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Vol.12

Nice!

特集
糖尿病患者さんの看護

様々な「疾患」に対して直接働きかける医師とは異なり、看護師は疾患を持つ患者様の「生活」に働きかけることで、その専門性を発揮します。
とくに糖尿病の治療においては患者様のセルフケアによる部分が大きく、看護師には、日々の看護を通じて患者様の行動変容を支援することが求められます。
今回は、糖尿病患者様のセルフケアを支える上でのポイントを中心にご紹介します。

糖尿病患者さんの看護-ある日のこと-

糖尿病患者様の看護

Ⅰ.セルフケアの意欲を喚起する工夫

糖尿病治療では、食事療法・運動療法・薬物療法を3つの柱とした、患者様自身によるセルフケアが重要になります。セルフケアは生涯継続するものなので、看護師は患者様に寄り添いながら、治療に対する意欲を喚起する必要があります。

【患者様との信頼関係を築く】

糖尿病の治療は生活と密接に関わっており、患者様の生活状況を知らなければ、その人に合ったセルフケアを提案できません。また、疾患や治療に対する感情もセルフケアの実施に影響を及ぼします。このため、患者様から話を聴くことが不可欠であり、患者様が自分のことを話そうと思えるような信頼関係の構築が必要です。
信頼関係を構築する上での特効薬のようなものはなく、患者様の名前を覚えて外来通院時などに意識的に声をかけながら、話しかけやすい雰囲気を作るといった地道な積み重ねが欠かせません。

【患者様のことを理解する】

セルフケアを成功させるためには、以下のような点に注意しながら患者様のことを十分に理解する必要があります。

  • 患者様やご家族の理解力
    セルフケアを行う上で、疾患や治療に関する基本的な知識は必要ですが、年齢とともに新しいことを覚えるのが難しくなってきます。必要最低限の知識さえ習得すれば支障なく生活できる場合もあるので、個々の理解力にあわせて指導内容を調整します。
  • 食生活
    食事内容はもちろんのこと、味つけの好み、嗜好品やアルコール類の摂取状況、空腹を感じる時間帯、外食の頻度など様々な情報が必要です。とくに嗜好品やアルコール類は患者様の生きがいとなっていることも多いため、十分な聞き取りを行いましょう。
  • 社会的な背景
    家庭内や社会における患者様の役割、お仕事の内容、糖尿病に関するご家族の理解状況、周囲へ糖尿病をどの程度伝えているかといったことは糖尿病の治療に大きな影を与えるため、しっかりと確認します。

よく遊び、よく食べること

患者様のことを理解する上で、自分自身も患者様と同じ体験をしてみることは大変重要です。
例えば、患者様の好きな食べ物を実際に食べてみたり、患者様の好きなスポーツを自分もプレイしてみることで初めて気付かされる点も少なくありません。よく遊び、よく食べて、様々な経験を蓄積しておくことも、患者様の目線に立った提案をするためには必要だと考えます。

よく遊び、よく食べること

【患者様に適した方法を見つける】

  • “指導”ではなく“一緒に考える”スタンスで
    患者教育を行う際、医療者は患者様に“指導”し、患者様は指導されたことを“守る”という関係性になってしまいがちです。疾患や治療に関する知識の提供は重要ですが、それを実践につなげようとした場合、“指導する側と守る側”という考え方では、医療者側にも患者様側にも不満が生じやすくなります(図)。医療者は必要な情報を提供し、患者様自身で目標や方法を設定できるよう“一緒に考えて”サポートすることが大切です。
患者様に適した方法を見つける 図
▲図“指導する側と守る側”という関係性のデメリット
  • 病気ではなく、人を主体とした視点で捉える
    糖尿病治療には多くの決め事があり、その全てを守るのは大変で、患者様の中には自由を奪われたような気持ちを抱いたり、決め事を守れない自分を責めている方もいらっしゃいます。このため、まずは患者様の話に傾聴し、ご自分を肯定できるように理解を示すことが大切です。その上でご自身を見つめ直していただき、いま始められること、実践できそうなことを一緒に探していくのです。

