか。「世界のカカオ豆国別生産量推移」(資料:国際ココア機関(ICCO)カカオ統計 2020/21 第2刊)によると、アジア・オセアニアでのカカオ生産量の一覧に台湾の名前はなく、明確な生産量は示されていません。インドネシア 20万トン、パプアニューギニア 3万5千トン、フィリピン 1万トンなど、数量が示されている国々を除いた「その他」として 1千トンの生産量があり、この中に台湾が含まれていると推察すると、その量はかなり少ないことがわかります。

屏東のカカオ農園・取材レポート

次に、実際に屏東のカカオ農園を訪問した際の様子をレポートします。
訪れたのは林さんご夫妻が屏東で営むカカオ農園。林さんは元々ビンロウヤシの栽培をしていましたが、8年ほど前からカカオの栽培を始めたとのこと。現在は約 1haの農園で900本ほどのカカオ樹を育てています。ヤシも残っていますが、バナナなどの木と共にカカオのシェイドツリー(カカオを直射日光から守る役割の木)となっているそうです。
カカオのメインクロップ(収穫が多い時期)は2月~7月、サブクロップ(メインに続く収穫期)が10月~12月で、主な栽培品種はトリニタリオ。アメロナードという品種と思われるものもあるそうですが、品種の明確な確定は難しいと話します。
筆者が訪問したのは4月末。かなり蒸し暑く、日本の真夏のような気候。気温は30度以上ありました。ちょうどメインクロップにあたる時期で、幹のあちらこちらに赤、黄色、オレンジなど様々な色のポッドが実り、あともう少ししたら収穫するというタイミングでした。

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筆者は他国のカカオ農園も取材していますが、一番印象的だったのは他に比べて非常に蚊が多いこと。それについて質問をすると、林さんは「カカオの花の受粉に大事な蚊がいるから、除草剤や殺虫剤等を使用せずに栽培しているんです。蚊が多いのはもう慣れました。」と笑顔で答えました。農薬を使わないことで、カカオ栽培に関わる人の健康や環境への影響なども減らせるとのことです。
収穫したあとは農園で発酵を行うのではなく、そのまま契約しているチョコレートメーカーへ運びます。メーカーの施設内でチョコレートの専門家が品質をチェックしながら、発酵から乾燥まで一括した管理が行われていました。

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台湾産カカオのチョコレートブランド

ここからは、台湾産カカオのチョコレート(Bean to Bar や Tree to Bar)を製造・販売するブランドを紹介します。基本的には台湾国内のブランドですが、日本で手に入るものもありますのでチェックしてみてください。

FU WAN CHOCOLATE

台湾南部、屏東にショップやレストラン、宿泊施設を構えるほか台北市内にも店を運営しています。台湾産のカカオや食材を使ったチョコレートを手掛ける、台湾初の BEAN toBAR ブランド。創業者のウォーレン・シー氏は元々レストランの料理人ですが、カカオやチョコレートについての研究を重ね、カカオの発酵から手掛けるチョコレート作りを始めました。地元のカカオ農家と契約し、BEAN to BAR のみならず TREE to BAR(カカオの樹から板チョコレートまでを一貫生産)も手掛けています。
除草剤や化学肥料、殺虫剤を一切使わない環境に優しい農法を導入するほか、カカオを含む食材の多くを地元から取り寄せるなど、持続可能なチョコレート作りは、グッドデザインアワードにおいて、The future of chocolate [The sustainable chocolate business model]にて金賞を受賞しています。その他、International Chocolate Awards など国際的なチョコレート品評会で多数の賞を受賞してます。バレンタイン時期は日本でも買うことができます。

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TERRA

大地を意味する言葉「TERRA」が名前となっている台湾の BEAN to BAR ブランドです。台湾・屏東のカカオ豆を使うほか、台湾を含む12の地域(2024年にはさらに追加予定)からカカオ豆を集め、2021年に台北市で旗艦店をスタート。カカオ豆のローストからチョコレートまでを手掛けるほか、ボンボンショコラやドリンク、デザートなども提供しています。店の内装デザインはカカオの木が自生する熱帯雨林をイメージしています。
ナイトロ・アイスチョコレートは同店を象徴する商品のひとつで、アイスチョコレートに窒素を注入することで、滑らかでシルクのような質感を生み出しているとのこと。シングル・オリジンのアイス/ホットチョコレートは、日替わりで産地を選びます。板チョコレートは、シングル・オリジンのもののほか、地元の食材(カラスミや鉄観音茶など)を組み合わせたフレーバー・チョコレートもあります。また、台湾産カカオと地元の食材を使ったジンなども手掛けています。
昨年オープンした2号店「TERRA by the Sea」は、新北市の北海岸沿いにあり、のんびりとした雰囲気で、カカオフィズ入りのエスプレッソ・ロマーノや軽食などさまざまな商品を提供しています。

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※写真:TERRA 提供

まとめ

日本から近いものの、カカオが栽培されていることは意外と知られていない台湾。同じアジアの国々でカカオが栽培され、チョコレートが作られているとなると親近感が沸きますね!関心が高まっている台湾産カカオのチョコレート、日本で手に入る商品もありますので、見かけたらぜひ手に取ってみてください。

撮影・テキスト:平田早苗

プロフィール

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平田早苗
管理栄養士、スイーツプランナー、ショコラコンシェルジュ®

大学卒業後、洋菓子関連の会社に入社し販売や商品開発に携わる。その後2007年に独立、様々な商品企画開発や店舗改善、経営のアドバイスなど、スイーツやチョコレートのコンサルタントとして幅広く活動。2008年以降、毎年サロン・デュ・ショコラ・パリの視察や、世界各国のスイーツ、チョコレート市場の調査を行う。
ウイスキーとチョコレートが好きで、カルチャースクー等でショコラとウイスキーのマリアージュセミナーを多数実施。ウイスキー専門誌「ウイスキーガロア」のテイスターを務めるほか、日本で初となるスピリッツのコンペティションTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)の審査員も務める。
http://www.potluck-i.com/