カカオの文化

スペイン(2)神聖な飲み物から貴族の嗜好品、そして庶民の味へ。チョコレートが身近にあるのはスペインのおかげ?

では、スペイン人の日常生活の中に深く浸透している「チョコレート文化」について紹介しましょう。最初は飲み物として利用され始めたチョコレートだったわけですが、その習慣は今も引き継がれています。現在、スペインのチョコレート消費量の約4割が「チョコレート飲料」タイプです。あとは「板チョコ、ボンボン、イースターエッグを模した空洞タイプ」など固形チョコレートで食べるタイプが約3割、それ以外は「ペースト用、コーティング用、トッピング用」等さまざまです。

チョコレート飲料にも様々なタイプがあります。牛乳の割合が90%前後の、カルシウムたっぷりのチョコレートドリンク。小さな飲み切りサイズは、子供達に大人気のおやつメニューです。1933年から続く銘柄Cacaolat (カカオラット)は有名。最近は、コーヒー入り「モカ」、有名パティシェとの協賛カカオニブ飲料「ブラック」なども出て、チョコレートは好きだけど、甘すぎるのはちょっと、、、という大人に大好評です。

他に、温めた牛乳に溶かして飲む、チョコレート味の粉末麦芽飲料も不動の人気です。1948年創業のCola Cao (コラカオ)は、小さな子供のいるスペイン人家庭の朝食に欠かせません。体に良いから牛乳は飲みたいけれど、においが苦手、、、という人達の強い味方です。

そしてスペインで皆に一番愛されている「チョコレート」と言えば、Chocolate con churros (チョコラテ・コン・チューロス)です。「コン」というのはスペイン語で「一緒に」という意味ですから、「チューロスを食べながら飲むチョコレート」という事になります。日本の遊園地やお祭りで売られているチューロスを見た事がありますが、日本のチューロスは30〜40cm位の棒状ドーナツという感じで、お砂糖がまぶしてあってシナモン風味のものが多かった気がします。本場スペインのチューロスは細長くクルッと曲がったわっか状や、細く短い棒状で、ちょうど手のひらに入る位の大きさです。カラッと揚がった食感は、外はサクサク、中は少しモチッ。5〜6個がお皿にのって1人分。材料は、小麦粉、水、小量の塩ですから、チューロスをそのまま食べると、僅かに塩味を感じます。この出来立てチューロスを、アツアツの甘いホットチョコレートに浸して食べるのは、冬のおやつの定番です。町の所々にチューロスとホットチョコレートの専門店Churrería(チュレリア)もあるくらい、スペイン人とは切っても切れない食文化の一つになっています。チューロスと一緒に飲むホットチョコレートは、日本のココアとは違い、専用固形チョコレートをとかして作ったもの。普通のコーヒーカップに入っているものの、ココアの様にコップに口をつけては飲みません。濃厚でとろっとしているので、チューロスを浸して食べているうちにチョコレートは半分くらいに減り、残りはスプーンですくっていただきます。冬場は、街角にスタンドが出て売っている事も。どんなに寒い日でも、食べれば体がポカポカ温まり元気充填間違いなし。週末にもかかわらず朝6時頃に開店するチュレリアもありますが、どこも夜通し遊んで朝帰りする若者達で賑わいます。スペインでは、酔いを醒まして体力回復にはチョコラテ・コン・チューロスが定番です。日本でお酒を飲んで、〆にラーメンを食べる、のスペイン版という感じでしょうか。

皆さん、ヨーロッパのチョコレート文化発祥の地スペインへいらっしゃいませんか。観光で疲れたら、チョコラテ・コン・チューロスでひと休み。苦いカカオ豆に閉口したかもしれないコロンブスや、フランス宮廷にチョコレート旋風を巻き起こしたアンヌ女王に思いをはせてみるのも、普通とはちょっと違う旅の思い出になるかも知れません。

このコラムは私が書きました。

ガイド名:荒木 正子 (あらき まさこ)

日本の旅行会社に勤務し、その際スペインと関わる業務に就く。
大学時代スペイン語を勉強していたこともあり、語学の習得目的でスペイン(サラマンカ)に留学したのが1992年。
すっかりスペインに魅了されそのまま日本に帰ることなく現在に至る。
バルセロナに住み始めて15年以上。観光ガイド、また企業視察の通訳コーディネーターとして活躍。仕事の関係上ワイン、ハム、オリーブオイルなどスペインでの食品に関する知識や造詣が深い。