カカオの文化

メキシコ(8)モリニージョ(Molinillo)について〈後編〉

Hola! こんにちは!オアハカのHirokoです。今回は前回に引き続き、チョコラテを飲む際になくてはならない秘密兵器モリニージョ*についての後編です。(*Molinillo:モリニーヨ、モリニーニョ、モリニーリョなど、さまざまな日本語表記が存在します。)

現在では、モリニージョは木工旋盤という工具に細長い木材を装着し、旋盤を高速回転させて木材を回しながら鑿などで円筒状に削って形を作っていくという製作方法が多いです。削り出しの作業中に刳り貫いて空洞や輪っかを作ったり、旋盤から外して手彫りしたりして整えます。色が濃い部分がありますが、塗装しているのではなく、旋盤で回転中に別の木片を擦りあてて焦がして着色する文字通りの『焦げ茶色』です。日本のこけしや独楽の作り方とちょっと似ているなと思います。

モリニージョも地域や作るカカオドリンクの種類によって結構色々な形のものがあるんです。
大きさも50cm以上あるものから掌サイズまで大小さまざま。

メキシコシティのチョコレート博物館に展示されているモリニージョの数々

これは木の枝分かれの部分をうまく使った原始的なもの。素朴な感じが却ってとっても素敵にみえます。

話が逸れますが、90年代初めに制作されたメキシコ映画で、"Como agua para chocolate"※という作品があります。その年のメキシコ映画賞を総ナメにした名作で、私もちょうどメキシコ留学当時だったので、何度も鑑賞し感動したのですが、このタイトルの"Como agua para chocolate"というのは、直訳すると「チョコラテ用の水のように」という意味になります。ではチョコラテ用の水とはどんな?という疑問が湧くのですが、メキシコではチョコラテ用の水というのは、グラグラに湧き立つほど熱い、という意味なのだそうです。転じて「怒りで腸煮えくりかえる」ような状態を指すようです。そんな状態をチョコレートのためのお湯に例えるなんてちょっと小粋だなぁと思ったりするのですが、こういったところにもメキシコとチョコラテの深いつながりが感じられて胸が熱くなります。

※邦題「赤いバラソースの伝説」

さて、そんな熱々のお湯や牛乳に溶かしたチョコラテを泡立てるにはモリニージョだけではなく器も必要です。オアハカではこんな風に口のすぼまった形の壺がチョコラテ用としてメルカドなどで売られています。思いっきりモリニージョを攪拌してたっぷり泡立てても器の外に飛び散らないというスグレ物!

オアハカ以外の場所でも写真のようにモリニージョと蓋が一体化したような器が存在します。チョコラテの泡立てに対する並々ならぬ熱意(執念⁈)が道具を進化させてきたのですね。

次回は、オアハカ州のいろいろなカカオドリンクのバリエーションについてご紹介したいと思います。

このコラムは私が書きました。

ガイド名:Hiroko Sato
出身地:東京

オアハカ在住14年目。世界遺産検定1級。大学時代からメキシコについて専攻し、卒業後旅行会社に勤務。移住後はオアハカを中心にメキシコ全般のガイド、テレビ番組や出張のコーディネーターなど多く経験あり。