間食(隠れ飲食)の捉え方

糖尿病の食事療法において、間食(隠れ飲食)は負のイメージを抱かれがちです。しかし、患者様の立場に立ってみると、「毎日、食の自由を奪われている」との思いから、ストレス発散のために間食したくなるのも無理はないかもしれません。「間食したことを注意する」のではなく、「なぜ間食したのか」を一緒に考え、解決策を見つけることが大切です。

間食(隠れ飲食)の捉え方

Ⅱ.高齢の患者様をケアする際の注意点

【低血糖】

高齢の糖尿病患者様の特徴の一つとして挙げられるのが、低血糖に対する脆弱性です。低血糖は転倒や骨折につながる恐れもあり、できる限り回避する必要がありますが、脳梗塞の既往があったり、認知症と区別しづらいなどの理由から発見が遅れてしまうことがあります。少しでも異変を感じたら低血糖の可能性があることを、ご家族にも十分説明しておきましょう。

【低栄養】

既に痩せているにもかかわらず、「太らないようにしなくては」との自己判断で、いつまでも食事量を減らし続けている方を見受けます。低栄養はサルコペニア免疫能の低下など、身体に様々な悪影響をもたらすため、個々人の適正な体重を維持することが重要です。

【脱水】

高齢の患者様は食事にむらがあったり、若い頃に比べて腎機能が低下しているなど、薬の影響が出やすい可能性があります。
利尿剤のほか、最近はSGLT2阻害薬といって、尿中にブドウ糖を出して血糖値を下げる薬の影響で脱水傾向になる場合もあります。服用している薬も把握しておきましょう。

治療内容の変化

糖尿病は長期の経過を辿り、合併症の進行などによって治療内容も変化していきます。この点を十分説明しておかないと、患者様は“今までの治療が間違っていたのでは?”と不信感を抱きかねません。患者様の目線に立って共感し、病状が変わったのだから治療内容が変わるのは当然と患者様が納得されるまで十分説明します。

治療内容の変化

【最後に】

糖尿病の初期は自覚症状に乏しく、ご本人が気付いた時には既にかなり重症化した後だったというケースも稀ではありません。このため、糖尿病や合併症の兆候にいち早く気づくことは大変重要です。
例えば外来受診時に口腔内や足の爪などに糖尿病と関連する症状が現れていないかもチェックするようにしましょう。

エキスパートの仕事現場(12)

認定看護師を志した経緯

私は看護学校を卒業してから糖尿病や呼吸器疾患、リウマチなどの患者様が入院する病棟で長く働いてきました。しかし、糖尿病に対する関心は低く、患者様からの質問にうまく答えられないことも多々ありました。そうした中で、糖尿病に関する知識をしっかりと身につけたいとの思いが次第に高まっていき、糖尿病看護認定看護師の教育課程に進んだのが2004年のことです。教育課程での半年間には大変なことや辛いこともありましたが、自分の知識不足を痛感していたので、学ぶことに対する喜びの方が強く、共通の目的を持った仲間に支えられながら楽しく勉強できました。

資格取得後の変化

糖尿病のケアでは患者様ご自身による日常的なセルフケアが鍵となるため、個々人の生活スタイルに即した支援が欠かせません。私は認定看護師になる前、患者様に対して“指導する”というスタンスで接してしまいがちでしたが、資格取得後は一人ひとりの療養環境を十分に踏まえた上で、その人に適したセルフケアを“一緒に考える”ようになりました。

また、糖尿病は完治しない疾患なので、病名を告知された際に患者様がそれを受容するための支援も重要になります。そうした流れの中で、1型糖尿病の患者会の立ち上げに携わる機会を得たことは、私自身にとっての活動の原動力にもなっています。1型糖尿病は国内の有病者数自体が少なく、セルフケアの具体的な方法や工夫などに関しては、患者様が日々の生活を通じて蓄積してこられた実体験に勝るものはありません。そうした貴重な情報を他の患者様にお伝えすることも、看護師としての役割ではないかと考えています。

