おいしいチョコレートには、カカオ豆生産者との「いいものを作る」協力体制が欠かせない

写真:渡辺 悟史研究員

明治には、カカオ豆産地と共同でカカオ豆開発を行ってきた歴史があります。現在も、多くのカカオ豆産地と連携し、研究員自身が現地へ渡って開発や研究を続けています。主にメキシコ合衆国とエクアドル共和国のカカオ豆を研究している研究本部 渡辺 悟史主任研究員に話を聞きました。

「カカオ豆に生産から関わってきた」ことは明治の大きな資産

写真:インタビュー風景 渡辺 悟史研究員

私は2008年に明治に入社し、国内外の菓子工場でチョコレート・ビスケット関連製品の生産性向上に携わってきました。2018年に明治イノベーションセンターに配属され、カカオ豆関連の研究に携わって7年目になります。

所属先のグループ内では、担当するカカオ豆の生産国ごとに担当者を割り振っています。

私はメキシコ合衆国やエクアドル共和国を担当していますので、年2回程度現地へ行き、1~2週間かけて、産地から送られてきた豆の品質フィードバックと発酵試験を行っています。

現場の方々には現地語で挨拶をして、日々生産に携わっていただいている事への感謝の気持ちは必ず伝えますね。カカオ豆の発酵工程では、温度管理やさまざまな手順を細かく協議しているので、スタッフも私を見かけると「決めた通りにやってるよ!」と見せに来てくれたりして(笑)。

研究員がここまでカカオ豆生産に関われる環境は珍しいと思います。カカオ豆は、「発酵」「ロースト」「磨砕」等の加工を経て「カカオマス」というチョコレートの原料になります。カカオ豆やカカオマスは「既存品を購入する」こともできますが、それだけでは自分たちが表現したい風味や機能性を安定的に実現する事が難しい側面があります。そこで私たちの先輩が何十年も前に「カカオ豆の生産からこだわること」でこれらの課題を解決出来ると判断し、カカオ産地を直接訪問し意見を出し合うことで、差別性のあるカカオ豆を共に創りあげていける関係性を作ってきました。これは明治の大きな資産だと感じています。

それぞれの個性も豊かな一方で、“お国柄”も確かにあるカカオ豆の不思議

カカオ豆の風味や機能性は、産地によって全然違います。国が違えばもちろんのことですが、例えば同じ国の同じ品種でも、違う農園のカカオ豆だと全然違う味になったりします。それも「この農園は雨が多い」とか、「発酵する方法が違う」といった、個別の事象で味や品質が変わってしまう。カカオ豆にこんな繊細な一面があるのはとても面白いと感じています。

写真:カカオ豆

例えば、有名な産地であるガーナ共和国のカカオ豆は、カカオの特徴的なロースト感が豊かで、独特の苦味や酸味があって、少し味が長続きする。おそらくこれが日本人になじみの深いチョコレートですね。一方で中南米のカカオ豆たちは、マンゴーのようにフルーティーな風味や、花のような香り、ナッツのような力強い風味……といった特徴が地域ごとにあって、農園ごとにもそれなりに違いがある。品種や生育環境、気候、環境温度といった要素が近いから同じ系統の風味になっていくのではないかとは思うのですが、それでも隣同士の国ではそれぞれ違ったりするんですよ。

違いを味わうには、チョコレートを食べるときに「まずちょっと舐めてみる」「少し噛んでから舐めてみる」「お湯を一口飲んで口内を温めてから食べてみる」というように、いろいろな食べ方を試してみるといいかもしれません。私もこの仕事に就いて意識するようになったことですが、鼻で吸い込んでかぐ香りと、口で咀嚼した後に鼻の方へ抜ける香りの違いを感じる余裕があると、そのぶんおいしさが深まりますよ。

実はチョコレートを食べないカカオ豆生産地に“地産地消”の可能性を見つけたい

写真:研究風景渡辺 悟史研究員

カカオ豆はほとんどがヨーロッパをはじめとする消費量の多い遠方の地域に輸出されていて、冷蔵設備なども限られている地元ではチョコレートを食べる文化自体があまりありません。カカオ豆生産者でさえも、味を見るために試作したザラザラしたカカオマスを食べるだけということが多く、店頭に並ぶような商品を口にする機会はほとんどありません。そのため、現地へ赴くときにはいつも試作品を持っていって、みなさんに食べてもらいます。「食べてみたい」と後から後からスタッフが集まってきて、口々に「おいしい、こんなに滑らかになるのか」と言って感激している様子は印象的ですね。

カカオ豆の研究は、今後、地産地消の方向へ動くかどうか注目しています。

現在はカカオ豆を発酵・ローストしてチョコレートやココアを作っているわけですが、例えば発酵させないままで食べられる、新しい加工法や食べ方が登場したら、そしてそれが画期的においしく、新たな機能を持つとしたら。生産地でもカカオ豆を食べる文化が広がって地産地消へ向かっていくはずですし、カカオ豆生産者が、チョコレートやココア+αのポテンシャルを持った、新たな投資対象になるかもしれない。そういう動きに注目しています。