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Vol.17

Nice!

特集
脳卒中急性期の患者さんの食事支援

脳卒中急性期の患者さんの病態は様々です。
意識が清明ですぐに食事を召し上がれる方がいる一方で、意識障害が強くて経口摂取困難な方、意識はしっかりしていても嚥下反射が起きない方なども多く、個別の患者さんに応じた食事支援が求められます。
そこで今回は脳卒中急性期患者さんの食事管理を支援する上でのポイントなどを中心にご紹介します。

脳卒中急性期の患者さんの食事支援-ある日のこと-

食事支援を行う上でのポイント

経口摂取の可否を入院時から繰り返し評価

最近では、脳卒中急性期においても絶飲食期間をできるだけ短縮し、消化管機能の低下を防ぐことが重要視されるようになっています。意識レベルが比較的保たれ、バイタルサインの安定している患者さんに関しては、医師の指示のもとで飲水テストなどを行って経口摂取の可否を評価します。
当センターの場合、意識レベルの目安として、Japan Coma Scale(JCS)*の点数が1桁であれば、嚥下機能を評価の上、入院時から経口摂取を試みるようにしています。一方、JCSの点数が2桁以上で腸管を使用できる場合には、一旦、経鼻経管栄養から開始しますが、意識レベルが回復してきた時点で再度評価を行い、経口摂取の可否を確認しています。

*Japan Coma Scale(JCS)
意識障害の評価スケールの一つで、意識レベルを大きく
「I:覚醒している(1桁の点数で表現)」
「Ⅱ:刺激に応じて一時的に覚醒する(2桁の点数で表現)」
「Ⅲ:刺激しても覚醒しない(3桁の点数で表現)」の3つに分類している。

廃用による摂食機能の低下に注意

重症の脳卒中患者さんの場合、意識障害が数日間続くことがあり、直ぐには経口摂取できない方も多いです。しかし、漫然と意識レベルの回復を待っているだけでは、廃用によって摂食機能が低下してしまう恐れがあります。特に注意を要するのが高齢患者さんの筋力低下です。高齢者の筋力低下というと四肢の筋肉を連想しがちですが、咀嚼や嚥下に関わる筋力も廃用によって低下します。意識がほとんどなく、ご自分で動けない場合でも、口腔内のケアやベッド上でのリハビリテーション(例えば関節可動域訓練)など、意識レベルが回復した時に備えた準備を進めておくことが重要です。

症状に応じた食事支援

脳卒中には様々な症状があり、症状の程度にも幅があります。また、一人の患者さんが複数の症状を併発しているケースがほとんどです。このため、患者さんの状態を早期から把握して、個別の患者さんに応じた支援を行うことが求められます。脳卒中の代表的な症状に対する食事支援の例をいくつか示します。

【片麻痺】
片側の手足を思うように動かせず、手に持った食具を落としたり、顔半分に麻痺が現れると口の片側から食べ物をこぼすなどの影響が出ます。利き手に麻痺が現れた場合には、自助具や自助食器なども活用しながら、患者さんの自立をサポートします。また、口唇周辺や舌に片麻痺がある場合は、健側(麻痺のない側)に意識的に食物を入れるように促します。
片麻痺の患者さんでは運動障害だけでなく感覚障害なども同時に現れることが多いので、患者さんの様子をしっかりと観察して食事支援に活かすようにしましょう。

利き手の変更は患者さんにとって大きなストレスが伴うので、精神面のケアも忘れずに

【視野に関連する症状】
視野に関連する症状は半盲半側空間無視に大別されます。半盲の患者さんに関しては、視野が欠けていることをご本人が自覚できるので、食べやすい位置に食事をセッティングするようにします。一方、半側空間無視は主に左麻痺のある患者さん(右脳を損傷し、体の左側が麻痺する場合)に多く見られる症状で、空間の片側を認識できなくなる高次脳機能障害の一つです。半側空間無視が現れると無視側に置かれた食事に気付くことができず、食べ残してしまったりします。このような場合には、食事を健側にセッティングするとともに、無視側を意識して食べ残しがないか見渡していただくように促すと良いでしょう。

ごちそうさまでした

《参考》食事に関わる高次脳機能障害の症状(例)

