話を進めるごとに、野村社長から明治の宅配店経営者の名前が次々と出てくる。
「いやー、あの人はすごい人です」「○○社長の取組がすごい」「○○さんのお店は参考になります」とにかく周囲に対して尊敬の念を欠かさない。
他のお店の研究が「笠間ミルクセンター野村」の今日を築いたのでしょうか?
「もちろんそうなのですが、そのきっかけとなったのが明治宅配アカデミーへの参加で、私にとって大きな転機になりました」
明治宅配アカデミーというのは、全国の(株)明治特約店で組織されている「明乳会全国連合会」が販売店の後継者向けに実施している研修会で、そこでは宅配店経営の心構えから経営手法までを学ぶことができる。知識ベースのことも重要だが、一緒に受講する全国の宅配店経営者の考え方や取組事例に触れることによる刺激がとにかく大きいという。
それを機に宅配店の様々な経営改革に着手する。その熱意は、アカデミーで知り合った全国の宅配店経営者と親交を持ちながら情報交換や勉強会を自主的に行い切磋琢磨することで、保ち続けている。
では具体的にアカデミー参加によって、どのような取組をされてきたのだろうか。
「そうですね、これまでスタッフに任せっぱなしだったので現状の問題点を探ることから始めました」
するといくつかの課題が浮かび上がってきた。
先ずスタッフや目標に関する管理体制が弱く、開拓スタッフの動機付けや宅配店内でのコミュニケーションにも弱さがあった。そこで野村社長は自らが行動を示すことから始めた。
またそれを客観的に見てもらうため、業務日報を明治の担当者へメールで報告していた。
そうした社長の行動変化にスタッフも刺激を受け、徐々に内部のコミュニケーションも改善されていった。もちろんそこには、形式的になっていたミーティングを宅配店としての目標や個人の目標としてどう取り組むべきかを自発的に考え発言できるような風土改革やスタッフの管理体制も整えられていったことが背景にあってのことだ。
「宅配の仕事はお客様満足がとても重要ですが、それ以前に従業員満足がなければお客様へ満足を感じてもらえるサービスは提供できないと思うんですよ」
その言葉を裏付けるように宅配店では経営理念のキーワードを「ハッピー」とし、地域に密着し愛される牛乳屋さんを目指して様々な取り組みを行っている。
配達スタッフのシフトも休みが取りづらい状態で組まれていたが、それを他のスタッフでフォローできるように改善したり、社内の懇親の場も増やして円滑なコミュニケーションが図れるようにしたり、ユニークな取り組みでは「読書制度」という読んだ本の感想を寄せてみんなに発表すると商品券がもらえたり、スタッフ同士の励ましや感謝やお礼を「サンクスカード」として相互に送りあったりと、とにかくいいことはやってみるという社長のアイデアによって、宅配店内の結束力とここで働くことの楽しさは確実に高まっている。
こうした従業員満足から始まった経営改革からどのような変化が生まれたのでしょうか。
「先ず宅配店内での会話に、お客様の名前がよく出るようになりました」お客様とのコミュニケーションが深まり、顔が見えてきた証拠である。
配達においても通常は効率を優先して考えるが、半数近くのお客様には手渡しで商品を届けているという。もちろん配達効率は落ちるが、スタッフと会うことを楽しみに、いまかいまかと配達を待っていただいているお客様を思うとそれも苦にはならない。
ネット通販が一般化し、注文したものが運送業者によってデリバリーされることが普通になったが、同じ配送業務でも昔からの牛乳の宅配はそれらとは異なる。地元の顔を知っている人が配達してくれる信頼と安心の上に成り立っている。まさに「笠間ミルクセンター野村」はそうした昔ながらの地元の牛乳屋さんとして、お客様との絆をしっかりとつかむことに成功している。
しかし、こうした笠間ミルクセンター野村ファンのお客様が増えてきたことはまだゴールではない。
事業的にはもっと多くのお客様へ商品をお届けする目標を掲げ、安定した事業にしていくことには終わりはない。また、力を入れている従業員満足にしても女性や高齢者でも働ける環境づくりをもっと進めたいという。
ここでは紹介しきれないほどの、お客様とのエピソードもスタッフの方からお聞かせいただいた。こうしたヒューマンタッチな取り組みを大切にする「笠間ミルクセンター野村」は地元の愛される牛乳屋さんとしての良さを磨きながら、これからも躍進し続けるに違いない。
取材:営業コンサルタント/村山 哲治