さらなるレベルアップを目指して

認定看護師の教育課程で学んだ様々な知識は、現在も大いに役立っています。ただ、とくに認定資格の取得直後は、そうした知識を活用する私自身の成長が追い付いておらず、反省すべき点もありました。例えば、疾患に対するケアを重視するあまり、患者様の人生観や死生観に寄り添った全人的な支援を十分に果たせなかったことなどはその一つです。また、糖尿病は自覚症状のないまま進行するため、かなり重症化してから初めて医療機関を受診するというケースも少なくありません。患者様ご自身にもっと早い段階で気付いていただくにはどうするのがよいのかと考えていくうちに、もう少し掘り下げて勉強したいと思うようになりました。そこで、慢性疾患看護専門看護師の資格取得を目標に、大学院の修士課程で糖尿病腎症について研究することを決意したのです。
2年間も臨床を離れることに不安はありましたが、幸い、所属していた病院の外来で週1回パートタイマーとして勤務させていただくことができました。教育課程で学んだことを外来で生かしたり、逆に、外来勤務の中で直面した課題を自分の研究テーマに反映させるなど、非常に充実した学生生活を送ることができたと今でも感謝しています。

専門看護師として

専門看護師の資格取得後は、糖尿病内科や腎臓内科、呼吸器内科などの一般外来に加えて看護外来にも携わるようになりました。慢性疾患看護において両者は不可分な関係にあり、セルフケアに関わる知識の習得や治療の継続、人工透析や酸素療法の導入についての意思決定などにサポートが必要だと判断した患者様に対して、積極的な支援を行っています。
また、臨床現場での看護業務の他に、臨床教員として学生の指導にもあたっています。“患者様中心の医療、看護”という言葉は学生時代によく耳にしますが、それが具体的にどのようなことを指すのか、実体験に基づいて伝えられるという意味で、少しでも学生たちの役に立てればと考えています。
その他、院外での活動として認定看護師の教育課程で一緒に学んだ仲間たちと勉強会を企画・開催しています。2005年にスタートした当初は糖尿病看護認定看護師の試験対策を主眼に置いたものだったのですが、次第に糖尿病に関する新しい話題についての情報提供なども行うようになり、現在は研究会組織として年に1回、「糖尿病患者支援のための研修会」を開催しています。この研修会は非会員の方でも参加でき、日本糖尿病療養指導士認定更新のための研修単位も取得可能なので、関心のある方は是非ご参加ください。

クスリの話(12)

糖尿病治療薬は大きくインスリンを分泌する薬としない薬に分けられます。

糖尿病薬の種類

糖尿病治療薬はたくさんの種類があります。インスリンを分泌せよという指令を出す薬はスルホニル尿素(SU)系と速攻性のグリニド系と呼ばれる薬があります。インスリンを分泌するため血糖降下作用が強い反面、効き過ぎると低血糖を起こす可能性があります。インクレチン製剤であるDPP-4阻害薬やGLP-1作動薬(注射剤)もインスリンを分泌しますが、この薬は食事を摂った分だけインスリンを分泌するため、単独で使う場合には低血糖の心配はないと言われています。
インスリンを分泌しないタイプで最も汎用されているのがメトホルミンです。肝臓での糖新生を抑え、また脂肪燃焼にも働くというユニークな作用を持つ薬です。腎機能の悪い方には使いづらい面もありますが、単独では低血糖を起こさず心筋梗塞などの大血管症を抑制することが証明されています。この他、糖質の吸収を遅らせて食後の血糖上昇を抑えるα-GI薬は、日本人など米飯主体の民族には効果的であると言われています。また脂肪の分化を促進するチアゾリジン(アクトス®)系や最近発売されたSGLT2阻害薬は約250kcal分のブドウ糖を尿で排泄する働きを持つ薬です。糖尿病は微小血管である神経、網膜、腎機能を悪化させますが、SGLT2阻害薬は腎機能障害を進展させないことが証明されつつあります。

