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食のコラム

vol.1
高齢者の脱水と水分補給

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[vol.1] 高齢者の脱水と水分補給

夏というと、脱水症状で入院する方も増えてきますが、高齢者が脱水症状をおこす場所は戸外よりも室内のことが多く、しかも重症化しやすいという調査結果があります。こうした高齢者の脱水を防ぐには、介護者にどのようなアドバイスをしておく必要があるのか、名古屋大学大学院教授の葛谷雅文先生に伺いました。
葛谷 雅文先生

名古屋大学大学院医学系研究科
地域在宅医療学・老年科学講座(老年内科)教授
葛谷 雅文先生
名古屋大学医学研究科内科系老年科学博士課程修了。動脈硬化症の成因に関する研究、老年症候群、高齢者の栄養管理とマネジメントの活用などのテーマを中心に研究。愛知高齢者栄養ケア研究会代表世話人。

名古屋大学医学研究科内科系老年科学博士課程修了。動脈硬化症の成因に関する研究、老年症候群、高齢者の栄養管理とマネジメントの活用などのテーマを中心に研究。愛知高齢者栄養ケア研究会代表世話人。

高齢者熱中症とその特徴

2007年の7~9月、名古屋掖済会病院救急救命センターに熱中症で受診した104例に関する調査があります※)。
このうち25例が65歳以上の高齢者で、80%に当たる20例が重症化していたため入院となりました。入院した高齢者に対して、発症日の気温、同居家族の有無、発症した環境、基本的なADL(要介助、全介助、自立)、かかりつけ医の有無、認知症の有無、介護サービスの利用状況、重症度と入院期間、転帰などについて調べたところ、熱中症を起こした高齢者には次のような特徴があることがわかりました(図1参照)。

※)岩田充永ほか:日老医誌 45:330. 2008.

(図1)65歳以上の入院患者(20例)における脱水症状を引き起こした環境
  • 発症日の気温は、
    28℃以上だった
    (90%、18/20例)
  • ADLが自立であった(70%、14/20例)。
  • 若年者に比べ、自宅屋内での
    発症率が高かった
    (80%、16/20例)
  • 認知症が指摘されていた(70%、14/20例)。
  • 独居または配偶者と二人暮らしであった(80%、16/20例)
  • 介護サービスを利用していなかった(70%、14/20例)。

高齢者が室内でも脱水症状を引きおこす原因

熱中症というと、夏の炎天下でおこるというイメージがありますが、室内でもおこります。

室内で脱水症状をおこす原因としては、「暑い部屋で、水分補給をしないで過ごしていた」ことが挙げられます。クーラーが設置されていたとしても、運転させずに暑さを我慢していたり、窓を閉め切って過ごしていたりします。高齢者は暑さに鈍感になっていますし、喉の渇きも感じにくくなっています。このため、室温が上昇していても、自分では室温を下げたり水分をとったりしないことが多いのです。これは冬も同様で、暖房の効きすぎた室内でも熱中症になり得ます。

また、「3日間食事も水分もとらなかった」という方もいました。若年者であれば食欲低下があって「3日間食べられなかった」といっても、おそらく水分は補給しているでしょう。しかし、高齢者が「食べられなかった」というと、「食料だけでなく、水も口にしていなかった」ということが少なからずあり、高齢者の食欲低下は即ち“脱水のリスク”にもなり得るのです。

高齢者の熱中症予防対策を考える場合、こうした高齢者特有の身体機能の低下や個々の生活を念頭において対処していく必要があります。

求められる在宅家族への教育支援

このような高齢者の脱水を防ぐことができるのは、介護をするご家族やヘルパーの方々です。患者さんを介護する方々に対して、医療従事者は「脱水の知識と水分補給の仕方」についてアドバイスしていくことが重要です。

室内でクーラーをかけず部屋を閉め切っているような場合、食欲低下が続いているときなどは、水分不足に陥り、脱水をおこしやすい状況にあるので、介護者が水分補給を心がけるように伝えることが大切です。また、認知症が進んでいる場合は、口渇をうまく訴えることができないため、周囲の人が水分補給の重要性を心得て介護していく必要があります。

脱水症状のサインの見分け方と注意点について、次にまとめました。

水のサインの見分け方

  • 1.

    腋下に手を入れて、汗をかいているか、湿っているかをチェックします。自分の腋下と比べてみると、その違いがよくわかります。もし、腋下が乾いていたら、脱水をおこしていると考えられます。

  • 2.

    口を開けてもらい、口の中をチェックします。乾燥していたら、脱水の可能性が考えられます。

  • 3.

    トイレの回数、おむつの尿量をチェックします。尿量が減少していたら、水分補給を心がけます。

1日に必要な水分量は?

体重1kg当たり30mlとして50kgの方なら1500ml、または1日エネルギー熱量が1500kcalの方では1500mlを、水分補給の目安にします。口渇感を訴えられない高齢者には、心不全などで水分制限されている場合以外は、飲めるだけ飲んでいただいて大丈夫ですが、介護者がペットボトル1本を枕元に置いておくなどすると、量の目安になります。

補給する水分の種類は?

補給する水分は、水でもお茶でも飲みやすいものでかまいませんが、電解質を含んだものならさらによいでしょう。

嚥下[えんげ]障害があるときは?

水を飲んだときにむせる体験をすると、怖くなってどうしても水分補給量が少なくなる傾向にあります。実はこれが脱水をおこしやすい要因になっている場合もあります。正しい姿勢で、とろみのついた飲料を活用するなどして、上手な水分補給法を指導することが大切です。

このように、医療従事者は高齢の患者さんを介護する家族やヘルパーに対して、

  • 1. 水分を十分にとっているか
  • 2. 食事をきちんととっているか
  • 3. 脱水を引きおこす環境にいないか

などに注意を促し、高齢者の熱中症を予防することが重要です。

  • vol.3 食べる機能を知りましょう!
  • vol.2 脱水予防のための嚥下[えんげ]機能の観察
  • vol.1 高齢者の脱水と水分補給

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