カテキンジェルが発現する「選択的抗菌効果」(※1)について発表
2013/05/24
株式会社 明治(代表取締役社長:川村 和夫)は、茶カテキンを配合した口腔湿潤ジェル(※2)(カテキンジェル)が、口腔病原微生物に抗菌効果を示し、一方では正常な口腔環境の維持に必要な口腔常在菌には抗菌効果を示さないという「選択的抗菌効果」を発現することを、日本大学および藤田保健衛生大学との共同研究により明らかにし、「日本歯科医学会誌」などで発表しました。
このたびの研究では、安全性が高く、かつ選択的抗菌効果を有する口腔湿潤ジェルを開発し、その機能を実証することを目的としました。抗菌成分としては、お茶から抽出される茶カテキン(※3)を選択し、これをキサンタンガム(※4)などから成る基剤に配合した口腔湿潤ジェル(カテキンジェル)を開発しました。この基剤により、茶カテキンの口腔内への滞留性に加え、徐放性を付与することができます。(※5)
カテキンジェルの抗菌効果を評価したところ、代表的な病原微生物である歯垢成熟・歯肉炎関連菌、歯周病原菌、う蝕原因菌、化膿性炎症起因菌、口腔カンジダ症起因菌に抗菌効果を示しましたが、口腔常在菌であるレンサ球菌群には抗菌効果を示さず、カテキンジェルが「選択的抗菌効果」を発現することがわかりました(図1)。

図1 各種微生物へのカテキンジェルの抗菌効果
改良型寒天拡散法(※6)により各種微生物に対する抗菌性を評価しました。ジェルを充填する穴の直径は10mmなので、図1の10mmの値は抗菌効果を発現していないことを表します。
カテキンジェルは、病原微生物に対しては抗菌効果を示しますが、正常な口腔環境維持に関わる口腔常在菌には抗菌効果を示しません。
今後は、口腔内および全身性疾患に対する効果を中心に、臨床応用についての評価を進めてまいります。
ご参考
(※1)選択的抗菌効果とは: | |
口腔湿潤ジェルに抗菌効果を付与することで、ブラッシングなどとの併用により、病原微生物の効率的な除去が期待できます。しかし、正常な口腔環境維持に必要な口腔常在菌にまで抗菌効果を示すと、菌交代症や病原性歯垢(プラーク)形成のリスクが生じるおそれがあります。したがって、病原微生物の増殖を抑制するとともに、口腔環境の維持に関わる口腔常在菌叢を保つための「選択的抗菌効果」が、長期的にみれば極めて重要であると考えられます。 | |
(※2)口腔湿潤ジェルとは: | |
急速な高齢化に伴い、嚥下・咳反射の低下による誤嚥性肺炎の患者数が増加しています。誤嚥性肺炎の発症は、日常的な口腔のケアにより減少できる可能性が報告されていますが、高齢者はだ液の分泌量の低下などにより、口腔微生物が増殖しやすくなっています。そのため、高齢者の口腔のケアでは、口腔細菌の過剰な増殖を抑制して口腔環境を清浄に保ち、感染症を予防することが重要です。このような視点から口腔を湿潤する口腔湿潤ジェルを用いることが有用であるとされています。 | |
(※3)茶カテキンとは: | |
古来より世界中で親しまれてきたお茶から抽出された成分で、抗菌、抗真菌、抗ウイルスなどの抗微生物作用に加え、抗酸化、抗腫瘍、毒素阻害、ビフィズス菌など腸内有用微生物の増殖作用など多彩な機能について報告されています。 | |
(※4)キサンタンガムとは: | |
多糖類の1つで、トウモロコシなどの澱粉を細菌により発酵させて作られます。水と混合すると、粘性が出ることから、増粘剤として食品や化粧品の原料など幅広い用途で用いられています。 | |
(※5)キサンタンガムによる茶カテキンの滞留および徐放効果: | |
口腔内における液体またはジェル中の茶カテキン濃度推移を示しました(図2)。ジェルを用いることにより、だ液の希釈作用や洗浄作用に抵抗し、口腔内での作用時間の延長が確認されました。 | |
![]() 図2 キサンタンガムによる茶カテキンの滞留および徐放効果モデル | |
(※6) 改良型寒天拡散法とは: | |
日本大学歯学部細菌学講座が開発した抗菌効果の評価法です。
①寒天培地に穴を形成し、抗菌効果を評価するジェル試料を充填します。
②供試微生物ごとの至適条件で培養します。
③培養後、寒天培地上で微生物が繁殖した範囲は濁って見えますが、繁殖できなかった範囲は透けて透明に見えます。穴に充填したジェルが抗菌効果を発現すると、穴の周囲に透明な同心円(発育阻止帯)が確認されます(図3)。
④発育阻止帯の形成の有無および円径の大きさを測定することにより、各種微生物に対するジェルの抗菌効果の有無および効果の程度を評価します。ジェルが抗菌効果を発現しない場合、穴の周囲の同心円の直径は、ジェル試料を充填する穴の直径と同じ10mmとなります。 |

図3 抗菌効果の評価方法
■カテキンジェルの選択的抗菌効果やその機序については、以下の学術誌などで発表しています。
・Biol. Pharm. Bull., 34(5), 638-43 (2011)
・Microbial Pathogenesis, 56, 16-20 (2013)
・日本歯科医学会誌, 32, 49-53(2013)