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世界初の発見!カカオに含まれる保湿成分「カカオセラミド」について古賀教授にインタビュー

2024/04/22

世界初の発見!カカオに含まれる保湿成分「カカオセラミド」について古賀教授にインタビュー

株式会社 明治(以下、明治)は、カカオすべての可能性を追求する「ひらけ、カカオ。」をスローガンとした取り組みを推進する中で、カカオから抽出した保湿成分「カカオセラミド」の素材化に世界で初めて成功しました。 今回、明治と共同研究を行った帝京大学理工学部バイオサイエンス学科 古賀仁一郎教授にインタビューをすることができました。まず、「セラミド」や「カカオセラミド」についてご紹介した後に、古賀教授から伺った様々な可能性を秘めた「カカオセラミド」の分析結果や特徴、未来へ期待することなどをお伝えしていきます。

カカオ"美容"新素材発表会で展示されたカカオセラミド

セラミドについて

「セラミド」という成分名を聞いたことがある、という方もいるかもしれません。セラミドは、肌の表皮の角質層に含まれる保湿因子の一つで、コラーゲンやヒアルロン酸などと同様に保湿成分として注目されている素材です。その原料や化学構造により分類され、肌に塗る用途で主に使用されているのは「ヒト型遊離セラミド」、主に健康食品素材として食されているのは「グルコシルセラミド」とされています。

出典:「カカオ“美容”新素材発表会」より

天然由来の「ヒト型遊離セラミド」は希少で、現在、化粧品に使用されているセラミドの多くが合成セラミドです。中でも植物由来のセラミドは「グルコシルセラミド」が多く、健康食品ではすでに使用されるなど研究が進んでいます。

カカオセラミドとは?

次に、今回発見された「カカオセラミド」について解説します。「カカオセラミド」とは、チョコレートの原料であるカカオの様々な部位から抽出されたセラミドのことを指します。先ほどの表で見ると、カカオセラミドは植物セラミドに分類されます。食品として食べるほか、将来的には化粧品への使用や商品化も期待される、保湿成分です。
この世界初の素材「カカオセラミド」を発見された古賀教授に、様々なお話を伺いました。

カカオ”美容”新素材発表会に登壇された古賀教授

古賀教授にインタビュー

帝京大学と明治の共同研究にある背景とは

帝京大学でイネ由来のセラミドの研究をしていた古賀教授。そこへ、カカオに含まれているセラミドについて研究をしたいと考えていた明治からお声がけをし、共同研究がスタートしました。
植物から抽出されるセラミドにはいろいろな構造のものがあります。これまで、グルコースが付いている「グルコシルセラミド」という成分の定量分析は可能でしたが、グルコースが付いていない「遊離型セラミド」という成分については、分析に必要な標準品がないことにより、定量分析が難しいとされていました。しかし、古賀教授の研究室ではその分析技術を確立し、遊離型セラミドを定量分析することができるようになっていました。実は、この技術とカカオセラミドの研究をしたいという明治の想いが偶然の大発見に繋がったのです。

古賀教授が驚いたカカオセラミドに関する分析結果

共同研究では、明治が持っている様々なカカオ素材を帝京大学で分析することから始まりました。そして、このカカオセラミドを分析した時の古賀教授の驚きは、そのセラミドの量。
「通常、植物に含まれるセラミドは0.02%くらいですが、カカオハスクには0.2%のセラミドが含まれていたのです。10倍くらいの量ですよね。これにはとても驚きました。さらにもうひとつ、植物セラミドは一般的にグルコースが付いたグルコシルセラミドが多いのですが、カカオセラミドはグルコースが付いていない遊離型セラミドが圧倒的に多く、他の植物とは違う結果であったのです。」と、古賀教授は当時を振り返りました。
グルコシルセラミドと遊離型セラミド量の構成比について他の植物と比較すると、カカオの未活用部位に遊離型セラミドが多いことが一目瞭然です。(下図参照)

