バブカ―。この単語を聞いて、その正体がすぐに思い浮かぶ人はどれ程いるでしょうか?
ずばり、バブカ(BABKA)とは、パンの一種です。その外見からして、マーブルチョコパウンドケーキのようにも、ブリオッシュ生地のチョコデニッシュにも見える...パンともケーキとも取れるこのバブカ。
ここ最近、日本でもベーカリーやコンビニで目にする機会が増えましたが、実はその人気発祥の地は、ニューヨーク。ちなみに、ニューヨークでは「パンとケーキのハイブリッド」とも表現されているバブカ。人気が出た理由やその背景とは?気になるバブカの歴史やニューヨークに渡ってきたエピソードまで、70年以上続くブルックリンの「グリーンズ・ベーカリー」スタッフが教えてくれました。その素顔とは!?
バブカとは?
バブカの歴史は古く、19世紀初頭に東欧(主にユダヤ教徒のコミュニティ)で作られたのが始まりです。ポーランド、アルバニア、ブルガリアなどの東欧では、イースターのお祝いとして食べられていました。
現在、バブカと言えば、パウンドケーキのようなローフ型且つ、チョコレートとシナモン味が王道ではありますが、かつてはパネトーネ(※)のようなドーム型をしており、生地にフルーツジャムやはちみつを練り込んだものが主流でした。当時、高価な食材であったカカオ(チョコレート)はバブカには使われていなかったとか。
(※)イタリア発祥の伝統的なパン。ドライフルーツが練り込まれたドーム型の菓子パンで、欧米ではクリスマスの時期の定番菓子でもある。
材料は至ってシンプルです。小麦粉、砂糖、バター/油、水/牛乳、卵、イースト...等、基本のパン生地にチョコレートやシナモンが練り込まれるものが主流ではありますが、ここで注目すべきは、バブカがユダヤ教コミュニティ発祥の食べ物であるということ。というのも、ユダヤ教には、コーシャ(Kosher)と呼ばれる旧約聖書の戒律に基づいた食の規定(※)があるのです。
(※)食べてよいもの、NGなものが厳格に分かれており、ユダヤ教徒が食べてよい食品≒コーシャ
ユダヤ教コミュニティで生まれた為、本来のバブカのレシピはコーシャに基づいています。現在ニューヨークのユダヤ系ベーカリーで製造されるバブカも然り(材料にバター、牛乳を使用していないものが多い)。とはいえ、世界に広く行き渡ったバブカ。時代と共にレシピもアレンジされ、バターや牛乳をたっぷり使用しデニッシュ風生地を売りにしているものもあります。
なぜニューヨークで定着したの?
ニューヨークにバブカが渡ってきたのは、19世紀後半~20世紀初頭のこと。当時(1880~1925年頃)、オーストリアやハンガリーなどの東欧からのユダヤ教徒が大量にアメリカに移り住んできました。その多くがニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタンのロウアーイーストサイドを定住区として選び、それが現在のニューヨークのユダヤ教コミュニティの始まりでもあります(※)。彼らがニューヨークへ移り住んできた際にバブカのレシピも共に持ち込まれたのが、始まりです。
(※)ちなみに、現在、世界には約1,400万人のユダヤ教徒がいると言われており、その半数程(約715万人)がアメリカ国内で生活しています。そのうち、ニューヨーク州には177万人(ニューヨーク州の人口約2,000万人)がおり、更にその半数以上である約110万人がニューヨーク市に集中しています(ニューヨーク市の人口約840万人)。
そんな時代背景の中、ニューヨークにバブカを定着させた重要人物とも言える女性がいます。その名は、ハナ・グリーン(Chana Green)。現在ニューヨークを代表する人気バブカ店のひとつ、グリーンズベーカリー(Green's Bakery)を創ったきっかけでもある彼女の存在は、ニューヨーク・バブカの創始者とも言えます。第二次世界大戦後、ハンガリーからニューヨークにやってきたハナさん。その後、ハンガリーからの家族がやってきた1948年頃、皆で移り住んだロウアーイーストサイドにてバブカづくりを始めたのが始まりでした。
知人、友人にも作っていたハナさんのバブカは、たちまち近所で評判に。商売目的ではなかったにも関わらず、周りの口コミからハナさんの元へ注文が殺到するようになったとか。
