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発酵乳の可能性

高齢者医療において問題となる、低栄養、筋力低下、下痢・便秘などの予防・改善策として、発酵乳を取り入れて成果を上げている医療法人財団緑秀会田無病院院長の丸山道生先生に、高齢者にとっての発酵乳のメリットについてうかがいました。

1. 下痢ではなく、腸内環境の改善が重要


“老いても口から食べる”ための取り組みとして、注目している発酵乳

“老いても足で歩くまち、老いても口から食べるまち、西東京”。これは私が考えた田無病院のモットーです。このモットーの背景には、長年、高齢の患者さんの診療にあたってきたなかで、たどりついた健康観が込められています。
4年ほど前から、“老いても口から食べる”ための取り組みとして、注目しているのが発酵乳です。
入院患者さんや在宅介護中の患者さんを含め、高齢の方で慢性的な下痢、特に便秘で悩む方はとても多いのです。加齢によって腸管の生理機能は低下する傾向にあり、それに伴って腸内環境は悪化しやすくなります(図1)。これに加え、寝たきりや運動不足も原因となります。

図1:年齢による腸内細菌叢の変化

これまでの排便コントロールは、下剤の投与が中心でした。しかし、介護現場でよく使われる緩下剤(塩類下剤)は、大腸における水分の吸収を抑制し、便に含まれる水分を多くすることで便をやわらかくするタイプのものです。これを常用すると、集められた水分が便だけでは吸収できなくなり、腸管内にたまってきます。その結果、便が下痢状になってしまうという問題がありました。
このような状態は患者さん、介護者の双方に負担がかかりますし、腸内環境にとってもよいこととはいえません。当時、腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスを改善し、体によい作用をもたらす微生物を利用した“プロバイオティクス”はすでに医療の世界でも注目されていました。そこで着目したのが発酵乳だったというわけです。

腸の基礎体力をつけることの意義

取り組みとしては、患者さんに発酵乳(ヨーグルトなど)を適量摂取してもらいました。最初は下痢に悩む患者さんを念頭にはじめたことでしたが、少しずつですが排便状況に改善がみられてきました。同時に、便秘で悩んでいた患者さんの排便にもよい変化がみられるようになってきました。
そしてなによりも、患者さんから「排便が楽になったことで快適になった」、「排便に関するストレスが軽減した」という声があがったことに手ごたえを感じました。
これらの変化は、高齢になって腸内環境が乱れても、発酵乳によって乳酸菌、ビフィズス菌などの善玉菌を腸に届けることで腸内環境が整ってきたことの現れだと推察されます。下剤に頼るのではなく、自分の腸内環境を改善すること、言いかえると腸の基礎体力といったものをつけることの意義と重要さを痛感しました。

2.腸内環境がよくなれば、免疫力も上がる


発酵乳がもたらす高齢者医療のメリット

それ以降、発酵乳がもたらす高齢者医療のメリットについて深く考えるようになりました。まずは免疫力の強化です。高齢者にとって風邪や風邪の悪化による肺炎の発症は、命取りになりかねません。
腸の中には、500~1,000種、およそ100兆個という、たくさんの細菌がすんでいるといわれています。これらはヒトからみた場合、いわゆる善玉菌と悪玉菌、日和見菌に分類できます。
善玉菌は体に有益な働きをする微生物です。悪玉菌はインドールやアンモニアという毒素を産生するため、体にはあまりよいとはいえない微生物です。
日和見菌は、善玉菌とも悪玉菌ともいえないものです。ふだんは悪い働きはしませんが、悪玉菌が優勢になると悪玉菌のような働きをします。
腸内環境が整っている状態とは、悪玉菌より善玉菌が多い状態のことをいいます。腸内環境が整うことで、善玉菌がもつ、消化・吸収・代謝の促進、病原菌・有害菌の増殖抑制・感染予防、免疫細胞の活性化、有害物質の排泄促進などの働きが十分に発揮されるようになります(図2)。
そして、体内の免疫細胞のおよそ6割は腸内に集まっていることから、免疫細胞が活性化することによって、高齢者の免疫力が高まるというわけです(図2)。

