インフルエンザウイルスについて

2015.11.24 12:00 | 佐藤留美

数年に一度、大流行を引き起こすインフルエンザ。その病原となるのがインフルエンザウイルスだということは広く知られています。
このインフルエンザウイルスとは、どのような病原体なのでしょうか?型があることを知っている人はいるかと思いますが、その歴史から詳しく見ていきましょう。

インフルエンザウイルスの歴史

人間とインフルエンザの付き合いには非常に長い歴史があり、世界最古の文明といわれる古代エジプトには、すでにインフルエンザと思われる症状を呈する病気が存在していたと言われています。
ただもちろん、この時代にインフルエンザウイルスを同定するような方法はなく、あくまで残された症状の記載からの推測、ということにはなります。

その他、古代ギリシアの有名な医師、ヒポクラテスの残した文献にインフルエンザと思われる症状の記載があったり、日本でも12世紀前半に「しはぶきやみ」(咳の病)という病名の記載があったり、世界各地でインフルエンザと思われる病気が昔から存在していたことが見てとれます。

17世紀に入り、色々な病気の病原菌が次々と発見されるようになりましたが、それでもインフルエンザウイルスの発見はされず、その後も大流行を起こしたりしながらも、その病原体は長らく謎のままでした。

1918年から1919年にはインフルエンザウイルスのH1N1型が病原体となる、有名な「スペイン風邪」が流行し、何と約5000万人もの死者を出しています。

その後1933年に、ついにインフルエンザウイルスがインフルエンザの病原体であることが実験によって示されました。
感染症の症状がインフルエンザウイルスによるものかどうか、判定できるようになったのはつい最近、20世紀に入ってからのことなのです。

そこから、複数のインフルエンザウイルスの発見があったり、ワクチンの開発が進んだり、様々な医学的進歩を経ながら、現在でも人類とインフルエンザの戦いは続いています。

インフルエンザウイルスと型

人に感染するインフルエンザウイルスには、A型、B型、C型の3種類が知られています。主に大流行の原因となるのは、人以外の動物も宿主とし次々に変異を起こす上、症状も重くなることが多い「A型インフルエンザウイルス」であると考えられています。

A型には、通常人には感染しないウイルスも多数存在するのですが、変異の過程でヒトに感染するような性質を獲得するものが現れ、そのウイルスのタイプに免疫のない一般人口に急速に拡大、大流行することになります。

B型はA型ほど変異の幅が大きくなく、遺伝子が安定しているので、ワクチンが当たれば流行があまり見られない年もあります。
また、免疫自体も一旦獲得したらA型に対するものよりも長続きすることが知られています。

C型は多くの人が小さいうちに免疫を獲得していること、また感染しても症状も鼻水程度で、一般的にあまりひどくならないことが知られています。

新型インフルエンザウイルスとは?

このようにインフルエンザウイルスには基本の型があるものの、時々新型インフルエンザウイルスが発生した、というニュースを聞くことがあるかと思います。これはこれまでに一度も流行したことの無い、新たなウイルスのことを指します。
この新型インフルエンザウイルスは、ウイルスの遺伝子変異によって発生します。インフルエンザウイルスは感染した生物の細胞の中で、自分の遺伝子のコピーを作って増殖するのですが、時に誤ったコピーを作ってしまうことがあります。このことを変異(へんい)と言います。
そして感染→増殖・変異を繰り返す中で、突如大きな変異を起こし、全く違うウイルスが現れることがあります、これが新型インフルエンザウイルスと言われるものとなるのです。
毎年様々な形態で私たちを苦しめるインフルエンザウイルスですが、医学の進歩により少しずつその実態が解明されてきています。

佐藤留美

2002年医師免許取得、2012年医学博士号(甲)取得。
日本内科学会認定内科医、日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医、インフェクションコントロールドクター、日本感染症学会感染症専門医、日本化学療法学会化学療法認定医・指導医、日本結核病学会抗酸菌認定医・指導医、日本アレルギー学会専門医、肺がんCT検診認定医。

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