ここにしかない乳酸菌のライブラリで、ワクワクしながら菌の世界を探検していく

写真:土橋 英恵研究員、山本 恵理主任研究員

十勝産生乳から見出した明治独自の「TM96乳酸菌」は、乳由来のミルクの味わいとすっきりとした後味が特徴です。このTM96乳酸菌の研究を手がける研究本部 土橋 英恵課長(写真 右)、山本 恵理主任研究員(写真 左)に話を聞きました。

店頭に並んでいる商品の乳酸菌は超エリート!

土橋:私は大学・大学院在籍時から乳酸菌研究に携わり、2003年に明治に入社した後も一貫して乳酸菌に関わる研究へ従事してきました。

山本:私は2012年に明治に入社し、工場実習を経た2013年以降はやはり一貫して乳酸菌に関わる研究へ従事してきました。

写真:インタビュー風景 土橋 英恵研究員

土橋:私たちは15年ほど前から、自社製品に活用するためさまざまなサンプルから乳酸菌を収集してきました。特に発酵乳製品の製造に利用適性の高い乳酸菌に注目して、生乳から乳酸菌を収集するようになり、その中でも北海道・十勝産の生乳から見出した「TM96乳酸菌」は、すべて十勝産の原料(乳、砂糖、乳酸菌)で作られた「明治北海道十勝ミルクきわだつヨーグルト」として商品化されています。

「TM96乳酸菌」は2種の乳酸菌を指しますが、私はLactobacillus delbrueckii subsp. lactis OLL204989(ラクティス菌)を、山本はStreptococcus thermophilus OLS4496(サーモフィラス菌)の研究を担当しました。

写真:インタビュー風景 山本 恵理主任研究員

山本:「TM96乳酸菌」はおいしいヨーグルトを作る乳酸菌として選抜されましたが、この乳酸菌が選ばれるまでには、生乳からの乳酸菌の収集、遺伝子の解析や発酵特性の評価、ヨーグルトを作った際の風味の評価、製造適性の評価、といったさまざまな観点でのスクリーニングを経ています。私たちは基礎研究部門に属しているので、乳酸菌の収集から遺伝子の解析、発酵特性の評価までを担当しました。

乳酸菌は同じ種でも株によって個性があり、実際に発酵させてみて初めてわかることばかりです。大きく分けて、発酵性・物性・風味を評価することが多いですが、すべての性質が良い乳酸菌にはなかなか出会えません。風味の良い乳酸菌であっても、発酵時間が長く工場での製造適性がないために、商品化を断念したりすることもあります。商品化されて店頭に並ぶのは、集められた乳酸菌の中でもごくわずか。いわば超エリートなんです。

乳酸菌たちをさまざまな角度で調べ、それぞれの個性を深掘りしていく

土橋:ヨーグルトの発祥と考えられているブルガリアには、ある特定の植物の枝や根をすりつぶした汁や、葉にたまった朝露を乳にいれてヨーグルトを作ったとする言い伝えがあります。実際にブルガリアの植物からブルガリア菌が見つかっていることから、ブルガリアヨーグルトは、ブルガリアの風土によって育まれた伝統的な発酵食品といえます。

私たちは十勝産生乳から見出した「TM96乳酸菌」を使って「日本オリジナルのヨーグルト」を開発しましたが、実は「TM96乳酸菌」の発見に至る前は、「日本オリジナルのヨーグルト」を実現させるため「日本由来のブルガリア菌」を探していたんです。生乳からブルガリア菌と同種の乳酸菌がたくさん採集され、その中にブルガリア菌がいるかどうか確認するため遺伝子を調べました。結局ブルガリア菌は見つからなかったのですが、生乳中にはブルガリア菌の仲間であるラクティス菌が非常に多いこと、ラクティス菌でも特に生乳に多く生息しているグループが存在していることがわかり、「日本のヨーグルトは、ブルガリア菌である必要はないかもしれない。実はラクティス菌が日本の風土に根ざした菌なのではないか」と考えるようになりました。その菌の1つがTM96乳酸菌ですから、ヨーグルトとして商品化されたときは、我が子が大出世したような気持ちでしたね(笑)。

私たちの部署は乳酸菌の管理に加え、乳酸菌たちの個性をさまざまな角度で調べ、深掘りして、「こんな面白い乳酸菌がいるから使ってみてね」と、いわゆる社内営業をする立場でもあります。乳酸菌もそれぞれ個性があって、菌種が変わればもちろん性質も大きく変わりますし、同じ菌種でも菌株ごとに性格が違うんです。収集していく中でもさまざまな物語があって「この乳酸菌はどこから来たのかな」「ブルガリア菌は本当に日本にはいないのかな」と、ミステリーハンターのように菌の世界を探検していくのはとてもワクワクします。

写真:TM96 研究風景

山本:乳酸菌の性質を調べるには、実際に乳酸菌を発酵させてみる必要がありますが、それには手間と時間がかかります。そこで私は、遺伝子を調べることで発酵性の良い乳酸菌を見出すことができないか検討しました。速い発酵性に寄与する遺伝子を持っている菌がいるか、自社で所有している日本由来の乳酸菌200株以上を網羅的に調べた結果、海外よりも日本由来の乳酸菌の方が遺伝子を持っている割合が高く、発酵性が良い乳酸菌が多いことがわかりました。乳酸菌をたくさん持っていても、性質を調べないと商品に応用することはできません。自社にしかない乳酸菌ですし、それを調べてユニークさを実感できるところはとても楽しいですね。

乳酸菌が“おいしさ”にも関わっていることをぜひ知ってほしい

土橋:乳酸菌といえば腸内環境改善などの機能性をイメージされる方も多いかもしれませんが、実は「乳酸菌は、ヨーグルトやチーズの風味形成に大きな役割を担っている」といった研究も古くから行われているんです。「TM96乳酸菌」は十勝産のおいしい生乳の風味を最大限に生かすことができる乳酸菌です。また初の国産パルメザンチーズである「明治北海道十勝パルメザンチーズ」にも十勝産生乳由来の乳酸菌が使われているのですが、パイナップル様のフルーティな香りの醸成に大きく貢献しています。乳酸菌がおいしさにも関わっていることをぜひ知っていただいて、明治のヨーグルトやチーズが「おいしいな」と感じたら、乳酸菌の違いにも目を向けていただけるとうれしいですね。

山本:乳酸菌を購入してヨーグルトを製造しているメーカーも多い中で、乳酸菌の収集、分離から商品化まですべて自社内でできるというのはなかなかない環境だと思います。店頭に並んでいるヨーグルトやチーズには、そうした何千株という中から選び出した、風味や発酵性に優れた乳酸菌が使われていることも、手に取る際にぜひ思い出してみてください。