カカオセラミドの特徴や今後の活用について

古賀教授がその量や組成に驚いたという、未活用部位であるカカオ豆の薄皮”カカオハスク”から抽出したカカオセラミド。その特徴や今後の活用についても伺ってみました。
「化粧品用途に使われているセラミドのうち、天然由来のヒト型遊離セラミドは量が少ないため、合成されたセラミドが使われています。セラミドは保湿効果がありその効果も認められているため、市場が大きくなってきていますが、天然由来のセラミドは量が少ないのが難点。つまり価格が高いのです。しかし他の植物に比べて、カカオハスクは多量のセラミドを抽出できるという特徴があります。そうすると価格が下がり、より多くの商品に活用できるようになるという利点があります。天然由来のセラミドは価格が高いため、これまでは機能性食品やサプリメントなど比較的単価が高いものに使われることがメインでしたが、コストが安くなれば、例えばチョコレートやお菓子、一般的な食品などにも入れられるようになり、より広く活用されるようになります。」とのことです。
今後もカカオセラミドの優位性について研究を進めて行きます。


ヒト型遊離セラミドを多く含んでいることが発見されたカカオハスク

カカオハスクは、世界では約50万トン、日本では約4,900トンもの量が発生していると推計され、一部は飼料や肥料に使用されているものの、その大半が有効活用されていない現状があります。もし、このハスクからたくさんのセラミドが抽出されれば、消費者にとっても、カカオを栽培する産地にとってもメリットがありそうです。産地へのプラス面、消費者との良い循環など、カカオセラミドがもたらす未来についても古賀教授に伺いました。

カカオセラミドがもたらす未来

古賀教授が話された中で印象的だったのは、これまで有効活用されてこなかったカカオハスクの付加価値が上がる、という点です。
「これまではチョコレート作りにカカオニブが使われてきました。セラミドという成分は単価が高いため、それを抽出できるカカオハスクの付加価値が今後は高くなる可能性があります。つまり、カカオ産地の生産者は、カカオ豆(主にニブ)を売るだけではなく、ハスクという価値が高いものも一緒に売っているということになります。豆とカカオハスクを合わせて高く売れるようになると、カカオ生産地の農家の方々の生活を守ることができるようになるのではないでしょうか?」
また、「大学での研究は、ほとんどの場合、消費者への価値となって届くことがないのです。今回のカカオセラミドの発見が、明治さんのような企業を通して、食品や化粧品として多くの消費者への価値として届くことができれば、これ程嬉しいことはありません。」と古賀教授は話されました。

まとめ

おいしいチョコレートの原料、カカオ豆。これまで積極的に活用されてこなかったカカオハスクなどから、保湿成分「カカオセラミド」が抽出・素材化されたことで、カカオのさらなる可能性がひらき始めています。その保湿効果を生かして、食べたり肌に塗ったりと様々な用途が広がり価値が高まることは、未活用部位のアップサイクルであり、カカオの経済価値が向上することに繋がると考えられます。食品の用途としてはすでに2024年1月、サロン・デュ・ショコラでアルビオンとコラボレーションし、カカオセラミドを配合したチョコレートを発売しました。将来的には化粧品分野についても協業パートナー様と開発を進めていきます。
カカオから抽出する新素材・カカオセラミドを活用し、消費者も、カカオ産地の方々も、結果的に皆さんが笑顔になるようなサステナブルな取り組みを続けてまいります。ぜひご期待ください。


古賀仁一郎

帝京大学 理工学部バイオサイエンス学科 教授

2012年 帝京大学理工学部 バイオサイエンス学科准教授
2017年 同大学教授

【研究内容】
イネやカカオにおけるスフィンゴ脂質やカカオタンパク質の機能に関する研究

【論文】
Koga, J. et al. (2021) J. Biol. Chem. 297, 101236
Yumoto, E. et al. (2021) Biosci. Biotech. Biochem. 85, 205
Koga, J. et al. (2022) Curr. Dev. Nutr. 6, nzac129