特集

INTERVIEW
栄養課題とMeiji NPS


夫馬賢治氏の写真です。

夫馬 賢治
株式会社ニューラル 代表取締役CEO /
信州大学グリーン社会協創機構特任教授

サステナビリティ経営の専門家であり、NPSについても造形の深い夫馬賢治氏に、「栄養課題とMeiji NPS」をテーマにさまざまな切り口でお話をうかがいました。

夫馬賢治氏の写真です。

[前編]
いま、食品企業に寄せられる
期待とは?

Q. まず、いま世界で注目されている栄養に関する社会課題と、
食品企業との関わりについて教えてください。

いま世界では、栄養に関する社会課題が大きく分けて二つあります。
一つは、社会保障にかかるコストの問題です。特に日本において顕著ですが、さまざまな社会努力もあって人々の寿命はどんどん延びています。その一方で、高齢者の方々が必ずしも健康なまま長生きしているとは限らず、医療費は増加し、政府の財政負担、ひいては現役世代の納税負担が大きくなっている状況です。この社会コストを抑えるために、栄養という観点から多くの方に健康で長生きしてもらえるようにする。まずこれが一つ目の課題。
もう一つは、気候変動の問題です。気候変動の影響により食料の安定供給が困難になり、場合によっては食料価格の高騰化を招き、満足に食事ができない人が増えていくかもしれない。それが社会不安となります。食料の供給が容易ではない社会になれば、人は毎日の食事を無駄にはできません。限られた食事の機会でいかにきちんと栄養を摂り、健康につなげていくか、それが二つ目の課題です。
これらの社会課題の解決に向けて、近年、食品企業への期待が高まっています。社会課題に良くも悪くも多くの影響を与えているのは企業であり、企業自身がどう変わるかに大きな注目が集まっているというわけです。この点に関しては投資家も強い関心を寄せていますが、それは食品企業が問われる社会的責任が大きくなっているからです。食品の栄養価値を評価する手法である栄養プロファイリングシステム(NPS)の活用が注目を集めているのは、栄養課題解決に資する取り組みとしての期待の表れだと思います。

Q. 社会課題の解決に向けて、食品企業にはどのような姿勢が求められているのでしょうか。
NPSの活用という切り口で、お考えをお聞かせください。

これも大きく二点あります。一つは、NPSを活用して商品開発・改良を進め、栄養価値の高い商品を人々に届けることです。日本を含めた諸外国の食生活の実態としては、消費者は必ずしも理想の食べ方をしているわけではありません。推奨する栄養素や食事のガイダンスを示しただけでは、実際の食習慣を変えるまでには至らないのが現実です。そこで、食習慣の実態に即しながら、商品の栄養面を改善することに期待が寄せられはじめています。そのため、食品企業においてNPSを活用して商品の栄養価値を向上させる取り組みは、今後ますます注目されていくでしょう。
もう一つは、NPSを活用して栄養価値を評価することで、提供する食品の適切な食べ方や組み合わせ方に関する情報を消費者に提供することです。食品企業に人々が期待しているのは、ただ画一的に栄養食品を作って提供してほしいということではありません。食品というのは、選ぶ楽しさもあれば、さまざまな組み合わせによって得られる健康もあり、商品と食べ方を必ずセットにして伝えていくべきだと考えます。NPSの評価結果に応じて単純に「この食品は良い」「この食品は悪い」と仕分けるのではなく、いま提供している食品をより健康的なものに変えていくこと、そして提供している食品について、どのような食べ方が適切なのか、どのような組み合わせであれば望ましいのかを伝えていくことが大切です。

夫馬賢治氏の写真です。

Q. 食品企業がそれぞれNPSを設けることに対して、
気を付けるべきことはありますか。

いま我々が直面している大きな栄養課題は、世の中に提供されている商品が必ずしも健康的な状態ではないということです。その状況を作り出してきたのは企業であり、企業自身の手に完全に委ねる形でNPSが作られることに対して懐疑的な声もあります。企業の都合ではない客観的な評価方法が採られているかどうかが、社会に受けられるかどうかの尺度になる。したがって、企業がNPSを作る上では、アカデミアであったり、あるいは公的な専門機関であったり、企業の外側にいる方々の知見や意見をいかに取り入れていけるかどうかが鍵になると思います。

夫馬 賢治
株式会社ニューラル 代表取締役CEO /
信州大学グリーン社会協創機構特任教授

サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社である(株)ニューラルを2013年に創業。コンサルタントとして東証プライム上場企業や大手金融機関をクライアントに持ち、スタートアップ企業やベンチャーキャピタルの顧問も多数務める。世界銀行や国連大学等でESG投資、サステナビリティ経営、気候変動金融リスクに関する講演や、CNN、フィナンシャル・タイムズ、エコノミスト、ワシントン・ポスト、NHK、日本テレビ、テレビ東京、TBS、日本経済新聞、毎日新聞、NewsPicks等メディアからの取材も多数。ニュースサイト「Sustainable Japan」編集長。ハーバード大学大学院リベラルアーツ(サステナビリティ専攻)修士。サンダーバードグローバル経営大学院MBA。東京大学教養学部(国際関係論専攻)卒。