明治保有の乳酸菌「Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 2038株、Streptococcus thermophilus 1131株」が小腸上皮様細胞を用いたモデル系で腸管バリア機能を強めることを確認~有害微生物や有害物質の腸管への侵入を防御する可能性~

株式会社 明治(代表取締役社長:松田 克也)は、明治保有の乳酸菌「Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 2038株、Streptococcus thermophilus 1131株」が、小腸上皮様細胞であるCaco-2細胞※1を用いたモデル系において重要な腸管バリア機能の一つである物理的バリア※2機能を強化することを確認しました。なお、当研究成果は2022年11月8日~9日に開催された第18回日本食品免疫学会学術大会にて発表しました。

腸管は、水分や栄養成分といった生命活動の維持に必要な物質を吸収する重要な臓器ですが、常に外来の病原細菌や有害物質にさらされています。それらの異物から腸管組織を保護するのが腸管バリア機能です。腸管バリア機能が正常な場合は、異物が排除されて健康な状態が維持される一方、腸内菌叢の乱れ、ストレス、暴飲暴食、加齢などにより腸管バリア機能が弱まると、細菌をはじめとする異物が体内に流入してしまいます(模式図参照)。この状態をリーキーガットと呼びます。リーキーガットになると、異物が血流に乗って循環し、諸臓器で慢性炎症を引き起こし、全身のさまざまな疾患(糖尿病、動脈硬化、認知症など)に繋がることが報告されています。従って、腸管バリア機能を強めることは心身の健康維持に非常に重要です。

高ストレス社会かつ、超高齢社会である日本では、リーキーガットを引き起こすさまざまな要因にさらされています。その中で、本研究により当該乳酸菌がリーキーガットを改善する可能性を見いだしました。当社は、今後もさまざまな健康課題と向き合い、人々が健やかな毎日を過ごせる未来の実現に貢献してまいります。

図:タイトジャンクション:上皮細胞同士を密着させてさまざまな分子の通過を制限する細胞間結合の一つ/抗菌ペプチド:小腸上皮細胞で多く産生され、管腔側の病原細菌を殺菌して感染を防ぐ働きがある
【小腸上皮細胞、リーキーガットの模式図】

研究概要

当社はこれまで、当該乳酸菌により発酵したヨーグルトには腸内ビフィズス菌の増加や便通改善といった整腸作用の他、小腸において化学的バリアである抗菌ペプチドの存在量を増加させる働きがあることを明らかにしてきました。しかし、重要な腸管バリア機能の一つである物理的バリアへの影響に関する知見は得られていませんでした。

今回、当該乳酸菌による物理的バリアへの影響を評価するため、小腸上皮様細胞であるCaco-2細胞を用いて、炎症性サイトカイン※3を使用しリーキーガット現象を再現した実験を行いました(図1)。

結果①:タイトジャンクションの構造破壊を抑制
小腸上皮様細胞同士を結合させるタイトジャンクション(TJ)に着目したところ、炎症性サイトカインの刺激によるTJ関連タンパク質の構造の破壊を、当該乳酸菌が抑制することを確認しました。

結果②:バリア機能破壊による腸管透過性を抑制
炎症性サイトカインの刺激により、物理的バリアが破壊されて異物のモデルである高分子物質の腸管透過※4が促進されましたが、当該乳酸菌の添加により、腸管透過が抑制されることを確認しました。この作用は生菌でも加熱処理菌体でも確認され、他の乳酸菌株と比較しても、当該乳酸菌では腸管透過性の亢進を強く抑制できることを確認しました。

これらの結果から、当該乳酸菌「Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 2038株、Streptococcus thermophilus 1131株」は優れた物理的バリアの強化作用を有することが明らかになりました。

※1ヒト結腸癌由来の細胞で、培養することで単層の小腸上皮様細胞となる※2タイトジャンクションや粘液など、物理的に異物を体内に侵入させない働きを持つものを総称して物理的バリアと呼ぶ※3炎症反応を促進する生理活性物質※4細菌由来の毒素などの異物がどの程度腸管上皮細胞を透過するかの指標

発表内容

タイトル

L. bulgaricus 2038およびS. thermophilus 1131によるAMPK活性化を介した腸管バリア機能の強化

方法ならびに結果

  1. (1)
    炎症性サイトカインによりCaco-2細胞のバリア破壊を誘導し、当該乳酸菌による抑制作用を評価しました(図1)。
  2. (2)
    TJ関連タンパク質の遺伝子発現の低下が当該乳酸菌で抑制されました。さらに、TJ関連タンパク質の構造破壊が当該乳酸菌で抑制されました(図2)。
  3. (3)
    高分子物質の透過促進が当該乳酸菌で抑制されました。高分子物質の透過抑制作用に関して他の乳酸菌株と比較したところ、当該乳酸菌で強い作用が確認されました(図3)。
  4. (4)
    AMP活性プロテインキナーゼ(AMPK)※5の機能を抑制すると、当該乳酸菌によるTJ関連タンパク質の機能改善作用が消失しました。このことから、当該乳酸菌の物理的バリア機能の強化は、AMPKの活性化を通して作用していることが確認されました。

※5代謝の調節に重要な役割を果たし、TJ関連タンパク質の機能制御も行う酵素

図:Caro-2細胞/炎症性サイトカイン/L. bulgaricus 2038、S. thermophilus 1131
図1.バリア破壊誘導実験方法の模式図
写真:左:正常な小腸上皮細胞(正常)、右:バリア破壊を誘導したモデル系(菌添加無し:バリア破壊、2038株:改善、1131株:改善)
図2.乳酸菌によるTJ関連タンパク質の構造破壊抑制
バリア破壊を誘導すると、TJ関連タンパク質(緑色の輪)が崩れた状態になった。
2038株、または1131株を添加した場合はTJ関連タンパク質が整った状態に改善された。
2038株: Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 2038
1131株: Streptococcus thermophilus 1131
図:グラフ
図3.他菌株とのバリア破壊抑制作用の比較
平均値+標準誤差で表記。n=3/群で実施。
腸管透過性が低いほど腸管バリア機能の破壊が抑制されている。