インスリン分泌

膵臓のβ細胞からインスリンは分泌されますが、糖尿病は長年の生活習慣によって膵臓自体が疲弊してしまい、インスリン分泌も次第に減少してきます。このため前述したインスリン分泌促進薬の効果が薄れてきます。このような場合はインスリンそのものを皮下注射する必要があります。
インスリンは食後の高血糖を抑える速効型長時間持続型などがあります。インスリンは6量体といって6つのインスリンが結びついて、それが一つずつ離れて血液中に移行し効果を発揮します。6量体から離れる速さによってすぐに効果を発揮するタイプや、反対に少しずつ離れて血液中に移行し効果が持続するタイプに分かれます。日本人は食事を摂った後のインスリン分泌が少なく食後の血糖値が高い人が多いため、速効型インスリンの必要性が高いと言えます。一方、食事をしてから8時間以上経過した空腹時の血糖は微小血管障害に関連すると言われています。このため、食後2時間と空腹時の血糖値の状況などから速効型と長時間持続型のインスリンを組み合わせるなど、患者さん毎に使い分けています。

低血糖

インスリンやインスリン分泌薬は低血糖を起こします。糖尿病薬を間違えてたくさん飲んでしまったとか、食事を取らずに糖尿病薬を飲んだ、糖尿病薬を服用後にお酒を飲んだ、といった場合に低血糖が生じます。低血糖の初期症状は一時的に血糖を上げようとする交感神経の興奮症状である口渇や動悸、手の震えなどがあります。このような低血糖のサインを見逃さずに低血糖を疑ったらすぐに糖分(α‐GI服用中はブドウ糖)を摂るなどの対応が必要になります。ここで糖分の補給がないと栄養のほとんどを糖質に頼っている脳に症状が現れ、意識障害などが生じてしまいます。下表に代表的な抗糖尿病薬をまとめたのでご参照ください。

インスリン分泌薬 インスリン分泌を介さない抗糖尿病薬
スルホニル尿素系:グリベンクラミド(オイグルコン®)、グリメピリド(アマリール®)など ビグアナイド系:メトホルミン(メトグルコ®
速効型インスリン分泌促進薬:ナテグリニド、ミチグリニド(グルファスト®)、レパグリニド(シュアポスト® SGLT2阻害薬:エンパグリフロジン(ジャディアンス®)、イプラグリフロジン(スーグラ®)など
DPP-4阻害薬:シダグリプチン(グラクティブ®)など α-GI:アカルボース、ボグリボース、ミグリトール
GLP-1受容体作動薬:リラグルチド(ビクトーザ®)など チアゾリジン系:ピオグリタゾン(アクトス®
▲表1糖尿病治療薬の種類
カンタン生理学(8)

糖尿病では、インスリンの作用不足による慢性的な糖代謝異常を認めます。ここでは、糖質とインスリンの関係を中心に解説します。

① 糖質の消化・吸収

糖質とは、炭水化物から食物繊維を除いたものの総称で、糖類(単糖類、二糖類)のほか、糖類が複数個つながった(重合した)少糖類、多糖類などがあります(表1)。食事などで糖質を摂取すると、消化酵素により二糖類、単糖類にまで分解されたあと小腸から吸収されます。吸収された糖は、全身の各組織でエネルギー源として利用されるほか、すぐに使われない分はグリコーゲンの形で肝臓や筋肉に貯蔵されます。また、グリコーゲンとして貯蔵できる量には限りがあるため、余った糖は中性脂肪に変換の上、脂肪組織などに貯蔵されます。

糖質 糖類 単糖類 ブドウ糖、果糖、ガラクトース など
二糖類 ショ糖、乳糖、麦芽糖 など
少糖類 オリゴ糖
多糖類 デンプン、グリコーゲン など
▲表1重合度による糖質の分類

【参考】プレバイオティクスとしての糖質

糖質の中には小腸で十分消化されずに大腸まで到達し、大腸内の常在菌の餌になるものがあります。これらのうち、有用菌の餌になるオリゴ糖などはプレバイオティクスとして活用されています。

② インスリンの働き

糖は体にとって重要なエネルギー源であり、常に血液中を流れています。血流に乗って体内を巡る糖が筋肉などの細胞の前に辿り着いた際、それを細胞内に取り込む手助けをしているのがインスリンです。
インスリンには、細胞内への糖の取り込みを通じて血液中のグルコースの濃度(血糖値)を一定の範囲内に調整する働きがあります。表2のように血糖値の調節に関わるホルモンは、グルカゴンをはじめとして複数存在しますが、糖の取り込みを直接的に促し、血糖値を下げることができるのはインスリンだけです(インクレチンはインスリンの分泌を促しますが、糖を細胞内に取り込む直接的な作用はありません)。

