カカオの文化

メキシコ(13)カカオドリンク5

Hola! こんにちは!オアハカのHirokoです。オアハカ州のカカオドリンク(全19種類)について紹介するシリーズ第4弾です。前回は赤いカカオドリンクを取り上げましたが、今回は泡立ちに重要なある共通の植物を使ったドリンクを集めました。

メキシコもまだコロナ感染の波が収まらず、なかなか現地の村まで行けないのですが、オアハカ市内で現地の味を再現したドリンクをできるだけ取材していますので、関心をもっていただけたら嬉しいです。

<オアハカ州の地図>番号は本文中のカカオドリンクのリスト番号です。

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今回紹介する4種の飲み物に共通するのは、ココメカトルという植物を使っていること。ココメカトル(Cocomecatl, Cocolmecatl, Cocolmeca, Cozolmeca, Cocomecaxihuitlなど様々な表記があります)は、熱帯アメリカ原産のサルトリイバラ科の植物(Smilax domingensis)で、メキシコでは昔から薬草として使われてきました。サポニンを多く含むため、メキシコ人が重要視する『泡立ち』をよくする目的で使われています。

12.KUA XIX (Pozontle de Yalálag) クア・シシュ(ヤララのポソントレ)

トウモロコシの植え付けや収穫、地域のお祭りなどセレモニーの際に用意される飲み物。山の中の村で暑いところではないのですが、このカカオドリンクは常温、または冷やして飲みます。

『飲む』というより、泡とトッピングの茹でてつぶしたトウモロコシを『食べる』感覚に近いです。さっぱりした味で、ローストしていないせいか、あまりカカオの風味は強くありません 。

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【地域】
Villa Hidalgo Yalálag ビジャ・イダルゴ・ヤララ村

【材料】
カカオ豆(ローストしない)、ココメカトル、黒糖、水、トウモロコシ(大粒、灰入りの水で茹でる)

【作り方】
カカオ豆はローストせずに乾燥だけした状態、ココメカトルは蔓の先端や葉の柔らかい部分を生のまま一緒に磨り潰し、少し水を加えてペーストになったものを団子状にする。それを少しの黒糖水と混ぜて濃い目の溶液を作りヒカラ(丸い木の実を刳り貫いたお椀)に入れ、飲む直前にさらに黒糖水を加えてモリニージョで勢いよく泡立てる。最後に灰入りのお湯で茹でてつぶしたトウモロコシをトッピングして、へらで混ぜながら食す。材料をヒカラに入れて一人分ずつ作るのが特徴。

13.KUA PAZONK (Pozontle de Zoogocho) クア・パソンク(ソオゴチョのポソントレ)

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カラフルな刺繍が素敵なソオゴチョの民族衣装の女性と、泡立ちたっぷりな様子が見て取れるクア・パソンク

※クア・パソンクの写真:引用© MUCHO-Museo del Chocolateより

結婚式や洗礼式といった家族行事や共同作業やゴツォナと呼ばれる他の村との音楽交流など村のハレの日に伝統的に供されてきた飲み物。一方でお葬式の際には出されないそうです。泡立ちを長持ちさせる材料となるココメカトルの蔓がよく伸びる時期と重なるので特に暑い時期に好まれます。この飲み物は裕福さの象徴と考えられており、これを振舞えることは一種のステータスでもあるそうです。ソオゴチョのポソントレは大きな陶器の鍋で泡立ててからヒカラに注ぎます。

【地域】
San Bartolomé Zoogocho サン・バルトロメ・ソオゴチョ村

【材料】
カカオ豆(ロースト?)、ココメカトル、砂糖(黒糖)

14.Popoポポ

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重要なお祭り、特にクリスマス前のお祝い期間(12/16-24)に飲まれるもので、ほかにも人が大勢集まるハレの日に振舞われます。作り方をよく知っている女性が調理を任され、手や器具は油気のない状態で作られます。ココルメカトルの蔓の柔らかい先端部分をコマル(陶板)で焼いたものを材料として使うことで泡立ちがよくなり泡が長持ちするそうです。

【地域】
San Felipe Usila サン・フェリペ・ウシーラ村

この村ではチナンテカ語を話します。ちなみにポポは始めの「ポ」にアクセントをつけて発音します。(スペイン語では後ろの『ポ』にアクセントをつけると日本語の『う●ち』になってしまうので要注意!です。)

【材料】
カカオ豆、米、トウモロコシ、ココメカトル、砂糖、シナモン、アトーレ・ブランコ

【作り方】
カカオ、米、トウモロコシはローストして、磨り潰して細かい粉末にして、ココメカトル、砂糖、シナモンと摺り混ぜてペースト状にしたものに水を加えて泡立ててから、アトーレ・ブランコに泡を注ぐ。

別の村では同じポポでもアトーレなしのところもあるようです。ウシーラはお隣のベラクルス州に近いので、ベラクルス州でも同様の飲み物があり、これもポポと呼ばれます。

15.KUXATSY クシャツィ

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今まで紹介してきたカカオドリンクの中でも一番泡の密度が濃いそうです。これはおそらく現地でtutkkopkと呼ばれる材料に所以するもので、このtutkkpok(どう発音するのでしょうか...、トゥットゥクコプク?)がココメカトルと同じ植物と思われます。ベースの飲み物はいわゆるchampurrado(以前登場したチョコラテ入りのアトーレ)で、泡にカカオだけでなくトウモロコシも使うのが特徴です。儀式の際には泡が高く盛り上がるように特に注意を払ってよそわれます。

【地域】San Juan Juquila Mixes サン・フアン・フキーラ・ミヘス村

【材料】カカオ豆、トウモロコシ、tutkkpok(ココメカトル?)、砂糖

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村の女性がメタテとマノを使ってドリンクを作っている様子

※クシャツィ写真3点:引用YouTube "Mi hermoso pueblo de Juquila Mixes" より

どのドリンクも泡立ちが重要なポイントのようですね。ココメカトルに含まれるサポニンはラテン語のサポ(=シャボンのこと)が語源だそうです。モコモコと泡立ちするのも納得です。サポニンには色々な健康効果があるとも言われていますので、ココメカトル入りのカカオドリンクは、スーパーフードと言われるカカオとの相乗効果でウルトラ・スーパー・フードになってしまうかも⁈

次回はさらに変わったカカオドリンクをご紹介します。カカオじゃないカカオ?メキシコでも非常にレアな材料が登場しますので、 お楽しみに!

このコラムは私が書きました。

ガイド名:Hiroko Sato
出身地:東京

オアハカ在住14年目。世界遺産検定1級。大学時代からメキシコについて専攻し、卒業後旅行会社に勤務。移住後はオアハカを中心にメキシコ全般のガイド、テレビ番組や出張のコーディネーターなど多く経験あり。