商品開発 サクセスストーリー

※「月刊化学」2012年5月号に掲載された記事です

※数値・図・表等は掲載当時のものになります

伝統技術と最新技術の融合

相反する課題をクリアした乳化技術

 マーガリンは液状油や固形脂などの食用油脂に水などを加えて乳化し,急冷練り合わせした油中水型(W/O型)乳化油脂食品です。W/O型乳化とは,微細な水滴が油中にコロイド状に分散し,均一な状態になっている現象をいいます。 一般に,マーガリンの低脂肪化には技術的に二つの大きな課題があります。一つは風味の問題です。油はカロリーが高く敬遠されがちですが,食品の風味・食感に与える影響は大きく,マーガリンにおいても油脂由来のコクは重要です。しかし,ヘルシー感を求めて脂肪分を低減すればするほど,コクが減り,おいしさが損なわれていきます。もう一つの課題は乳化安定性の維持です。低脂肪化に伴い,少量の油のなかに多量の水滴を分散させる必要があるため,W/O型乳化の維持が非常に困難になります。この問題をクリアするのに乳化剤の添加量を増やす方法がありますが,逆に乳化剤由来の不快な味がでてきます。

 そこで着目したのが,砂糖から調製した水溶性食物繊維イヌリンです。イヌリンは砂糖のフラクトース側にD-フラクトフラノースがβ(2→1)結合で直鎖状に脱水重合したフラクタンの一種で(図2),天然ではチコリ,キクイモ,ゴボウなどに含まれることが知られています。イヌリンは低カロリーで最終製品の風味への影響も小さいことから,脂肪代替剤として低脂肪スプレッドへの利用が可能とされていますが,さらなる低脂肪化の実現には,イヌリンの配合量を増やさねばなりません。しかし,天然のイヌリンは鎖長分布が幅広く,重合度30以上の不溶性成分を含むため,ザラついた食感になるという課題がありました。一方,筆者らが着眼した砂糖由来のイヌリンは,比較的重合度がそろっており(平均重合度16),長鎖長のものを含まないため,多量に配合しても食感は滑らかで,脂肪に似たコクもあります。また,W/O型乳化の安定化にも寄与することがわかりました。