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カルニチン

近年、カルニチンの生体における重要な役割が明らかになるにつれ、医療現場でも話題として取り上げられるようになってきた。カルニチン欠乏のリスクが高い患者さんでは、血中カルニチン濃度測定による診断の必要性が言われていたが、この度、2018年度診療報酬改定においてカルニチン欠乏症診断のための検査が新たに保険収載された。

一方、臨床栄養管理においては、特に長期静脈栄養、経管栄養施行患者でカルニチン欠乏のリスクが高まると言われている。そこで、カルニチン代謝や欠乏症治療について腎臓内科専門医の佐中 孜先生にカルニチンの重要性や経管栄養管理におけるカルニチン欠乏対策のポイントについて伺った。

1.カルニチンとは

2つのアミノ酸から生合成される

カルニチンは、生体の脂質代謝には不可欠のアミノ酸であり、2つのアミノ酸(リジン残基とメチオニン)をもとに、主に肝臓、腎臓、脳で生合成されます(図1)

カルニチンの生合成

カルニチンはエネルギーを生み出すサポート役を担う

カルニチンは、細胞膜に少しだけ入り込んだアシル長鎖脂肪酸をミトコンドリア内に引き込み、脂肪酸のβ酸化系に受け渡す役割を担います。ミトコンドリアに輸送された脂肪酸は補酵素Aと結合した後、β酸化を受けて、クエン酸回路に入り、物質の代謝・合成や、細胞機能に重要な役目を果たすATP(アデノシン三リン酸)を産生します。すなわちカルニチンは、ミトコンドリアにおけるエネルギー産生に不可欠な栄養素です(図2)

カルニチンと脂質燃焼の概念図

人間は、体重の2倍近い量のATPを産生している!

例えば、体重60kgのヒトで1日2,000kcalを消費する場合、約100kgのATPが産生されます。産生されたATPの90%以上は、肝臓や骨髄において体を構成するたんぱく質、核酸、多糖類などの合成のために使い切っています。そのため、カルニチンは自ら作ったり、外から食べて取り入れたり、蓄えたり、再利用したりと多様な方法で、体内で貯えられているのです。

あの手この手でミトコンドリアの働きを支えている

さらに、カルニチンは、下記のような役割を有した栄養素であり、アミノ酸なのです。

  • 赤血球形状の保全
  • 細小動脈拡張作用→赤血球循環の促進・筋肉や疲労の回復効果
  • 細胞内のアンモニア貯留の抑制
  • ミトコンドリアでの活性酸素の消去→細胞環境のホメオスタシスの維持

2.カルニチン不足に注意

カルニチン欠乏の原因

先天性代謝異常症以外の原因で発症するカルニチン欠乏症は、以下の病態で発症しやすいと考えられています。

  • 腹膜透析や血液透析による維持療法を必要とする腎臓病
  • Fanconi症候群
  • 肝硬変・肝不全
  • 筋ジストロフィー・筋萎縮性側索硬化症などの疾患
  • 経管栄養、完全静脈栄養、牛乳アレルゲン除去調製粉乳などによる栄養管理
  • バルプロ酸服用、ピボキシル基含有抗菌薬、抗がん剤等の薬剤使用
カルニチン欠乏症状

筋緊張低下・筋力低下・重度のこむらがえり・重度の倦怠感、横紋筋融解症、脳症、頻回嘔吐、体重増加不良、呼吸の異常、心肥大・心筋症・心機能低下などの臨床症状・病態の併発が認められる患者さんでは「カルニチン欠乏症」が疑われます。

小児、女性や栄養管理を施行する高齢者に注意

カルニチンは必要量の約75%が食事から摂取され、約25%が体内で生合成されます。カルニチンは特に赤身の肉類や乳製品に多く含まれ、一般的には、通常の食事をされている場合、カルニチンが不足することはありません(図3)
しかし、体内のカルニチンのほとんどは骨格筋などの組織中に分布し、血中にプールされている量は1%にも満たないことがわかっています。したがって、カルニチン欠乏症を考える上で重要なことは、骨格筋量が少ない乳幼児、女性、 高齢者やサルコぺニア、悪液質を伴った患者さんでは、体内カルニチンプールも少ないため、カルニチン欠乏症に陥りやすいと言うことです。

主な食品中のカルニチン含量

3.カルニチンの診断・検査

カルニチン欠乏症の診断と対策には臨床症状・臨床徴候、一般臨床検査所見に加え、血中カルニチン濃度を測定することが重要であるため、今般、D007【血液化学検査】の1項目として【遊離カルニチン及び総カルニチン】の保険収載が認められたことは大きなTOPICSと言えます。

基準値

4.経管栄養管理とカルニチン

長期経管栄養施行中の高齢患者さんに注目

日常的にカルニチンを含む食品(肉類や乳製品等)の摂取が少ないたんぱく質摂取制限患者(慢性腎不全患者、肝硬変患者)、食思不振症患者、高齢患者さん等も欠乏しやすいので要注意です。また、加齢に伴うカルニチンの合成能の低下や食事量の減少により、高齢になるほど筋肉中のカルニチン濃度が低下することがわかっています(図4)。

ヒト骨格筋中のカルニチンレベルの加齢変化

さらに、半消化態の流動食、経腸栄養剤のたんぱく源として用いられているカゼイン、乳たんぱく、大豆たんぱく、卵白加水分解物などにはカルニチンがほとんど含まれていません1)。したがって、カルニチンを多く含んだ食品の食事の制限がある患者さん、カルニチンを含まないあるいは含有量が少ない栄養剤で管理されている長期経管栄養患者さんはカルニチン不足に注意する必要があります(図5)

日ごろからカルニチン欠乏予防に努め、定期的な血中カルニチン濃度のチェックを行うことが望ましいと言えます。1) Borum PR,York CM, Broquist HP. Carnitine content of liquid formulas and diets. Am J Clin Nutr 32:2272-2276,1979.

長期経管栄養施行中の患者さんで主に現れる症状

5.おわりに

最近ではダイエットや偏食などにより若年層でもカルニチンが不足しがちになっていると言われていることから、小児から高齢者まで年齢を問わず積極的な摂取が必要と考えられています。また、高齢患者さんが増加する中で、経腸栄養剤、静脈栄養製剤使用に対する知識不足から、カルニチンが欠乏する患者さんが増える懸念もあります。先天性のカルニチンに関連する代謝疾患はもとより、これら医原性の低カルニチン血症に関する積極的な注意喚起が求められていると思います。

監修者

佐中 孜先生
社会福祉法人仁生社 江戸川病院 生活習慣病CKDセンター長
医療法人弘仁会 板倉病院サテライトクリニック名誉院長

略 歴

昭和46年
鳥取大学医学部 卒業
昭和48年
東京女子医科大学 内科 助手、講師、助教授、教授(平成23年定年退職)
平成21年
日本大学医学部腎内分泌高血圧内科 客員教授(~平成25年)
医療法人刀水会 斎藤記念病院名誉院長
平成23年
社会福祉法人仁生社 江戸川病院 生活習慣病CKDセンター長 現在に至る
医療法人靱生会 メディカルプラザ市川駅院長 現在に至る
平成30年
医療法人弘仁会 板倉病院サテライトクリニック名誉院長 現在に至る
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