
そうした反省もあって、5年程前より宅配の販売店としての基本を見直す取り組みを始めたという。
その名も「ミルクで元気会議」という名称で社内の組織や業務プロセス、顧客などの切り口から「4S運動」「無事故」「会議運営」「新規開拓」他10ほどのテーマを設け、それぞれにスタッフがペアを組みその主担当となって運営の目標や対策などを考え「ミルクで元気会議」の場で、他のスタッフへ啓蒙を図っているという。
その運営がユニークなのは、その活動に評価を行っていることだ。
10のテーマごとに掲げた目標に対して、これができれば何点というように定量評価の基準を設け、何点以上であれば青、何点だと黄色、何点だと赤というように信号機の色になぞらえて、すべてのテーマをみんなで青になるように協力して運営している。
そして、一定期間が経過するとスタッフは違うテーマの担当になり、それを繰り返していくことで結果的に全社的な視点でいろんなことを考えられるという仕組みになっていた。
それは単なるスタッフのスキルアップや強化を図る教育の枠を超えて、一般企業が品質向上などで行われている「小集団活動」のようだ。

「素晴らしい取り組みですが、それによって何か変化がありましたか?」
「まず私が会議などで細かな指示や命令をしなくなったことでしょうか」
つまり、自分たちで経営的な目線で目標を掲げることによってスタッフの自主性が芽生えたようだ。
それに加え、課題を深堀してみんなで考えることで共通認識が深まり、解決策もみんなで取り組むことが出来るようになったことは大きいという。
例えば「解約対策」に関するテーマでは、これまでお客さまからしばらく休ませてください。と言われるとそれが休止ではなく、そのまま解約になっていた。
ところが、休みたいというお客さまの気持ちの裏に何があるのかを探っていくと、「飲み飽きてしまった」「飲めずにたまってしまう」などのいくつかの理由があることが分かり、ならばその理由ごとに事前にどのようなことが出来るのかを考え、日頃のお客さまとの会話で「いかがですか、味に飽きたりしてませんか」というような声掛けや、新たな提案を行うことでお客さまの休みたいという気持ちを続けて健康になりたいという気持ちへとシフトしていくような取り組みができるようになってきたという。
現に「いづみや乳販」さんの解約率は全国の販売店の平均値よりも低いという眼に見える実績となって表れている。

スタッフからの「お客さまの気持ちになって行動することが大切なのでは?」というひとことから、今ではスタッフひとりひとりがお客さまを大切に思う気持ちがお客さまに届くようになり、「牛乳を取るだけのつもりで契約したけど、配達の人とこんなにコミュニケーションできるとは思わなかったよ」という声をいただけるような関係作りができるようになってきた。
宅配の販売店としてこれから何を目指していかれますか?との問いに、専務は「お客さまにはうちの店を通じて健康になっていただきたい、それだけですよ」
いづみや乳販では、骨の健康チェックイベントや栄養相談、乳和食調理実習、ゲートボール大会の協賛など既存のお客さまはもちろん地元の方との交流を通して健康をお届けする取り組みを行っている。
その他にも、むつ市と協定を結び宅配の配達と共に防犯パトロールの一翼を担っており、地元にはなくてはならない宅配店になっている。
専務はお話の中で、何度も「同じことの繰り返しが大切だ」ということを仰っていた。一般的に仕事がうまくいかなければ、簡易的なやり方や違うやり方を模索しがちだ。しかし、「健康をお届けする」「お客さまの気持ちになって考える」という基本の徹底こそが重要であるということを再認識させられるお話の数々だった。
インタビューを終え、帰りの新幹線の車窓に雪一面の中に点在する家がちらほらと見えた。
遠いお客さまだと、片道1時間かかるところもあると仰っていた。こうした家々にも、いづみや乳販さんのようなお客さまの健康を願って雪道の中、大切に牛乳を運んでくれる牛乳屋さんがいるんだと思うと、商品だけでなく健康づくりを心強くサポートしてくれる安心や信頼も届けてくれているんだなとあらためて感じる。
取材:営業コンサルタント/村山 哲治