カカオの文化

メキシコ(12)カカオドリンク4

Hola! こんにちは!オアハカのHirokoです。オアハカ州のカカオドリンク(全19種類)について紹介するシリーズ第3弾です。前回は南部を取り上げて、アトーレとカカオベースの泡を組み合わせた飲み物が多かったのですが、今回は海岸地方で伝統的に飲まれてきたものと、赤いカカオドリンクをリストアップしてみます(⑧~⑪)。今回のドリンクもほとんど味わったことがないものばかりなので、どんな味か一緒に想像してみてくださいね。

<オアハカ州の地図>番号は本文中のカカオドリンクのリスト番号です。

mapa-bebidas-2.png

8. CHILATE チラテ

Chilate_03.jpg

ピノテパとその周辺のコスタ・チカ(小海岸)地域で飲まれる冷たいリフレッシュ用の飲料です。この地域は暑いので冷たいカカオドリンクなんですね。地域によって少しずつ材料にバリエーションがあるようですが、トウモロコシではなくお米を使っているのが特徴です。モリニージョ(泡立て棒)を使うのではなく、二つの器の片方を高いところからもう片方へ落として何回も注ぎ込むことで泡をつくるのも昔ながらの方法が残っていて興味深いです。

【地域】
Santiago Pinotepa Nacional サンティアゴ・ピノテパ・ナシオナル村
【材料】
カカオ豆、米、シナモン、黒糖、水
【作り方】
カカオをローストして、ハスクを取り除く。米とシナモンと皮を剥いたカカオを水に浸してふやかしてから滑らかになるまで磨り潰す。磨り潰したものを水に溶いて3回漉す。黒糖を鍋に入れ、温水に溶いてシロップ状にする。漉したものにシロップを加え、必要なら氷も入れる。

さて、これから紹介する3つは赤いカカオドリンクなのですが、共通するのはアチョテという素材を使っていること。アチョテはベニノキ科の木で、柔らかいとげのある実の中の種子を磨り潰すと真っ赤な着色料となり、メソアメリカでは古くから食紅および香辛料として利用されてきました。今でも肉料理のコクだしなどによく使われるメキシコでは一般的な調味料で、スーパーなどでも売られています。

achiote_03.jpg
アチョテの実
achote-supermercado_03.jpg
スーパーで売られているアチョテ

9. WINXATSY (Tepache con espuma roja)
ウィンシャツィ(赤い泡入りのテパチェ)

tepache-con-espuma-roja-1_03.jpg

家族のお祝いや村のお祭り、また近くにある聖なる山に願掛けに昇る前などに供される飲み物で、黒糖を使ったテパチェという発酵酒の上に赤い泡を載せてよそわれます。アチョテを使っているために泡が赤いのが特徴です。炒って磨り潰したトウモロコシと一緒に摺り混ぜます。お祝いのときにはアマリージョ(黄色いモレ)のタマル(トウモロコシのチマキのような食べ物)と一緒に食すことが多いそうです。

【地域】
Santa María Tlahuitoltepec サンタ・マリア・トラウィトルテペック村この村は少数言語ミヘ語を話す地域にあります。ミヘ語はソケ語とともに『カカオ』の大元の語源である可能性が高いとも言われている言語です。
【材料】
カカオ豆、トウモロコシ、アチョテ、テパチェ(黒糖で発酵させた酒)

10. XHEDIA (Pinol) シェディア(ピノル)

XHEDIA-Pinol_03-1.jpg

Xhediaはサポテカ語で『材料を混ぜる』を意味します。こちらも村の祭りや家族の祝い事に用意される飲み物です。
炒ったトウモロコシを粉末にして砂糖を加えて甘くしたものを『ピノル』と呼びますが、このカカオドリンクも『ピノル』と呼ばれることもあるそうです。ピノルの粉はきな粉みたいな甘く香ばしい味わいですが、この飲み物はさらにカカオとアチョテで深いコクもありました。
【地域】
Santa Catarina Ixtepeji サンタ・カタリナ・イクステペヒ村
【材料】
カカオ豆、トウモロコシ、灰、アチョテ、シナモン、アトーレ・ブランコ(トウモロコシ、水)

XHEDIA-Pinol_03.jpg

Pinolの粉末。アチョテ、カカオ、灰と炒ったトウモロコシとその他の材料を赤みがかった細かい粉末状になるまで磨り潰して作ります。この粉末を水で溶いて泡立ててから、別で用意したアトーレ・ブランコに出来上がった泡を載せて出来上がりです。灰を入れるのが独特です。

11. CHONE DE COYOTEPEC コヨテペックのチョネ

chone-de-coyotepec_01.jpg

以前紹介したChampurrado(カカオのアトーレ)の派生形です。材料として、テハテでも使うロシータ・デ・カカオやピスレ(Pistle:マメイの仁)、そして赤くするためのアチョテを含み、それらが特別な味と色の素となります。お通夜の時とセマナサンタ(イースター)に特別に用意されるものですが、作られる機会が多くないのでよその地域ではあまり知られていない飲み物で、この村でも作る人がすごく少なくなってしまっているそうです。パン・アマリージョ(黄色いパン、甘くない固いパン)と一緒に食され、ミサのために教会の前庭に集う人すべてに配られます。

【地域】
San Bartolo Coyotepec サン・バルトロ・コヨテペック村
この村はオアハカを代表する民芸品の黒陶器の生産で有名です。

Artesanías_Barro-Negro_03.jpg

オアハカを代表する民芸品の一つ、黒陶器(Barro Negro)。土本来の色だけで漆黒の陶器が出来上がります。

【材料】
カカオ豆、ロシータ・デ・カカオ、ピスレ(マメイの種)、トウモロコシ、アチョテ、黒糖
【作り方】
カカオ豆、ロシータ・デ・カカオ、ピスレはそれぞれローストしてから一緒に摺り混ぜる。トウモロコシでアトーレ・ブランコを作り、それに摺り混ぜたペーストを溶かして混ぜていく。黒糖で甘みを加えて、最後に甘くしてあるアチョテの液を加えて赤味をだす。

以上でやっと半分紹介できました。日本でも慶弔どちらでもお赤飯を炊くように、お祝いやお祭りのときに赤い飲み物にするのが興味深いですね。次回も引き続き耳慣れないカカオドリンクが登場しますよ!カカオの他にどんな不思議な材料を使うのか、ご注目くださいませ。

参考資料:BIJC(Biblioteca de Investigación Juan de Córdova:フアン・デ・コルドバ研究図書室)
Chilateの写真:©De Pepe morales - Trabajo propio, CC BY-SA 4.0,
WINXATSY の写真:© bebidasdeoaxaca
Chone de Coyotepecの写真:BIJCのビデオより

このコラムは私が書きました。

ガイド名:Hiroko Sato
出身地:東京

オアハカ在住14年目。世界遺産検定1級。大学時代からメキシコについて専攻し、卒業後旅行会社に勤務。移住後はオアハカを中心にメキシコ全般のガイド、テレビ番組や出張のコーディネーターなど多く経験あり。