カカオの文化

メキシコ(14)カカオドリンク6

Hola! こんにちは!オアハカのHirokoです。オアハカ州のカカオドリンク(全19種類)について紹介するシリーズ第5弾、最終回です。前回は泡立ちの秘密、ココメカトルを取り上げましたが、今回も変わり種の材料を使ったドリンクを紹介します。どこもオアハカ市内に比較的近くて、観光地としても有名なところです。

<オアハカ中央盆地の地図>今回はオアハカ中央盆地を拡大してご紹介します。番号は本文中のカカオドリンクのリスト番号です。

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16.CHONE DE ATZOMPA

アトーレの一つで、素材の中でも特にカカオとチレ・グアヒージョという先スペイン期からの起源をもつ二つの味の組み合わせが際立つレシピとなっています。アツォンパ村は古代から続く陶器の村で、チョネは12月のクリスマス前のポサダ※の時期に、村独特の陶器を使って作られていました。現在ではレシピをよく知る人は数少なくなっており、村でもほとんど飲まれることがなくなってしまったそうです。


【地域】
Santa María Atzompa  サンタ・マリア・アツォンパ村

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アツォンパ村はチョコラテづくりの容器としてもよく使われる緑の陶器を生産する村として有名です。現在も村で行われているのとほぼ同じ製法で、紀元前から陶器を生産していたことが周辺の遺跡から明らかになっています。

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オアハカ市街を見下ろすアツォンパの遺跡。

【材料】
カカオ豆、トウモロコシ、黒糖、ピスレ(マメイの種)、アチョテ、ロシータ・デ・カカオ、チレ・グアヒージョ

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チレ・グアヒージョ。大きさは15〜20cmくらい。辛味はマイルドで、多くのメキシコ料理に使われます。

17.CUUHB NEHIP (Tejate con pulque)

以前ご紹介したテハテと同じ材料(ロシータ・デ・カカオの花とマメイの杏仁を含む)で作られますが、水ではなく冷やしたプルケ酒※で材料のペーストを延ばしていくのが大きな違いです。

テハテ同様に『花』(脂肪分が泡と一緒に固まってホイップ状になったもの)が液体の上に浮くのを飲むのがオツだとか。


【地域】
San Lucas Quiavini  サン・ルカス・キアビニ村

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キアビニ村の幼稚園の壁画
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キアビニ村の協会とお参りに来た村の女性たち

【材料】
カカオ、トウモロコシ、ロシータ・デ・カカオ、ピスレ(マメイの種・仁)、灰、プルケ酒

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キアビニ村でリュウゼンランからプルケにするためのアグアミエル(甘露)を採取しているところ
©FRANMORALES PHOTOGRAPHY

次の2つのドリンクに共通するのは、パタステ。
通常のカカオの学名はテオブロマ・カカオですが、こちらはテオブロマ・ビコロール(Theobroma bicolor)といいます。Bicolorとはラテン語で「ふたつの色」という意味なのですが、特殊な発酵を施して乾燥させたものは見事に白黒の2色です。

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左:通常のカカオ
中:パタステ
右:マメイの種の杏仁

18.BITXIIN(Espuma de Cacao)

パタステ(テオブロマ・ビコロール/モカンボ)を発酵して乾燥させたもの、カカオ、お米、シナモンで作るきめ細かい泡が特徴の飲み物。死者の日、結婚式など重要なイベントの際に用意される飲み物で、作る担当の女性は手が清潔で、不安や悩みを持っていてはいけないと言われています。ヒカラ(ひょうたんのような植物の実の殻で作った器)に入れて、温かいアトーレ・ブランコを注ぎ足して、好みで砂糖を加えます。かき混ぜるためにアルカウエテと呼ばれる木のヘラのようなものを添えて、泡をすくって味わいます。

【地域】
Villa de Zaachila ビジャ・デ・サアチラ村

村の真ん中には先スペイン時代の遺跡があります。遺跡からは素晴らしい芸術的な出土品がいくつも見つかっており、当時の文化レベルの高さがしのばれます。

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サアチラ村の中心部にある遺跡には興味深いフクロウの浮彫の墓室があります。このフクロウは村のシンボルにもなっています。

【材料】
カカオ・ブランコ(パタステ)、カカオ豆、米(ローストしたもの)、シナモン、アトーレ・ブランコ(トウモロコシ)、砂糖

【作り方】
カカオ・ブランコ(パタステ)は粉になった状態のものを用意する。ローストしたカカオ豆と米、シナモンを合わせて挽き潰し、パタステと混ぜた粉を水に溶いてよく泡立てる。温かいアトーレ・ブランコの上にこの泡を載せて、アルカウエテ(木のへら)で混ぜながら飲む。

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お米が入っているいか、泡だけ食べると少し粉っぽい感じ。カカオ感は分量が少なめなので、あまり感じないが、アトーレと泡を混ぜながら飲むとまろやかで優しい味でした。

19.SIAAB GEZ シアアブ・ヘス

非常に古くからある飲み物で、村に伝わる重要な踊りである『ダンサ・デ・ラ・プルマ』(羽冠の踊り)が催されるような特別な祝い事や結婚式などに『鳥のレバー』というメニューと一緒に供されます。泡部分には発酵したパタステ(テオブロマ・ビコロール/モカンボ)を使うのですが、その発酵方法は一部の村人のみ知る門外不出の複雑なプロセスで、今はこの村でしか作られていないそうです。今度見学してこようと思っています。

【地域】
Teotitlán del Valle テオティトラン・デル・バジェ村

この村のほとんどが羊毛の織物づくりに従事しています。

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テオティトラン・デル・バジェ村の博物館の入り口に飾られた村の伝統工芸織物

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ちょうどロサリオの聖母の祝日のため村の教会の前で『ダンサ・デ・ラ・プルマ』(羽冠の踊り)が奉納されていました。

【材料】
カカオ豆、パタステ(テオブロマ・ビコロール/モカンボ)、小麦、米、シナモン、アトーレ・ブランコ(トウモロコシ)

【作り方】
カカオ、パタステ、小麦、米、シナモンをコマル(陶板)でよくローストし、それをメタテで磨り潰して粉にする(今では粉挽の機械で引く場合も多い)。その粉を少量の水で溶いてペースト状にして、さらにそのペーストに水を加えてよく泡立てる。別で用意したアトーレ・ブランコに泡をたっぷり注ぐ。

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1960年から村伝統のドリンクを作っているイサベルさん。使っているとうもろこしが違うため、アトーレ・ブランコが少し黄色かったのが特徴的です。すでにほんのりと砂糖で甘味がついていて、とても美味しかったです。

以上でオアハカの19種のカカオドリンクの紹介が終わりました。カカオとトウモロコシがメキシコ人の食とそれにまつわる信仰に強く結びついていることがわかり、それぞれのドリンクが村の大切な行事やお祭りに重要な役割を果たしてきたことや、少しずつ違うこだわりの材料など、調べていてとても興味深かったです。もう作られなくなりつつあるものもあり、食文化の変遷がうかがわれます。いつか全種類制覇したい、他の地域のカカオドリンクも知りたい、というさらなる野望が沸き起こっています。



このコラムは私が書きました。

ガイド名:Hiroko Sato
出身地:東京

オアハカ在住14年目。世界遺産検定1級。大学時代からメキシコについて専攻し、卒業後旅行会社に勤務。移住後はオアハカを中心にメキシコ全般のガイド、テレビ番組や出張のコーディネーターなど多く経験あり。