インフルエンザにかかったことのあるかたであれば、その症状の激しさやつらさは、よくおわかりだと思います。今回は主にインフルエンザの感染の経路についてお話ししたいと思います。
飛沫(ひまつ)感染
インフルエンザウイルスに感染している人が咳やくしゃみをして、インフルエンザウイルスを含む唾液や鼻水などの分泌液の小粒子(飛沫)を周囲に飛び散らせることが、インフルエンザ感染を拡散する最大の原因だと考えられています。これを飛沫感染といいます。
インフルエンザウイルスに感染している人が1回くしゃみをすると約200万個、1回の咳で約10万個もの小粒子(ウイルスではない)が周囲に飛散するといわれています※。ウイルスを含んだ小粒子が飛び散ると、だいたい半径1.5メートル以内の距離にいる人は、鼻や口から侵入し、感染する可能性があります。また、ごくまれに目の粘膜からウイルスが侵入して感染する場合もあるようです。
(※厚労省「インフルエンザ施設内感染予防の手引き(平成25年11月改訂)」)
接触感染
また、飛沫感染ほど多くはないといわれてはいますが、接触感染も感染経路として知られています。咳やくしゃみをするときにエチケットとして、手で口を抑える方が多いと思いますが、このくしゃみや咳で口を抑えた手には、当然唾液や鼻水など、インフルエンザウイルスを大量に含む分泌物が付着します。
この手をすぐに石鹸を使って洗い流せるとよいのですが、電車の中や会議の最中だった場合など、なかなかそうもいかないでしょう。ウイルスがついた手でドアノブや、電車やバスのつり革など、ほかの人が触れる場所やものを触ってしまうと、そこにあとから触れた人にウイルスが付着します。ウイルスの付いた手で物を食べたり、鼻や口に触れたりすると感染してしまいます。
インフルエンザウイルスは目に見えるものではないので、接触感染を防ぐには、やはり外出後の手洗いやうがい、日ごろの体調管理を心がけることが重要です。
空気感染(飛沫核感染)
そして一般的には知られていませんが、空気感染(飛沫核感染)と呼ばれるものもあります。これは、感染した人と同じ室内にいる人が、空気を介して感染するものです。飛沫感染のように直接分泌物を吸い込むのではなく、インフルエンザウイルスが感染力を長時間保ちやすい環境であれば、空気を介して他者に感染してしまうといわれます。
インフルエンザウイルスが長時間感染力を保ちやすい環境とは、
・閉め切った小さな部屋
・室温が低い
・空気が乾燥している
など
感染力を保ちやすい環境を防ぐには、以下のような工夫をしましょう。
・加湿器を使用する
・濡れタオルや洗濯物を部屋に干すことで、部屋の湿度を上げる
・インフルエンザウイルスが室内に高い濃度で浮遊することを避けるため、換気をこまめに行う
感染力が季節によって違うワケ
一般的な風邪は年中みられるのに、インフルエンザは冬の一時期に激増し、夏は目立たないのを不思議に思ったことはありませんか。夏もインフルエンザウイルスはあるはずなのに、どうして流行時期以外はあまり感染しないのでしょうか。
これは、一つにはインフルエンザウイルスが生存しやすい環境による理由が挙げられます。インフルエンザウイルスは気温20℃以下、湿度20%程度を好みます。逆に気温30℃、湿度50%を超えるような高温多湿な環境下では、ほとんど活動できないといわれています。さらに冬場の、室内の窓を閉め切りがちな生活が、インフルエンザの蔓延を助長しているとも考えられます。
2002年医師免許取得、2012年医学博士号(甲)取得。
日本内科学会認定内科医、日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医、インフェクションコントロールドクター、日本感染症学会感染症専門医、日本化学療法学会化学療法認定医・指導医、日本結核病学会抗酸菌認定医・指導医、日本アレルギー学会専門医、肺がんCT検診認定医。