5000年以上食べ続けられてきたカカオの“捨てる部位”から見出された「カカオセラミド」

植物の中では珍しく「ヒト型遊離セラミド」の含有量が非常に多いカカオ。この「カカオセラミド」は、カカオの今まで有効活用されてこなかった部位に多く含まれていて、サステナブルな原料としても注目されています。カカオの可能性を広げた「カカオセラミド」を素材化するための研究についてご紹介します。
チョコレートやココアにならない“カカオの種皮”から希少な美容成分を発見
カカオポッド(カカオの実)は、ラグビーボールに例えられるほど大きいものですが、そのうちチョコレートとなる「ニブ(胚乳)、ジャーム(胚芽)」は、カスカラ(殻)、ハスク(種皮)を取り除いた残りの部分で、全体の10~20%ほどしかありません。ほとんどの部分は、捨てられるか肥料や飼料として使われるくらい、という状況にありました。
この部分に収益化につながる新しい価値を見出せれば、カカオ農家にサステナブルな形で利益を還元でき、カカオの「チョコレート・ココアの原料だけにとどまらない可能性」を拓いていくことにもなる。これが、研究を始めるきっかけでした。
その後、帝京大学と共同でカカオの未活用部分の成分研究を行っていく中で、カカオの種皮であるカカオハスクに希少な「ヒト型遊離セラミド」が多く含まれていることを世界で初めて発見しました。これを独自手法で抽出し素材化したのが「カカオセラミド」です。
“肌の潤い成分”として知られる「セラミド」は、人間など動物だけでなく、植物のほとんどが持っています。そして植物セラミドの中でも「食品用途のもの」や「化粧品用途のもの」などがあります。
「ヒト型遊離セラミド」は、食品にも化粧品にも適性がある一方で、一般的に植物セラミドに含まれる量はわずかだとされています。ところが、カカオハスクにはこの「ヒト型遊離セラミド」がかなり多く含まれていることがわかり、チョコレート・ココア以外の食品への利用や、化粧品への活用といったこれまでにない可能性が見えてきたのです。

異分野のスペシャリスト同士が気軽に交流できる環境があったからこその発見
「カカオセラミド」素材化に携わったチームは、各々得意分野を有する個性豊かなメンバーで構成され、それらの知見や知識をパズルのように組み合わせることでここまでの成果を出してきました。
成果の背景には、明治ならではの環境があります。明治は「Farm to Bar」といって農園(Farm)でカカオを育てるところから、工場でチョコレート(Bar)になるまでのすべて工程に携わることができる数少ない企業です。そして、明治イノベーションセンターには基盤研究から加工技術、乳製品から菓子製品までさまざまなスペシャリストが集まっているため、「困ったときにはその分野のスペシャリストを探して相談に行く」というように、専門分野を超えて交流しています。
乳業分野と製菓分野の研究所を「明治イノベーションセンター」として1か所に集約する際には「各製品・ジャンルごとに研究が違うのでやりづらくなるのではないか」という懸念の声も聞かれました。実際に知見も、研究の進め方も全然違うものではありましたが、それは今「多様性に富み、さまざまな考え方に触れられる」という強みになっています。
自分たちの研究で世の中の仕組みを変え、文化を変えられるかもしれない
カカオセラミド素材化の研究を担当した松田 幸喜主任研究員は、この研究を通して「どんなものでも先入観を取り払うことが重要」という気づきがあったと振り返ります。

「カカオは、5000年以上も前から長きに渡り食べられてきました。もちろんその間に、さまざまな研究が行われましたが、それにも関わらず、カカオセラミドのような新しい発見があったのです。
思えば『神々の食べ物』といわれるカカオですから、カカオセラミドのような価値ある成分を多く含むのも納得です。もっといえば、まだ我々が見つけられていない貴重な成分があったとしても、決して不思議ではないと思っています」。
これまで捨てられていた部分が重宝され、カカオの「価値ある部分」が増えることで、カカオ農家の生活を豊かにできるかもしれない。これまで「カカオといえばチョコレート」といわれてきたのが、将来は「カカオといえば○○」と違うワードになるかもしれない。こうして自分たちの発見で世の中の仕組みを変え、文化を変えられるかもしれないことに面白さや、意義を感じているといいます。
「今は、カカオポッドの未活用部位の中でもカスカラ(殻)にどう価値を見出すかに取り組んでいます。正直なところハードルの高い課題ですが、新しいアイデアも出てきているので、形にしたいですね」。