  • 注意障害…………周囲が気になって食事に集中できない
  • 半側空間無視……無視側を食べ残す
  • 記憶障害…………食事の注意点を指導しても忘れてしまう
  • 遂行機能障害……順序立てて食事を摂ることが難しくなる
  • 病識の低下………制限・禁止されているものを食べてしまう

【嚥下障害】
嚥下機能に合わせた嚥下食を提供しながら、機能回復に応じて徐々に食事形態を変えていきます。ゼリー食やミキサー食は見た目では何を食べているのか分かりづらい場合があるので、言葉で説明を加えたり、匂いを嗅いでもらいながら介助を行います。高次機能障害の一つである注意障害を併発している患者さんは、食べるペースが乱れたり、一口量をうまく調整できないなど、判断能力が低下することも多いため、誤嚥や窒息を起こさないよう、十分な注意が必要です。
なお、一度に召し上がる量が少ない時には、栄養補助ゼリーを間食に提供するなどして栄養の充足を図りますが、それでも経口からの栄養摂取が不十分な場合には、経鼻経管栄養の併用を検討します。

患者さん自身でできる部分を最大限に伸ばす

患者さんの支援を行う上で重要なことは、ご自身でできる部分を最大限に伸ばすということです。“患者さんの力になりたい”と思うあまり、必要以上に介助しすぎると、却って患者さんの残存機能を低下させてしまいます。患者さんの自立を促しながら、自力では安全に行うことが難しい部分をサポートすることが重要です。
そのためには、患者さんの状態を十分に把握しておく必要がありますが、“できること”と“できないこと”を正確に見極めるのは決して容易ではありません。個別の患者さんの病態やステージに応じた最適な支援を行うためには、周囲の看護スタッフはもちろんのこと、医師やリハビリテーションスタッフをはじめとする多職種との連携が不可欠です。判断に迷った時などは、積極的に周囲に相談するようにしましょう。

回復期へのバトンタッチ

患者さんの入院期間中に経口摂取への移行を見届けることができれば達成感もひとしおですが、病院の機能分化が進む中、現実には摂食機能の獲得前に転院となってしまうことも少なくありません。しかし、急性期治療中の看護ケアを通じて患者さんの残存機能を維持したり、口腔内環境を改善することができれば、それだけでも大きな成果の一つといえるのではないでしょうか。
転院先と情報共有しながら、安全に回復期へバトンタッチできるようにすることも、脳卒中急性期に関わる看護スタッフに託された重要な役割ではないかと考えます。

急性期→回復期
エキスパートの仕事現場(17)

資格取得のきっかけ

もともと私は摂食・嚥下障害看護認定看護師の資格を先に取得していたのですが、臨床現場では脳卒中患者さんの摂食嚥下障害に携わる機会が多く、疾患についての知識不足を痛感することが多々ありました。その後、一時的な休職期間があり、復職後に目指すべき看護師像について色々と自問自答した際に“脳卒中に関する理解を深めて摂食嚥下障害のケアに役立てたい”と思ったのが資格取得のきっかけです。
二領域の認定看護に関する学びを通じて、脳卒中と摂食嚥下障害の両面から患者さんにアプローチできるようになったことは、復職後の業務に大いに役立っています。

認定看護師としての業務

現在はSCU(Stroke Care Unit:脳卒中集中治療室)に所属しており、脳卒中発症直後で病態の不安定な患者さんの看護に当たっています。認定看護の教育課程で学んだ内容については周囲のスタッフと積極的に共有し、根拠に基づいた脳卒中看護を一緒に実践できるよう努めています。
また、リハビリテーションスタッフとも協働する機会が多く、リハビリテーションに関する様々な専門知識を教えてもらいながら、患者さんの状態の変化などについて情報共有を図っています。

仕事のやりがい

脳卒中急性期では意識障害のある患者さんも多いですが、日々の看護を通じて、たとえ微かであっても改善の兆しを発見できた時に喜びを感じます。また、なかなか変化が見られない時には“何か介入できることはないだろうか”と一生懸命に考えます。その結果、少しでも治療が前に進んだりした時の嬉しさには特別なものがあり、自然と“もっと頑張りたい”という気持ちも生まれます。そうした力を患者さんから日々与えていただけることは何より幸せであり、自分にとって一番の励みになっています。

close up! 脳卒中急性期の低栄養

かつて、脳卒中急性期における栄養管理はあまり積極的には行われていませんでしたが、近年はそうした状況も徐々に変わりつつあるようです。ここでは、脳卒中急性期の低栄養と、栄養療法を行うことの意義について解説します。

1. 脳卒中とは?

