明治保有の乳酸菌「Lactobacillus gasseri OLL2716株」の摂取による自律神経バランスの改善効果を確認 胃と脳のネットワークを健全化する可能性を示唆~胃脳相関と乳酸菌の最新研究~

株式会社 明治(代表取締役社長:松田 克也)および川崎医科大学総合医療センターの春間賢特任教授らの研究グループは、明治が保有する独自素材の乳酸菌「Lactobacillus gasseri OLL2716株」の摂取による自律神経バランスの改善効果を確認しました。本研究により、当該乳酸菌の摂取は、胃の健康、そして心身の健康と密接な関係があることが注目されている胃と脳のネットワークである「胃脳相関」を健全化する可能性が示唆されました。

胃と脳は心身の健康に重要な役割を果たす自律神経により繋がっています。例えば食事の際には、食べ物の情報が脳に送られ、脳のシグナルが自律神経を介して胃に伝わり、胃の動きや胃酸分泌が調節されています。一方で、海外の最新研究により、胃から脳への逆方向の情報伝達もあり、胃の活動が感情や自律神経の働きといった脳の機能に影響を及ぼしていることが分かってきました。つまり、胃と脳が双方向に影響を及ぼす「胃脳相関」が存在し、胃の健康のみならず、心身の健康において重要であると考えられています。

Lactobacillus gasseri OLL2716株」は胃で働くために必要な特性を持っており、これまでに食後のもたれ感などの不快感が慢性的に続く胃の機能障害である機能性ディスペプシアに有効であることが、国内外の専門家の間で注目されています。本研究では胃と脳のネットワークに着目し、「Lactobacillus gasseri OLL2716株」の継続摂取による自律神経バランスの改善効果を検証しました。その結果、自律神経バランスの指標である唾液アミラーゼ濃度が当該乳酸菌の摂取により有意に改善することが確認されました。さらに、低下した胃の動きを改善する傾向が認められました。以上の結果から、「Lactobacillus gasseri OLL2716株」の継続摂取は、胃と脳のネットワークである「胃脳相関」の健全化を通じて胃の健康、そして心身の健康にも好ましい影響を与える可能性があることを見いだしました。

この研究成果を、2021年10月8日(金)に開催した当社主催のセミナー「胃と脳のネットワーク!胃脳相関の可能性とは」にて、川崎医科大学総合医療センターの春間賢特任教授より発表しました。また、当研究成果は、2021年5月28日に国際学術誌の「Nutrients」に掲載されています。

【Ohtsu, T., Haruma, K., Ide, Y., & Takagi, A. (2021). The Effect of Continuous Intake of Lactobacillus gasseri OLL2716 on Mild to Moderate Delayed Gastric Emptying: A Randomized Controlled Study. Nutrients, 13(6), 1852.】

発表内容

演題

胃脳相関の最新研究、そしてLactobacillus gasseri OLL2716株(乳酸菌OLL2716株)の研究成果から期待されること

試験概要

  • 被験者:
    日本人に一般的な軽度から中等度の胃排出遅延(胃の動きの低下により食べ物を消化して腸に送り出すまでに時間がかかる状態)※1が見られる20〜64歳の日本人28名(男性4名、女性24名)。
  • 試験のデザイン:
    二重盲検/並行群間/プラセボ対照無作為比較試験
  • 試験のプロセス:
    (i)被験者を乳酸菌OLL2716株群(14名、内1名脱落)とプラセボ群(14名)に無作為に割付け。
    (ii)乳酸菌OLL2716株群は当株を含むヨーグルト、プラセボ群は同株を含まないヨーグルトを1日1個(85g)、12週間摂取。
    (iii)試験食品摂取前(0週)、摂取開始から6週間後と12週間後の3回、次の2つの検査を実施。

