明治のサステナブルNEWアクション「ひらけ、カカオ。」を担当している晴山です。 今回、カカオ農園の実態をお伝えするために、ベトナムにある明治の研修農園へ行ってきました!改めてカカオ農家さんの作業を知って頂くことで、サステナブルな取り組みを一緒に考えていければと思います。
ベトナムとカカオ
飛行機で降り立ったのは、ベトナム最大の商業都市と言われるホーチミン。ベトナムの南部にあり、日本から、飛行機で約6時間です。カカオ農園はそこから車で約2時間移動したブンタウ省とベンチェ省にあります。
ご存知の方も多いかもしれませんが、カカオは、高温多湿の熱帯でしか育ちません。カカオの生育に適した赤道を挟んで北緯20度から南緯20度までの場所を「カカオベルト」と呼び、ベトナムはこの場所に位置します。
カカオの産地と言えば、コートジボワールやガーナなど、アフリカの国をイメージされる方も多いと思いますが、アジアでもカカオは栽培されており、ベトナムでもカカオ豆が生産されています。
ベトナムは農林水産業が盛んで、最も主要な農産物はコメ。4000万t/年以上もの生産量があります。(出典:総務省統計局「世界の統計2023」2021年データ)
また、コーヒーも有名で、街の中には、大小様々なカフェがあふれていました。それもそのはず、生産量はブラジルに次ぐ世界第2位(約188万t/年)です。(出典:米国農務省 June2020年(1袋60kgで換算))
今回の訪問の目的であるカカオはというと、生産量は約2000t/年。(出典:国際ココア機関 カカオ統計2020/21第2刊)世界全体のカカオ豆生産量は、約500万t/年ですので、ベトナムの生産量は少ない方です。
その理由を農園の方に聞くと、カカオ栽培の歴史が比較的浅いこと、時期にもよりますが他の農作物に比べ取引価格が安いことがあげられるとのことでした。ドリアンやジャックフルーツなど他のフルーツも栽培して、生計を立てているようです。
生産量は多くありませんが、アジアの大切なカカオ生産国。今回訪問した農園とは異なりますが、明治はベトナムの農家さんと一緒に新たなカカオ原料の開発を行い、「ひらけ、カカオ。」の取組みの中で商品へ活用しています。
農家さんの作業を体験させて頂いて ~手作業の大変さ~
カカオ産地での作業は主に、「収穫」「ポッド割」「発酵」「乾燥」があります。
今回、見学だけでなく、農家さんの作業を少し体験させて頂きました。やはり見るのとやるのとでは違います。熱帯気候の中、1つ1つ行う手作業は、大変な作業であることが改めて分かりました。
以下、工程ごとに記載します。
収穫
カカオは枝だけでなく、幹からも実がなります。日本ではあまり見ない実のなり方をするフルーツです。
こちらの農園では、4~6日ごとに、2t程度のカカオポッド(カカオの実)を収穫すると教えて頂きました。仮にカカオポッドが1個500gとすると、なんと4000個!これだけの数を収穫するだけでも大変ですが、カカオの樹に傷がついて、樹の皮がはがれてしまうと、その場所から花が咲かなくなってしまうとのこと。1個1個丁寧に刃物を使って収穫する必要があり、農家さんには非常に大変な作業を行って頂いていることを体感しました。
ポッド割
カカオポッドをナタで割り、中からパルプ(カカオの果肉)とカカオ豆(カカオの種子)を取り出す作業です。農家さんたちは、2~3日ごとに、2人で約1t/日のカカオを処理するとのことです。カカオポッドが1個500gだとすると、2000個です!体験させて頂いて感じたのは、カスカラ(カカオの実の殻)の存在感。体積に占める割合が多く、作業量のわりに、パルプとカカオ豆がなかなか増えていきません。慣れないせいもありますが、かたいカスカラを割るのは結構力のいる作業で、大変な作業だと感じました。
発酵、乾燥
ポッド割の後は、発酵と乾燥の工程があります。
こちらの農園では、専用の木箱にパルプとカカオ豆を入れて発酵を行います。チョコレートの香味に大きな影響を与える工程のため、研究所の社員がカカオ産地に行くときは、農家さんと一緒に作業させてもらいながら、どのような条件で行うのがよいのか実験を繰り返します。ポッド割で取り出した約1tのパルプとカカオ豆をタライで運び、発酵中は酸素をいきわたらせるために攪拌するなど、この工程も多くの手作業が必要です。
発酵に必要な時間は約1週間。発酵の後は、乾燥工程に移ります。
乾燥は、屋外で天日乾燥されることが多く、専用の台にカカオ豆を広げ、約1週間かけて水分が7%程度になるよう乾かしていきます。
乾燥台に運ぶ作業や、乾燥台にカカオ豆を広げる作業も人手で行います。
このように、チョコレートの原料であるカカオ豆は、発酵・乾燥の工程が必要で、カカオの実を収穫してから約2週間、多くの手作業をして頂いて、ようやく出荷できるようになります。
カスカラ
ポッド割の項目で少し触れましたが、カスカラってご存知でしたでしょうか?カカオの実の殻の部分のことで、パルプとカカオ豆を取り出した後は、不要となってしまう部分です。ヤギやウシのエサにすることもあるようですが、それだけでは消費しきれません。
農園を歩いていると、このカスカラを集めた場所に出会います。結果として肥料になっていくものの、それには長い時間がかかります。一方、隣で栽培していたココナッツは、殻の部分も工芸品や燃料などに使えるとのことでした。
明治では現在、カカオハスク(カカオ豆の皮)のアップサイクルに取り組んでいますが、将来は、このカスカラもアップサイクルし、カカオ産地に還元する仕組みを作って行きたいと強く思いました。
訪問を終えて
今回、農園を訪問させて頂いて感じたのは、カカオはあくまで数ある農作物のうちの1つであるということ。(※)チョコレートやカカオに携わる私からすると、カカオが特別な存在であるように見えてしまいますが、農家さんにとっては、ドリアンやジャックフルーツ、ザボンといった他のフルーツを栽培することと同じ扱いであり、作業性や収入面などを考えて、何を栽培するか決めていきます。
(※産地によっては、歴史的・文化的な背景から、カカオを特別なものとして扱っている地域もあります)
カカオ豆は、収穫してすぐに食べるわけではなく、発酵・乾燥、そして、ロースト・磨砕などの工程を経た上で、チョコレートに加工していきます。手間がかかる上に、品質の良し悪しが農家さんに分かりづらいため、持続可能なカカオ生産には、農家さんに直接お会いしてコミュニケーションを取っていくことが大切だと改めて感じました。
サステナブルNEWアクション「ひらけ、カカオ。」のベースである、MCS(メイジ・カカオ・サポート)も、2006年のスタート当初から、カカオ農家さんとの顔が見える関係性を大切にしてきました。
農機具の寄贈や栽培・発酵の技術指導、また、共同研究を通じたカカオの価値向上など、地域の課題に合わせた支援を継続し、これからも農家さんの作業性や収入面の向上に貢献出来ればと思います。
地理的な距離もあって、カカオの生産は、なかなかイメージしづらいところもあるかと思いますが、今回の記事が、皆さんと一緒にサステナブルな取組みについて考えるきっかけになれたら嬉しく思います。