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Vol.15

Nice!

特集
慢性呼吸器疾患患者さんの療養支援

慢性呼吸器疾患では、息苦しさをはじめとする呼吸器関連の症状・障害だけでなく、活動性の低下や食欲の低下、精神的疲労など心身に様々な影響が生じることが知られています。
このため、近年はCOPDをはじめとする慢性呼吸器疾患は全身性の疾患として認識されるようになっており、患者さんに対する早期からの多面的な支援が重視されています。
今回は慢性呼吸器疾患患者さんの療養生活を支援する上でのポイントなどを中心にご紹介します。

慢性呼吸器疾患患者さんの療養支援-ある日のこと-

療養生活を支援する上でのポイント

【入院時にも不必要な安静は避ける】

慢性呼吸器疾患の急性増悪で入院する患者さんは、在院日数が長期に渡るケースも珍しくありません。入院当初は急性期を脱するために安静が必要ですが、安静が長期化すると身体活動性の低下に繋がり、予後への悪影響が懸念されます。このため、状態が安定してきたら積極的に身体を動かして運動耐容能を高めることが重要になります。
ただ、こうしたことは医療スタッフ間でも十分に情報共有できていない場合があり、患者さんに対して必要以上に安静を求めてしまうケースが見受けられます。まずはしっかりと運動アセスメントを行い、個々人の運動耐容能に応じて適切に身体を動かしてもらうように心がけましょう。

6分間歩行試験

特別な機器を使わず、簡便に実施できる運動アセスメント方法として「6分間歩行試験」があります。これは、被験者に廊下などを往復してもらい、6分間にどれだけの距離を歩けるか測定するもので、心拍数や呼吸困難、疲労感、経皮的動脈血酸素飽和度(saturation of percutaneous oxygen:SpO₂)と組合せて運動耐容能や労作時低酸素を評価します。さらに、この試験結果から治療効果の判定予後予測もできるため、当院では入院・外来を問わず、幅広い患者さんに実施しています。

【退院後の運動療法】

歩行は様々な日常生活動作に必要となるため、退院後の運動療法においても、ウォーキングは基本的なトレーニングの一つに位置づけられます。ただ漫然と歩くよりも、数値的な目標があった方が患者さんのモチベーションアップに繋がるので、ウォーキングを行う際には万歩計やスマートフォンの歩数計アプリを活用してもらうと良いでしょう。

【在宅での療養環境の工夫】

療養生活を心地よく過ごすためには、日常生活動作に伴う呼吸困難感を軽減するための工夫も重要になります。表に示したように、慢性呼吸器疾患の患者さんが息苦しくなりやすい動作には様々なものがありますが、個々人の生活と照らし合わせた際に、特にどういった動作で息切れを生じやすいかを考えてアドバイスすることが重要です。
例えば、入浴や就寝・起床は息切れが生じやすい日常生活動作の一つですので、患者さん宅を訪問する際には浴室や寝室を見せていただき、工夫できる点を一緒に考えます。

動作 具体例
腕を挙げる動作 かぶりの服(Tシャツやセーターなど)を着る、洗髪、洗濯物を干す、高い所の物を取る
反復する動作 身体を洗う、掃除、歯磨き
腹部を圧迫する動作 ズボンをはく、足を洗う、掃除、草むしり、低い所の物を取る
息を止める動作 洗顔、排便、会話、重い物を持ち上げる
▲表息苦しくなりやすい動作(例)

《浴室》浴槽の面積が狭く、深さがあるようなお風呂では、どうしても前かがみの体勢で湯舟につかることになり、お腹が圧迫されて息苦しくなりがちです。こうした場合は浴槽内にイスを置いて高さを調節すると良いでしょう(図1)。
《寝室》寝たり起き上がったりする際に上体を無理なく支えられるよう、適切な位置に手すりが設置されているかを確認します。また、横になる際には頭側を少し挙上した方が楽に呼吸でき、睡眠中の不顕性誤嚥や胃食道逆流等の予防にも繋がるので、できればベッドはギャッチアップ機能のあるタイプが望ましいです。

