カカオの文化

メキシコ(5)オアハカのモーレ

Hola! こんにちは!オアハカのHirokoです。今回はオアハカのモーレについてご紹介します。

以前のコラムでもお伝えしていますが、メキシコの伝統的な食文化は2010年にユネスコの世界無形文化遺産に登録され、メキシコ人はメキシコ料理に特別の誇りと思い入れを持っています。その中でもモーレは様々な唐辛子(チレ)やスパイス、野菜、フルーツなどを丁寧に下ごしらえして煮込んだもので、メキシコ原産のものと、旧大陸からもたらされた野菜やスパイスが見事に融合したメキシコの食文化の豊かさを象徴するような料理です。

モーレ・ネグロ(チキンや七面鳥によく合います。)

地域によっていろいろなモーレがありますが、オアハカ州のモーレとお隣プエブラ州のモーレが有名です。プエブラのモーレは色も黒くてチョコレートを使ってあり甘味も強いので、日本ではモーレというとチョコレートソースと思われているかもしれませんが、オアハカではチョコレートを使わないモーレも多くあります。オアハカのモーレは七色あるとも言われるほど種類が多いのが特徴です。実際に黒(ネグロ)・赤(ロホ)・黄(アマリージョ)・緑(ベルデ)・褐色(コロラディート)、アーモンド、etc...と彩りも様々です。チョコレートはメインの材料ではなく、あくまでもスパイスの一つという感じです。

左から時計回りに
アーモンド風味
ケッパー風味
コロラディート(褐色)
ネグロ(黒)
ベルデ(緑)
アマリージョ(黄)
チチロ

こうしたモーレの色は、メインに使う唐辛子(チレ)によって決まります。黒いチレを使えばネグロ、赤いチレを使えばロホ、黄色のチレならアマリージョになります。

アマリージョ(黄)の材料。中央にある橙色がかったチレを使うことで全体を黄色にする

オアハカは固有の唐辛子の種類も豊富なため色々なモーレが出来上がっていったようです。もちろんチョコレートを使うモーレもあって、オアハカのモーレでは黒(ネグロ)や褐色(コロラディート)にチョコレートを入れて、コクと甘みを出します。

オアハカのレストランではモーレを売りにしているところも多いので、食べ比べをしてみたり、毎日違う色のモーレを食べてみたり、とオアハカ・モーレ巡りをしてみるのも旅の一興になると思います。また、毎年ゲラゲッツァというオアハカ最大のお祭りの時期(7月後半)にはモーレ・フェスティバルが開催されて、その会場では何十種類ものモーレを味わうことができます。

モーレ・フェスティバルの様子。オアハカのレストランが自慢のモーレを出展し、味比べができる。

モーレは使う材料が多く、例えば黒(ネグロ)だと唐辛子だけでも4~5種類、トマトや玉ねぎ、にんにくといった野菜類、コショウなどのスパイス類やハーブ、ドライフルーツ、パン、バナナ、そしてチョコレートなど30種前後に及びます。

ネグロ(黒)の材料。黒いチレとチョコラテが味の中心となる

下ごしらえも材料によって乾煎りしたり、油で揚げたりとかなり手間がかかりますし、かつては貴重な食材だったチョコラテを使ったりしますので、日常の食卓というよりは、お祝い事や季節行事など大勢が集まるパーティーでおもてなしとして供される特別感のある「晴れの日」のお料理です。

村のお祭りの際にモーレの調理風景を見せてもらいました。500人分とか...。

ただ、今では以前のコラムで紹介したメルカドやチョコラテ屋さんで、すべての材料を磨り潰してペースト状にしたモーレペーストが販売されているので、手軽にモーレをおうちで作ることができます。

チョコラテ屋さんでパッケージ済みのモーレ・ペースト。各色品ぞろえ豊富。

メルカドではまるでお味噌屋さんのようにモーレを量り売りしている。黒だけでも数種類あったりして、味見しながら好みのモーレを見つけるのも楽しい。

昔はメタテ(石皿)とマノ(石棒)を使って下ごしらえした材料を磨り潰していました。今では磨り潰しの役割は電動ミキサーに変わり作業もだいぶ楽になったようです。メキシコではサルサ(色々なタレ)を作るのにもミキサーが欠かせません。いずれにしても、磨り潰すという作業がモーレにしてもチョコラテにしてもメキシコ料理ではとっても大事な工程のようです。次回はかつてモーレやチョコラテづくりの要だったメタテとマノ、またチョコラテを泡立てるための専用器具モリニージョなど、チョコラテにまつわる道具についてお伝えしたいと思います。



このコラムは私が書きました。

ガイド名:Hiroko Sato
出身地:東京

オアハカ在住14年目。世界遺産検定1級。大学時代からメキシコについて専攻し、卒業後旅行会社に勤務。移住後はオアハカを中心にメキシコ全般のガイド、テレビ番組や出張のコーディネーターなど多く経験あり。