ホルモンの名称 分泌される場所
糖の取り込み
(血糖値⬇)
インスリン 膵臓(膵β細胞)
インクレチン 小腸
糖の利用
(血糖値⬆)
グルカゴン 膵臓(膵α細胞)
成長ホルモン 脳下垂体前葉
甲状腺ホルモン 甲状腺
コルチゾール 副腎
アドレナリン 副腎
ノルアドレナリン 副腎
▲表2血糖値の調節に関わるホルモン

③ 基礎分泌と追加分泌

ヒトは就寝中などの安静時にも常にエネルギーを消費しており、それをまかなうために、肝臓は全身に糖を供給し続けています。そのため、空腹の時でも血糖値を正常に保つために常に一定量のインスリンが分泌されています(これを基礎分泌といいます)(図1)。
一方、食事によって小腸から吸収された糖が肝臓に入ると、膵臓はそれに対応するためにインスリンを追加で分泌して肝臓へ送ります(これを追加分泌といいます)。追加分泌されたインスリンは肝臓からの糖の放出を抑えるとともに、肝臓への糖の取り込みを促します(図2)。また、肝臓を通過した糖は、インスリンの作用によって全身の細胞に供給されます。

インスリンの基礎分泌と追加分泌 図1
▲図1インスリンの基礎分泌と追加分泌(イメージ)
インスリンによる肝臓への糖の取り込み促進 図2
▲図2インスリンによる肝臓への糖の取り込み促進(イメージ)

④ インスリンの作用不足と糖尿病

食事を摂ると、その直後から血糖値は上昇しますが、健康な人であれば食後2時間もするとインスリンの働きによって血糖値は食前の状態にまで戻ります。
一方、インスリンの作用不足により、血液中の糖の処理が十分にできなくなると、血糖値が下がりにくくなります。この状態が慢性的に続くのが糖尿病で、インスリンの作用不足の背景にある原因によって1型、2型、その他のタイプに分けることができます。

【1型糖尿病】
インスリンを分泌する膵島β細胞が何らかの理由で破壊されてしまうことによって発症するものです。一般に、直ちにインスリンを体外から補給しなければならず、インスリン注射が不可欠になります。

【2型糖尿病】
日本人に最も多いのがこのタイプで、生活習慣(過食、肥満、運動不足など)や遺伝的要因によってインスリンの分泌量が低下したり、効きが悪い状態に陥ることで発症します。初期の段階であれば、食事療法や運動療法によって血糖値をコントロールできますが、進行するとインスリン注射なども必要になってきます。

【その他のタイプ】
遺伝子の異常によるもの、肝臓や膵臓の疾患によるもの、感染症によるもの、特定の薬剤の影響によって生じるものなどが知られています。
糖尿病により慢性的な高血糖が持続すると、血液中の過剰な糖が血管を傷つけて血流を低下させ、様々な慢性合併症を引き起こします。糖尿病の慢性合併症は細小血管症(神経障害、網膜症、腎症)と動脈硬化性疾患(大血管症)に大別され、とくに前者は三大合併症とも言われています。合併症の発症や悪化を防ぐためには運動療法や食事療法による血糖コントロールが欠かせません。

⑤ 運動と血糖コントロール

有酸素運動を行うと、筋肉への血流が増加して糖の取り込みが促進され、インスリンの効果が高まります。また、筋力トレーニングによって筋肉量を増加し、脂肪を減少させることにも同様の効果が期待されます。ただし、あまり激しい運動は血圧の上昇や心臓への負担、転倒リスクの増大などにもつながるため注意が必要です。