湯舟の浸かり方の工夫 図1
▲図1湯舟の浸かり方の工夫

【食事の工夫】

慢性呼吸器疾患の患者さんは痩せていて気腫性病変が優位な人と肥満傾向で末梢気道病変が優位な人に大別されますが、どちらの場合も適正な体重の維持が重要になります。高齢の患者さんではどちらかというと痩せている人が多く健康な人よりも多くのエネルギーや栄養素が必要になります。1回で食べられる食事量が少ない人には、ご飯よりもおかずを優先的に食べてもらったり、分食や間食、経口流動食の使用などを勧めます。

《調理の工夫》脂質はたんぱく質や炭水化物に比べて少量で高エネルギーを摂取できるほか体内で燃焼した際に発生する二酸化炭素量が少なく、肺への負担も軽減されます。油やマヨネーズを調味料として使ったり、豆腐にゴマをかけたり、おひたしを油で炒めたりすると手軽にエネルギーアップできるのでお勧めです。

《間食の活用》夏場は食欲が減退しがちですが、アイスクリームなら食べられるという患者さんは比較的多いです。乳固形分、そのうち特に乳脂肪分の多いアイスクリームを食べた方がエネルギーの摂取効率が良いので、購入時にパッケージ表示などを意識してもらうと良いでしょう。

【息切れの発作に襲われた時の対処】

外出先などで激しい息切れの発作に襲われると、精神的に不安になって呼吸がさらに早まったり、動悸などの症状が現れることがあります。こうしたパニック症状が起こりそうになった(または起こった)時、スムーズに回復できるように対処することをパニックコントロールといいます。呼吸筋の緊張を緩めて楽になれる姿勢をとり、呼吸を整えることがパニックコントロールの基本になります。
近くに壁がある時は壁に寄りかかって休み(図2)、周囲に何もない時は両手を膝について上肢支持位を取ることで、次第に呼吸が整ってきます。それでも息切れが治まらない時には、病院に電話したり、救急車を呼んでもらうなどの対応も必要です。

息切れの発作が起きた時の対処 図2
息切れの発作に襲われた時の対処 ポイント
▲図2息切れの発作が起きた時の対処

【終末期に向けたアドバンス・ケア・プランニング】

慢性呼吸器疾患は慢性の経過を辿りながらも、急性増悪を機に致命的な状態に陥ることがあるため、余命の推定は難しいとされています。一方で、病歴の長い患者さんであっても、終末期の迎え方についてご家族と十分に話し合っている人は少ないようです。いずれ訪れる最期の日々を悔いなく過ごしていただくためにも、早い段階から繰り返し話し合いの機会を設けられるよう、看護師が仲介役になって患者さんとご家族をサポートするようにしましょう。

エキスパートの仕事現場(15)

資格取得のきっかけ

認定看護師の資格を取得したのは7年ほど前です。その当時、院内にはクリティカルな領域に関連した認定看護師の数が少なかったことから、まずは自分が呼吸ケアに関する専門知識を修得し、それを周囲に広めていくことで、呼吸器疾患などに苦しむ患者さんの役に立てるのではないかと考えたのが、この資格を取得しようと思ったきっかけです。

資格取得までの道のり

認定看護師教育機関へは近隣にマンスリー・アパートを借りて半年間通いました。家賃、学費と経済的な苦労はありましたが、幸い、当時はまだ独身だったので何とか遣り繰りできました。また、レポートなどの課題も多く大変でしたが、社会人になると一つのテーマを集中的に学べる機会はなかなか得られないので、貴重な体験ができたと思っています。

資格取得後の活動

最初に取り組んだのは、呼吸器疾患に関する院内の看護ケアの見直しやマニュアルの整備です。また、新しい機器類が導入された際には使用方法の説明を行ったり、勉強会の開催にも積極的に取り組んできました。色々と苦労もありましたが、院内のスタッフに自分の名前や活動を知ってもらうことができ、最近は講演や看護師養成校での講義、原稿の執筆など、院外から依頼を受ける機会も増えています。

日々の活動で大切にしていること

普段は病棟での活動が中心になりますが、患者さんが退院した後も継続的にサポートしていきたいとの思いから、週に一度だけ外来で療養支援を行っています。また、在宅酸素療法(HOT)など、特にケアが必要な方には退院後訪問指導を行い、住み慣れた場所で不安なく在宅療養生活が送れるように援助しています。

