
高田由基(たかだ・よしき)
愛知県名古屋市在住。小・中学校の頃から個人的に陸上の競技会に参加し、高校・大学では陸上部に所属。トラックでは平凡な記録だったものの、大学4年生の頃にウルトラマラソンと出会い、日本トップクラスのウルトラランナーに成長。現在は小学校教員として働きながら、競技を続けている。
100kmマラソンベストは6時間42分4秒、フルマラソンベストは2時間26分32秒

100kmという距離を走るウルトラマラソン——。
はるか先のゴール地点に辿り着くには、フルマラソンとはまた違うエネルギー戦略が必要になる。
学生時代は特に目立った成績をおさめたことのない1ランナーだった高田由基さんが、日本代表まで昇りつめる武器となったのが、誰もがカラダに備えるもの「体脂肪」への着目だった。
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「100kmマラソンで消費するエネルギーは、体重60kgの男性で約6000kcalと言われています。一方でカラダに蓄えられる糖質の量は約2000kcal、その差4000kcalをどうカバーするかが、ウルトラマラソンでは重要になってきます」
と話してくれたのは、100kmマラソン日本代表の高田由基さん(32歳)。100kmの自己記録は6時間42分4秒——。1kmあたり平均4分1秒ペース、フルマラソンに換算すると、2時間49分39秒のペースで、2倍以上の距離を走破する計算になる。
その高田さんが100km完走のポイントに挙げてくれたのが、前述のエネルギー対策だ。主に肝臓や筋肉に貯えられている糖質の約2000kcalものエネルギー量は、個人差もあるが、体重60kgの男性なら大体30km前後を走る分のエネルギー。フルマラソンの「30kmの壁」も、これが大きく関係している。しかし裏を返せば、あと10km少々頑張ればいいのだ。スタート前のエネルギー補給や途中のエイドで補給しておけば、ふらふらになってもゴールまでは辿りつける。
一方、ウルトラでは残り70km、約4000kcalのエネルギーが必要な計算になる。おにぎりだと約24個分(1個を100gと想定)。これを補う明確な対策がないまま、フルマラソンと同じ感覚でスタートラインに立ってしまっては、完走は難しい。


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「ポイントは2つ。レース前・中のエネルギー補給。そして体脂肪をエネルギーとして活用することです。特に体脂肪は1kgあたり7000kcalものエネルギーを内蔵しており、これを活用しない手はありません」
高田さんは体重56kg、体脂肪7%と極めてスリムなアスリート体型。それでも計算上は、約4kgの体脂肪(56kgの7%)があり、単純計算で28000kcal分のエネルギー(体脂肪だけで100kmマラソンを5回近く走れてしまうほどの!)を秘めているのだ。しかし体脂肪は、糖質と比較して、エネルギーに変換されにくく、時間もかかる。
「僕が行っているのは、朝RUN。起床直後は最後の食事(前日の夕食)から時間が経っており、体内の糖質が少ない状態。あえてこの状態で走ることにより、カラダにもう一つのエネルギー源である体脂肪を積極的に使わせるように仕向けることが目的です。」
平日なら、自宅から勤務している小学校まで、約13kmの「通勤ラン」がベース。週末は約40〜50kmを走ることもある。いずれも補給はVAAMだけ。あえて糖質の少ない状態で走るため、他は水分補給をするくらいだ。
「体内の糖質が少ない状態でのトレーニングはもう10年近く続けていること。始めたばかりの頃は、20kmでも途中でお腹が減って仕方が無かったのですが、エネルギー系は無補給でも40km近く走れるようになりました。これはそんなトレーニングによって、体脂肪のエネルギーをうまく活用できるカラダに変わってきたからだと思います」
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ウルトラ完走のもう一つのポイント、レース前・中の補給でも、体脂肪のエネルギーを使うことを意識している。
「スタート30分前にスーパーヴァーム顆粒を1包飲みます。レース中は、30、60、80km地点に、ドリンクボトルを置いておき、そこにエネルギージェル2〜4個と、顆粒を1包テープで括り付けておきます(ドリンクボトルを置く位置はレースのレギュレーションによって変わる)。補給した時はきつくても、その後カラダが動くようになる感覚があります」
もちろんレースでは、糖質も積極的に補給する。レース中はエネルギージェルだけでなく、オフィシャルのエイドで出されるお汁粉なども摂ることがある。レース前は、おにぎり2個、菓子パン2個をスタートの2時間程度前に摂る。これは「スタート時に少しお腹に残っているくらいの感覚」がちょうど良いという。
4000kcalの答え——。それは、カラダの内に眠るエネルギー源である体脂肪を使いこなし、そしてレースでは、フルマラソン以上に積極的に糖質を補給する、この2つの「エネルギー戦略」にあった。

レース直前のコンディショニング
【2日前〜】
カーボローディング開始
炭水化物(糖質)多めの食事に切り替える。カーボローディングを行うと、体重が55kgから、スタートまでに57kgに増加。長時間のレース中に体重が減ることでベスト体重(56kg)で走れている。
【前日】
18:00 夕食
会場近くにある飲食店で食べることが多い。
おすすめは炭水化物(糖質)が補給でき、消化の良いそうめんやうどん。
21:00 就寝
寝る前までに、レースのイメージトレーニングをしておく。数分でも良いので、「うまく走れている自分」「苦しい局面」を想像しておくことで、本番に落ち着いて臨むことができる。
【当日】
2:00 起床
目安はスタートの3時間前。ウルトラは5:00頃のスタートが多く、起きるのはこの時間に。
3:00 朝食
炭水化物(糖質)中心の食事。おにぎり2個、菓子パン2個が多い。スタートまでに「少しお腹に残っているな」と感じる程度がベスト。
4:30 VAAM+歯磨き
スーパーヴァーム顆粒タイプを1包摂取。そして最後に歯磨き。100kmを走っていると、口内の水分が減少し、ネバネバしてくる。少しでもレース中の不快感を減らすために行っている。
5:00 レーススタート
【レース】
スタート直後
目標タイムの平均ペースより、1kmあたり+10〜15秒速いペースを目安に走り始める。
30km
スポーツドリンクの入ったボトル+エネルギージェル3個+スーパーヴァーム顆粒1包。補給の手間を考え、細かく摂るよりも、30kmおきくらいにまとめて摂る。またペースの目安をボトルに書いておく。
60km
スポーツドリンクの入ったボトル+エネルギージェル2個+スーパーVAAM顆粒1包。初ウルトラマラソンではこのあたりでかなり脚は疲労していた。
70km
フルマラソンで言う「30kmの壁」は、70〜80kmで来る場合が多い。
80km
スポーツドリンクの入ったボトル+エネルギージェル4個+スーパーヴァーム顆粒1包。残り距離は短いが、ここでの補給次第でラストの粘りは変わる。「これを摂ればいける」というポジティブな想いを持って、摂ることが重要。
【ゴール】
ゴール後はすぐに水で溶かしてスポーツドリンクのように飲めるザバスアクアホエイプロテイン100でたんぱく質を素早く補給。その後も身体が求める(空腹を感じる)タイミングで炭水化物(糖質)とたんぱく質を細かく摂る。これで翌日以降のダメージの残り具合が変わってくる。