    1. a.
      自律神経の働きを検査する「唾液アミラーゼ検査」
      ストレスを感じると自律神経のうちの交感神経が優位となり、唾液に含まれるアミラーゼの分泌を促し、その濃度が高くなります。一方、副交感神経が優位になると唾液水分量が増加し、唾液アミラーゼ濃度が低くなります。このことから、唾液アミラーゼ濃度はストレス下における自律神経の機能異常を表す指標となります。
    2. b.
      胃排出能を検査「13C呼気法胃排出能検査」
      被験者に13C-酢酸を含む液状食(200mL/200kcal)を摂取していただき、服用5分前から服用90分後まで、複数回にわたり呼気を採取しました。この液状食が胃から十二指腸に排出されると、呼気に13Cを含む二酸化炭素(13CO2)の存在比が高くなります。そこで、13CO2の存在比がピークに達するまでの時間(Tmax)を胃排出能の指標としました。Tmaxに達するまでに摂取物の約80%が胃から腸に排出されることが報告されています。

その結果、以下の変化が認められました。

  1. 試験食品摂取12週間後に、プラセボ群に比べて乳酸菌OLL2716株摂取群に自律神経バランスの指標である唾液アミラーゼ濃度の有意な低下が認められました(図1)。
  2. 胃排出能の指標であるTmaxは日本人平均値が45分であることが報告されており、日本人平均値45分との差を胃排出遅延の程度と見なすことができます。そこで、試験食品摂取12週間後に、胃排出遅延の程度が30%以上減少した(=日本人平均値に近づいた)人を「胃排出遅延の改善あり」とした場合、プラセボ群に対する乳酸菌OLL2716株群の「胃排出遅延の改善しやすさ」を示すオッズ比※2は4.1(95%信頼区間:0.8-20.2)であり、乳酸菌OLL2716株群の方が胃排出遅延が改善されやすい傾向がみられました(図2)。
図1:試験食品摂取12週後の唾液アミラーゼ濃度の変化量
図2:プラセボ群と比較した乳酸菌OLL2716株群の胃排出遅延改善オッズ比
(摂取12週後)

自律神経バランスを整えるメカニズムの考察:乳酸菌OLL2716株が胃・十二指腸を含めた細菌叢の異常を改善している可能性

近年、腸内だけではなく、胃・十二指腸のような上部消化管を含めた細菌叢の異常が、慢性的な胃の不調である機能性ディスペプシア(FD)に関連する可能性があると考えられています。上腹部における細菌叢の異常が、粘膜透過性を亢進させて炎症の原因になり、迷走神経求心路を介して中枢神経系を刺激し、自律神経機能や運動機能に影響する可能性があります。

これに対して、これまでに、東海大学医学部のNakaeらにより機能性ディスぺプシア患者の胃内細菌の異常に対するLactobacillus gasseri OLL2716株の効果が報告されています。この研究成果は、「機能性消化管疾患診療ガイドライン2021―機能性ディスぺプシア(FD)」に引用されており、「FD患者群では胃内細菌叢においてPrevotellaの相対量が健常者と比較して少ないが、Lactobacillus gasseri OLL2716株を含むヨーグルトの摂取により回復し、その相対量とPDS様症状とが逆相関していたとの報告がある」として記載されています(PDSとは食後もたれ感などの食後愁訴のこと)。Lactobacillus gasseri OLL2716株の継続摂取は、直接的もしくは粘膜上皮の細菌叢を介して胃や十二指腸の炎症軽減に作用することで、迷走神経求心路を介して自律神経機能ならびに胃排出遅延の改善に作用する可能性が考えられ、さらなる研究が必要です。

  • ※1胃排出遅延「胃排出」とは、胃の中にある食べ物を十二指腸へと送り出すこと。胃排出が遅延すると食べ物が胃に長く停滞し、胃もたれや食後の早期膨満感、吐き気、げっぷ、腹部膨満感などの不快な症状を引き起こす。

  • ※2オッズ比統計学では、ある事象が起こる確率をオッズと呼ぶ。オッズ比は、ある事象の起こりやすさを比較して示す際に用いられる。オッズ比が1より大きい場合は、その事象が起こりやすいことを示す。