脳卒中とは、脳の血管が詰まったり破れたりして血液が届かなくなり、脳の神経細胞が障害される疾患全般を指します。脳卒中は原因によって①脳の血管が詰まる(血流が悪くなる)「脳梗塞」、②脳の中で細い血管が破れて出血する「脳出血」、③脳の太い血管にできた瘤(脳動脈瘤)が破裂して脳表面に出血が拡がる「くも膜下出血」の3つに大別されます。脳は部位ごとに働きが異なるため、脳卒中で損傷を受けた部位によって出現する症状も様々です。脳卒中の代表的な症状を以下に示します。

脳卒中の代表的な症状

  • 意識障害 :傾眠傾向、昏睡
  • 運動障害 :片麻痺(半身が動かなくなる)
  • 知覚障害 :片麻痺(半身の感覚が麻痺する)
  • 平衡障害 :ふらつき
  • 言語障害 :構音障害(ろれつが回らない)
  • 視力障害 :片目がぼやける
  • 視野障害 :同名半盲(片側の視野が欠けて見えない)
  • 嚥下障害 :飲み込み困難、誤嚥
  • その他 :高次脳機能障害(集中する・記憶する・判断することなどが困難)

2. 脳卒中患者さんの転帰と低栄養

脳卒中患者さんの病状は治療期間中に刻々と変化していきます。とくに急性期から亜急性期にかけては変化が著しく、この時期にどのように対応するかが回復期以降の機能予後にも影響します。患者さんの転帰を左右する要因には様々なものが考えられますが、低栄養もその一つである可能性があります。
脳卒中は、直前まで通常の日常生活を送っていた人が突然に発症することが多いため、発症時点で低栄養状態に陥っている患者さんは比較的少ないと思われます。その一方で、急性期病院を退院する患者さんのうち少なくとも3 割程度が低栄養状態にあることが最近の研究報告*でも示されています。つまり、急性期治療中の短期間で栄養状態が急速に悪化している可能性があるということです。その背景には侵襲性ストレスに伴う異化亢進など、病態自体に起因するもののほか、入院中の長期絶飲食をはじめとする消極的な栄養管理も関係していると考えられます。

  • Nozoe M, Yamamoto M, Masuya R, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis ;30(9): 105989, 2021.

3. 脳卒中急性期の早期経口/経腸栄養

かつて、脳卒中急性期においては頭蓋内圧亢進に伴う嘔吐や吐物の誤嚥などに対する懸念から、早期経口摂取や早期経腸栄養に対して慎重な意見も多く聞かれました。しかし、経口/ 経腸栄養の開始が遅れると、腸管機能低下に伴う消化吸収能や免疫能の低下にも繋がります。このため、近年は可能な限り絶食期間を短縮して、早期から経口摂取や経腸栄養を開始すべきとの考えが広まりつつあります。
脳卒中の発症直後から患者さんの栄養状態を継続的に評価し、意識レベルと嚥下機能が保たれている軽症患者さんには経口摂取を、意識障害や嚥下障害を認める患者さんには経腸栄養をできるだけ速やかに開始することが大変重要です。

4. 疾患の特殊性への配慮

脳卒中急性期の栄養管理を実践するに当たっては、疾患の特殊性に十分配慮する必要があります。
例えば、急性期における高血糖は脳卒中の転帰に影響を及ぼすことが知られています。とくに脳卒中発症直後の重症患者さんでは、糖尿病の既往の有無に関わらず、侵襲性ストレスに伴う異化亢進によって高血糖のリスクが高まっている可能性があります。こうした患者さんに対しては必要以上のエネルギー投与は避け、経腸栄養開始から数日間は必要量より少なめの投与量で管理することも考慮すべきです。
このほか、脳卒中患者さんに多く見られる嚥下障害や、運動障害知覚障害による片麻痺、食べ物を認識できずに摂食障害をきたす高次脳機能障害など、栄養管理の実践において留意すべき点は数多くあります。それらの点に適切に対処するためには、多職種による協働が欠かせません。
各職種がそれぞれの専門性を発揮しながら、急性期からの積極的な栄養管理(=栄養療法)に取り組むことで、回復期におけるリハビリテーション効果の向上や、維持期におけるフレイルやサルコペニアの回避にもつながると考えます。

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