⑥ 食事と血糖コントロール

三大栄養素のうち、血糖値に最も影響を及ぼすのは糖質であり、過剰な糖質の摂取は血糖コントロールを悪化させます。一方で、極端な糖質の制限はたんぱく質・脂質の摂り過ぎにつながる可能性があり、長期的には腎症や動脈硬化の進行なども懸念されます。
このため、例えば糖質を多く含む食品は1食の量を決めて食べるようにするなど、栄養バランスに配慮しながら血糖コントロールを行うことが重要です。その他、食事の際の心がけとして、よく噛んで食べたり、血糖上昇を抑える働きのある食物繊維(野菜・きのこ・海藻など)を糖質(ご飯など)より先に食べたりすることなども有用です。
また、一口に“糖質”といっても、糖質の種類によって血糖値への影響は異なります。とくにショ糖や果糖は消化吸収が早いので、とり過ぎには注意すると良いでしょう。その一方で、吸収されるまでの時間が長いとされるパラチノースなども存在するため、食品選択の際に参考にすると良いかもしれません。

お仕事スケッチ(9)

はじめに

私は副看護部長(教育担当)としての管理業務やスタッフ教育のほか、慢性疾患看護専門看護師・糖尿病看護認定看護師としての様々な役割も担っています。ここでは、主に専門看護師・認定看護師としての私の役割について、実践・相談・調整・倫理調整・教育・研究という6つの観点からご紹介します。

実践・相談

患者様への直接的な看護実践として、フットケアにチームで携わっています。他業務との兼ね合いもあり私自身の対応可能な人数は限られますが、外来・入院を問わず糖尿病足病変のリスクの高い方を中心にケアを継続中です。また、困難事例の相談にも応じており、ケア内容や所見のこまやかなカルテ記録や、カンファレンスでの症例提示を通して、スタッフに私自身のケアを意図的に伝えるようにしています。さらには、患者様・ご家族に対する支援やケアシステムの構築支援なども実践・相談の一環として行っています。

調整

地域での取り組みとして、近隣の保健師と連携しながら糖尿病性腎症重症化予防プログラムを推進しています。地域住民の指導・調整に携わる担当者を対象にした研修会などもその一つで、当医療圏の現状や課題、今後の対策について積極的な意見交換を行っています。また、京都府下の糖尿病看護認定看護師の仲間たちと協力してフットケア研修会を開催するなど、糖尿病患者様の重症化予防に取り組んでいます。

倫理調整

慢性疾患は長期の経過を辿る中で病状が変化し、様々なステージ(病期)において、その時々の課題が出現します。
どのような病期にあっても患者様やご家族との緊密なコミュニケーションは欠かせません。時には脳卒中をはじめとする大きなイベントが、ご本人が想像すらしていないタイミングで発症することもあり、突然、ご本人の意思表示が困難になった場合などには対応に苦慮します。そうした際に、倫理委員会の倫理コンサルテーションチームと協働して調整に当たることも私の役割の一つです。

教育・研究

若手スタッフの教育に関しては、臨床研修などを通じた専門性の育成だけでなく、その土台を成す社会人基礎力の修得にも力を注いでいます。一方、中堅スタッフ教育は院内全体としての看護の質を向上させる鍵だと考えており、クリニカルラダー教育制度を活用した継続的なキャリアアップ支援を図っています。この他、副看護部長として最近取り組んでいるのが院内の認定看護師たちへの支援です。それぞれに高いスキルを備えており、個々人の思いにも素晴らしいものがあります。認定看護師たちが、個人としてだけでなく集団としても能力を発揮できるよう、活き活きと働きやすい環境を整えていくことが必要不可欠です。
なお、最近は研究活動を行う時間がなかなかとれないのですが、看護実践に関する学会発表を毎年行っているほか、ラダー受講生のケーススタディの指導などを通じて、スタッフの看護研究活動を支援しています。

最後に

これまで大勢の糖尿病患者と接する中で、私は“患者様を教育・指導する”のではなく“患者様から教えていただく”という姿勢の大切さを実感してきました。その経験は現在従事している院内教育などにも大変役立っています。最近は患者様を直接ケアする機会は少なくなりましたが、今の私はスタッフたちの目を通じて、より大勢の患者様を看ることができるようになりました。スタッフの成長は患者様への恩返しに繋がるため、今後は、そのための環境整備に尽力していきたいと考えています。

制作●株式会社ジェフコーポレーション

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