高カカオチョコレートの摂取が便秘傾向の女性の便通を改善し、腸内フローラにおいて酪酸産生菌を増加させる~ 1日25gのカカオ分72%チョコレートで効果を確認 ~

株式会社 明治(代表取締役社長:八尾 文二郎)と帝京大学 理工学部 総合理工学科 環境バイオテクノロジーコース 古賀 仁一郎教授の共同研究グループは、高カカオチョコレート※1の継続摂取が、便秘傾向の女性の便通を改善し、腸内フローラ(腸内細菌叢)において酪酸産生菌※2を増加させることをヒト対象研究にて明らかにしました。

本研究成果は2025年3月5日に、国際学術誌Bioscience of Microbiota, Food and Healthに掲載されました。(Bioscience of Microbiota, Food and Health, 44, 196-204, 2025; https://doi.org/10.12938/bmfh.2024-049(新しいウィンドウ)

研究成果の概要

20歳以上50歳未満の便秘傾向の女性を対象に、高カカオチョコレートを1日25g、2週間摂取していただいた結果、便秘傾向の女性の「排便回数」を増加させ、腸内フローラ(腸内細菌叢)において、酪酸産生菌を増加させていることを明らかにしました。

また、この便通の改善はチョコレートに含まれるカカオプロテイン※3の働きによる可能性が示唆されました。

研究成果の活用

便秘は、QOL(生活の質)を下げてしまう深刻な問題であるばかりでなく、さまざまな疾病に関与していることが知られています。今後、高カカオチョコレート摂取による便秘改善に関する研究を進め、疾病予防の可能性を追求していきます。さらに、カカオプロテインにとどまらず、多様なカカオ由来成分の可能性を探求し、チョコレートを通じて、お客さまのこころとからだの健やかさに貢献してまいります。

研究の目的

高カカオチョコレートにはカカオポリフェノールが多く含まれており、カカオポリフェノールの健康効果については国内外で数多く報告されています。一方で、高カカオチョコレートには、難消化性のカカオプロテインも含まれており、このカカオプロテインの摂取が便量を増加させる報告があります※4。そこで、カカオプロテインを多く含んでいる高カカオチョコレート摂取のヒトへの効果を確認するため、便秘傾向者(女性)の便通改善の評価試験を実施しました。

論文内容

タイトル
ダークチョコレートの摂取は日本人女性の便秘を改善し、腸内細菌叢を変化させる。
Ingestion of dark chocolate improves constipation and alters the intestinal microbiota in Japanese women.

掲載誌
Bioscience of Microbiota, Food and Health, 44, 196-204, 2025

著者※5
伊藤裕之1, 下仲敦1,夏目みどり1, 米倉久美子1, 深澤朝幸1, 伊藤聡美1, 澤﨑理子1, 田村一二1, 木村育子2, 古賀仁一郎3(責任著者)
1.(株)明治 研究本部、2.(株)ビューティアンドヘルスリサーチ 臨床研究部 、3.帝京大学 理工学部 総合理工学科 環境バイオテクノロジーコース

方法
20歳以上50歳未満の排便回数が週平均4回以下の女性40名(最終的な有効性解析対象者は31名)を対象に、高カカオチョコレート(カカオ分72%のダークチョコレート)25g、またはホワイトチョコレート(対照食品、カカオ分21%)、25gのいずれかを2週間継続的に摂取していただきました。
摂取前後における排便回数を評価し、腸内細菌叢の変動を解析しました。なお、本研究は単盲検並行群間比較試験で実施しました。

結果

  1. 高カカオチョコレート摂取群での排便回数は、摂取前の週平均2.8回から摂取後には4.9回に有意に増加しました。また、対照であるホワイトチョコレート摂取群に比べても、摂取後の排便回数は有意に高いことが確認されました(図1参照)。さらに、排便回数だけでなく、排便量においても、同様の結果が得られました。なお、両群ともに試験期間中の体重に有意な変動はありませんでした。
  2. 腸内細菌叢の変化を調べたところ、高カカオチョコレート摂取によって FaecalibacteriumMegamonasAnaerostipesButyricicoccusRoseburiaなどの酪酸産生菌の占有率が有意に上がりました。そのうち、摂取後の FaecalibacteriumMegamonasの占有率については、高カカオチョコレート摂取群が、対照であるホワイトチョコレート摂取群よりも有意に高いことが確認されました(図2参照)。
  3. 高カカオチョコレート摂取群では、摂取前後にて腸内細菌叢のα多様性※6が有意に上がることが確認されましたが、ホワイトチョコレート摂取群のα多様性に変化は見られませんでした。
グラフ:接種前・接種後の排便回数(回/週)、接種後の回数が多いことが示されている
図1 排便回数
グラフ:Faecalibacterium 占有率(%)とMegamonas 占有率(%),高カカオチョコレート摂取群が高いことが示されている
図2 腸内細菌の占有率

考察

  1. 1日摂取分の高カカオチョコレート25g中には、2.7gのカカオプロテインと3gの食物繊維が含まれています。これまで行われた他の研究にて、1日分の食物繊維の摂取量を6~7g程度増やすことで便通が改善することが報告されています(「日本人の食事摂取基準(2025年度版)」)。しかし、高カカオチョコレート25g中には3gの食物繊維しか含まれていないため、カカオプロテインの働きによって便通が改善している可能性が示唆されました。
  2. 高カカオチョコレートの摂取により、腸内細菌叢が多様化し、酪酸産生菌である FaecalibacteriumMegamonasが有意に増加しました。酪酸は、腸のぜん動運動の促進など腸の健康に関わることが知られており、酪酸産生菌が増えたことで便通が改善された可能性があります。
  3. 酪酸の増加は、便通の改善ばかりでなく、炎症性腸疾患(IBD)、大腸がん、生活習慣病などの疾病の予防に関与している可能性が示唆されています。今後は、高カカオチョコレートの摂取がこれら疾病を予防するかについての研究が求められます。

用語解説

  • ※1一般的にカカオ由来の原料を70%以上含むものが高カカオチョコレートと呼ばれています。本研究ではカカオ由来の原料を72%含むチョコレートを使用しました。25gは個包装で5枚程度に相当します。

  • ※2酪酸を産生する腸内細菌のことです。酪酸は腸内において重要な働きを持つ短鎖脂肪酸の一種です。酪酸は大腸粘膜細胞の必須栄養素であり、酪酸の増加は便通の改善ばかりでなく、炎症性腸疾患(IBD)、大腸がん、生活習慣病などの疾病の予防に関与している可能性が示唆されています。最近の研究では、100歳以上の長寿の方に酪酸産生菌が多いという報告があります。

  • ※3カカオ由来のたんぱく質で、消化吸収されにくい性質を示します。

  • ※4Koga J. et al. (2022) Curr. Dev. Nutr. 6, nzac129

  • ※5所属は研究当時

    ※6細菌叢を構成する菌の種類の多様さを表す数値です。この数値が高いと、より健全な腸内細菌叢であるとされます。