図2:腸内細菌叢とDysdiosis

3.飲み物ならば、無理なくエネルギーやたんぱく質が摂取できる


フレイル・サルコペニアの影響

高齢者のケアで、つねに問題となるのが低栄養と筋肉量の減少です。高齢者は日常生活の活動量減少による食欲低下などから、食事を十分にとることができず、低栄養状態になりやすいものです。その結果、全身が弱って外出することが難しくなる「フレイル」や、筋肉量が減少する「サルコペニア」になるケースが少なくありません。フレイルやサルコペニアは、日常生活に大きな影響を与え、寝たきり状態を招く要因ともなる問題です。

発酵乳を使用するメリット

食が細くなり、一度に十分な食事量がとれない場合でも、発酵乳なら水分補給を兼ねて、食事の間やおやつとしてさほど無理なく飲むことができます。医療現場などで使用されることが多い流動食の発酵乳は、比較的高エネルギーに調整してあるので、効率のよいエネルギー補給が可能です。患者さんに負担がかからないので、継続しやすいこともよい点でしょう。
また、発酵乳にはたんぱく質が含まれていることも大事なポイントです。加齢によって筋肉量は減少します。それを少しでも食い止め、改善するには十分なたんぱく質の摂取が欠かせません。さらに、加齢によりたんぱく質を筋肉に同化する能力も低下していきます。
このたんぱく同化抵抗性を考慮して、十分なたんぱく質をとる必要があります。成人の場合、必要なたんぱく質は体重1kgあたり0.8~1gですが、高齢者はその1.2~1.5倍量を摂取したほうがよいと考えられています。肉や魚、豆腐などの食品でそれだけの量をとることは、食が細くなっている高齢者には、現実的ではありません。やはり、あまりおなかにたまらずに、おやつ感覚で摂取できる発酵乳をうまく取り入れていくことが大切です。
さらに、発酵乳の原料は牛乳ですから、カルシウムの補給にもなります。骨粗しょう症の予防・改善の一助としても期待されます。

4.発酵することで、微量栄養素が生成される


高齢者の栄養管理における発酵乳の意義

発酵乳の有用性を調べるうちに、世界各国の病院でも術後食や病院食に取り入れていることを知りました。
カザフスタンを訪ねたとき、非常に関心をもったのがクミス(馬乳酒)です。中央アジアで人と馬が生活するようになった頃からのもので、最初は偶然作られたと考えられています。マルコ・ポーロの記録やチンギス・ハーンの伝説にすでに登場しています。第一次世界大戦当時に兵士の食料として大量に飲まれ、結核罹患者が少なかったことから、結核を防ぐと評判になった飲み物だと伝えられています。
中央アジアやロシア各地には馬乳酒を使った伝統治療院があり、結核や肺炎などの呼吸器疾患のほか胃炎などの消化器系疾患、生活習慣病の改善に用いられているといいます。
また、馬乳酒は非常に栄養価が高いという中国の研究報告があります。アミノ酸は18種類、ビタミン類は数種類含まれています。これらは馬乳酒に含まれる乳酸菌が発酵する際に生成されます。 
この発酵乳の栄養的な特性は、馬乳酒に限ったことではありません。菌の種類などによって生成される有機酸、ビタミン類の種類は異なりますが、どの発酵乳でもこれら微量栄養素が発酵によって生成されることは確かです。私は、日本の高齢者ケアに発酵乳を取り入れるもうひとつのメリットとして、この発酵による微量栄養素の生成が挙げられると思います。食事量が減れば、当然体に必要な微量栄養素も不足します。それを補う役割を考えると、高齢者の栄養管理にとって発酵乳は大変意義があるといえるでしょう。

“最後まで口から食べる”ための一助として発酵乳を取り入れていきたい

以前訪ねたブルガリアの病院では、入院患者に水で割ったヨーグルトドリンクが提供されていました。地域の食文化を生かし、患者さんもおいしく無理なく飲み干せる、よいアイデアだと感心しました。
各国の取り組みを調べ、学びながら、高齢者の方に“最期まで口から食べる”ための一助として発酵乳を取り入れていきたいと考えています。

監修者


丸山 道生 先生

医療法人財団緑秀会 田無病院 院長