仕事のやりがい

患者さんから「太田さんがいてくれて良かった」と言っていただけた時などは、何よりもやりがいを感じます。また、自分の活動がきっかけとなり、周囲のスタッフが呼吸ケアに興味を持ってくれるようになると大変励みになります。実際、呼吸器関連学会の認定資格取得を目指す看護師も出てきており、とても頼もしく感じています。

カンタン生理学(15)

慢性閉塞性肺疾患(COPD)が全身性の疾患として捉えられるようになる中で、近年は包括的な呼吸リハビリテーションの有用性が注目されるようになっています。ここでは、COPDの呼吸リハビリテーションと栄養について解説します。

1.COPDと低栄養

近年、慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)の患者さんの生活を支える医療システムとして、呼吸リハビリテーション(以下、呼吸リハ)の重要性が広く認識されるようになってきました。呼吸リハは様々な構成要素から成り立っていますが、中でも中心的な役割を担っているのが運動療法です。しかし、運動療法の効果を十分に得るためには、患者さんの栄養状態が適切に維持・管理されている必要があります。
一般に、COPDの患者さんは低栄養を来しやすいことが知られています。その背景には、呼吸機能障害に伴うエネルギー消費量の増加エネルギー摂取量の低下があります(図)。さらに、COPDは慢性炎症性疾患であるため、炎症性サイトカインの増加に伴う筋蛋白異化の亢進も低栄養を助長させます。
特にCOPDの急性増悪期には、安定期以上に呼吸仕事量の増加や炎症反応の増強が起こることから、栄養状態のさらなる悪化が懸念されます。

COPDにおけるエネルギー消費量と摂取量の不均衡 図
▲図COPDにおけるエネルギー消費量と摂取量の不均衡

2.急性増悪による入院時には、まず栄養評価を

近年、リハビリテーションと栄養の関連性が様々な疾患領域において報告されています。それはCOPDに関しても例外ではなく、低栄養状態で蛋白異化の亢進している患者さんに対して高強度の運動療法を行うと、かえって筋肉量の減少を招く恐れがあります。このため、COPDの患者さんが急性増悪で入院された際などには、栄養状態をしっかりと評価することが重要です。
栄養評価の具体的な進め方としては、まず主観的包括的評価(Subjective Global Assessment:SGA)や簡易栄養状態評価表(Mini Nutritional Assessment:MNA®)などで栄養スクリーニングを行い、必要に応じて身体計測、体成分分析、間接熱量測定、生化学的検査などで精査します。体成分分析に関しては、特に除脂肪量(Fat-Free Mass:FFM)がBM(I Body Mass Index)よりも鋭敏な予後因子とされていることから、脂肪量や骨塩量などと併せて栄養状態の変化を継続的にモニタリングします。
また、患者さんの必要エネルギー量を算出し、適切なエネルギー量を摂取できているか把握することも大切です。エネルギー摂取量が不足している患者さんに対しては、適切な食事指導を行うとともに、必要に応じて通常の食事に加え、濃厚流動食や経腸栄養剤などを提供する栄養補給療法を行い、エネルギーの充足を図ります。また、急性増悪期で経口摂取のみで目標とするエネルギー摂取量が得られない患者さんに対しては、経管栄養静脈栄養の併用も検討します。

3.COPDとサルコペニア

人口の高齢化により、近年はCOPDの患者さんにも高齢の方が増えています。それに伴って新たな問題となっているのがサルコペニアの併発です。COPDにおけるサルコペニアは、加齢に加えて身体活動性の低下や低栄養、全身性炎症など様々な因子が複合して発症すると考えられており、骨粗しょう症や認知機能の低下をはじめとする様々な合併症の発症にも影響を与えています。
現在のところ、COPDに合併したサルコペニアに対する有効な治療戦略は確立されていませんが、運動療法や栄養療法を有機的に統合させた包括的な呼吸リハが、その予防や改善に役立つ可能性はあります。今後のエビデンスの蓄積が期待されます。

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