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食のコラム
食のコラム
[vol.2] 脱水予防のための嚥下[えんげ]機能の観察
摂食・嚥下[えんげ]障害でおこる問題のひとつに脱水があります。嚥下[えんげ]機能が低下する高齢者に対しては飲み込みの機能を観察し、患者さんに合った水分補給について検討していく必要があります。東京医科歯科大学大学院修了後、同大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野助教、同大学歯学部附属病院摂食リハビリテーション外来医長を経て、現在に至る。訪問歯科診療を行いながら、講演などで摂食・嚥下[えんげ]リハビリの重要性を広めている。著書多数。
摂食・嚥下[えんげ]障害により生じやすい脱水
食べ物を飲み込む際には、通常図1のような嚥下[えんげ]動態がみられます。食べ物を口の中でまとめ上げ(準備期)、咽頭へ送り込むと(口腔期)、反射により気管がふさがれて食道へ入り(咽頭期)、食道の蠕動運動によって(食道期)、胃へと送ります。しかし、「口腔の動きが遅くなる」「咽喉頭の位置が低いために(図2)、反射が遅れて飲み込みのタイミングがずれる」「のどの筋力が低下する」などの機能低下がみられる高齢者では、特に水分を誤嚥[ごえん]しやすくなります。
一度誤嚥[ごえん]を経験すると、水分をとりたがらなくなる傾向にあります。こうした方はのどの渇きを感じにくかったり、また、腕や指の筋力が低下しているために食べ物を口に運ぶことが難しく、食事量が低下していたりすることも多く見受けられます。その結果水分摂取量が不足しやすく、脱水の危険性が高まります。
飲むときの姿勢や飲み方を観察
摂食・嚥下[えんげ]障害が疑われる方に対しては、どのような姿勢で水分補給をしているかをしっかりと観察することが重要です。たとえば、猫背の高齢者が上を向いてお茶を飲む様子をよく目にしますが、嚥下[えんげ]機能が低下した方にとって上向きの姿勢で水を飲むのは、極めて難しいことです。これは、上を向いて水を飲もうとすると、口に貯めた水を一度舌で保持し、水が口からのどへ落ちそうになったと同時に気管をふさいで食道へと送り込まねばならないからです(図3)。
誤嚥[ごえん]を防ぐには、上を向かなくてもすむように工夫をする必要があります。背中が曲がる姿勢でいすに座っていたら、そのときだけでも背筋を伸ばしてもらうようにしましょう。
また、水を飲むときに、口角から水がもれる、上を向いて水を飲む、なめらかにしゃべれないといった様子がみられた場合には、「舌の動きが悪い」と評価できます。こんなときにはストローを使うと、上を向かずに水を飲んでもらうことができます。
このように個人の機能に合った飲ませ方に修正するだけでも、誤嚥[ごえん]を最小限にとどめることができます。
嚥下[えんげ]機能に適した水分の形態を選択
摂食・嚥下[えんげ]障害の方にとって、水やお茶のようにさらさらして広がる液体は飲みにくいものです。飲み込みやすい水分としてすすめられるのは「密度が均一である」「まとまりがよい」「滑りがよい」「とろみがある」食形態です。水分にはとろみをつける、なめらかにするなど、食形態に配慮して提供することが大切です。
とろみやなめらかさのある飲料は、液体を広がりにくくしてのどを通る速度をゆっくりにします。とろみ調整食品やゼリー食調整食品などを使って、その方に適した食形態をみつけましょう。
このときとろみをつけすぎないことがポイントです。お茶ではむせるけれど、牛乳ではむせないなど、わずかなとろみの差で飲めることもあります。最初は濃度の低いとろみをつけた飲料やくずしたゼリーから試して、適した濃度を選択することが大切です。
飲み込みの反射が遅れる、舌の力が弱くて舌が上あごに届かない、口やのどの動きが悪い、食道の開きが悪いといった方には、図4のような配慮をして水分補給をしましょう。
誤嚥[ごえん]を予防する運動訓練 ベッドに寝ている方に水分提供をするときは、上向きで飲み込まないように、ベッドの角度や飲むときの姿勢も確認しておきましょう。
誤嚥[ごえん]を予防する運動訓練
口腔の状態が悪くても、全身の筋肉がやわらかくて、背筋をぴんと伸ばして座れる方であれば、大まかには誤嚥[ごえん]の心配が少ない方だと評価できます。長期的にみると、誤嚥[ごえん]を防ぐには毎日少しずつ運動をしていき、食事のとき姿勢や飲み込みがスムーズにできるように、全身の筋力を保持していくことも重要です(図5)。