その後(1980年)、ニューヨーク市ブルックリン区ウィリアムズバーグに義理の息子が経営するベーカリー「Green & Ackerman」にて、ハナさんのバブカがココシュケーキ(Kokosh Cake)という名前で売り出されたところ、大人気の品に。そこから10年を経て、現在の場所に自分たちの店「Geeen's Bakery」を構えたのが、1991年。以降、ニューヨーク・バブカのパイオニアとして今も尚、不動の人気店・商品として知られています。
◆Green's Bakery(グリーンズ・ベーカリー)
70年以上続くブルックリン生まれのベーカリー兼工場で、1991年のオープンから家族経営で現在3代め。独自の商品販売はもちろん、ニューヨーク最大のバブカ卸売店でもあり、1日約4,000本のバブカがここで製造され、至る所に配送されています。ゼイバース(Zabar's)、フェアウェイ(Fairway)、ウェグマンズ(Wegmans)など、ニューヨーク市内の有名スーパーやデリカテッセンに並んでいるバブカの多くはこのグリーンズ産である確率が高いのです。バブカはシナモンとチョコレートの2種類があり、一番の売れ筋はチョコレートバブカ。
なお、この商品はコーシャバブカとも呼ばれており、コーシャ認証されています。商品パッケージにKとあるのがコーシャであることの印。ちなみに、Parveと書かれているのは、肉や乳製品などの動物性原料を含まず、植物原料を主体にしたものを意味します。化学調味料や食品添加物は一切不使用、無添加の材料を使用しているのも特徴。バター不使用でここまで!?という驚きのしっとり生地にたっぷり練り込まれたチョコレートにはこだわりのカカオが使用されています。
所在地の住所を訪れると、そこは店舗と思いきや工場のよう。建物の外観に看板やロゴは見当たらず、しかし住所は確かにあっていたので、恐る恐るビニールで覆われた入口をくぐってみると...そこはまさにGreen's Bakeryの商品が造られている工場でした。
ニューヨーク・バブカの色々
◆Breads Bakery(ブレッズベーカリー)
ニューヨークのナンバー1・バブカ(※)に選ばれたことのあるブレッズベーカリー(Breads Bakery)のバブカ。シナモンとチョコレートの2種類があり、やはり人気はチョコレート味。チョコレートにはヌテラ(Nutella)とダークチョコレートが練り込まれているのが特徴です。焼き上がり後、仕上げで塗られる独自のシロップがしっとり生地を保つ秘訣とか。
(※)「ニューヨークで最も美味しいバブカ」を決めるコンテストが開催され、2015年にブレッズベーカリーが見事1位を獲得しました。
◆Isaac's Bake Shop(アイザックベイクショップ)
ニューヨーク市内、大きなユダヤ系コミュニティがある場所として知られるブルックリンのボローパークというエリアには、ユダヤ系ベーカリーも多数あります。アイザックベイクショップ(Isaac's Bake Shop)もそのひとつで、バブカの名店としても知られています。どこか懐かしい雰囲気が漂う店内には名物のバブカの他、ユダヤ系パン、カラフルなお菓子が並んでいます。バブカの種類はチョコレート一種類のみ。トッピングにバニラと粉砂糖がまぶされているのが特徴です。
◆Trader Joe's(トレーダージョーズ)
ニューヨークのみならず全米に店舗を構えるお馴染みのスーパー、トレーダー・ジョーズ(Trader Joe's)。ここにもシナモンとチョコレート2種類のバブカがオリジナル商品としてあるのです。ブルックリン発祥にふさわしく、その名もブルックリンバブカ。ここでの人気もやはりチョコレート味。チョコレートの層たっぷりの生地ではありますが、見た目ほど甘くないのには驚きです。ベーカリーや専門店に比べてお手頃価格です。
このコラムは私が書きました。
ガイド名:巌 真弓
日本にて大学卒業後、出版社、編集プロダクション、旅行代理店での勤務を経て、 2007年に単身ニューヨークへ。以降、組織に属さないフリーランサーとして、 ニューヨーク市観光ガイド、メディアコーディネーター、編集&ライターとして活動。 マラソンをはじめとするスポーツツーリズムにも従事。 『好きを仕事に』をモットーとし、ニューヨークでサバイバル中。