高齢者が食べやすい食品の開発に向けて、「かむ力」と「唾液量」の低下による咀嚼中の食品の変化を捉える、オーラルマップス®を用いた新たな評価手法を開発 ~9月22日 国際学術誌Journal of Food Measurement and Characterizationに掲載~
株式会社 明治(代表取締役社長:八尾 文二郎)は、咀嚼プロセスシミュレータ「ORAL-MAPS®/オーラルマップス®(以下、オーラルマップス®)」に新たに食品を模擬口内から排出する機能を追加しました。これにより、高齢者にみられる咀嚼力や唾液分泌量の低下が咀嚼中の食品の状態変化に与える影響を評価する新しい実験手法を開発しました。
本成果は、2026年9月22日に国際学術誌の「Journal of Food Measurement and Characterization」(Inoue M. 2026. https://doi.org/10.1007/s11694-026-04947-x)に掲載されました。今後、高齢者が安全に、おいしく食べ続けられる食品の開発に活用してまいります。
研究成果の概要
- ・
咀嚼プロセスシミュレータ「オーラルマップス®」に適用できる、食品の排出が可能な咀嚼部品を新たに開発しました。
- ・
新たに追加された食品排出機能によって、模擬咀嚼中に粉砕され、唾液と混和されることで変化する食品の排出挙動を評価する新たな実験法を開発しました。
- ・
高齢者を想定した「咀嚼力低下条件」と「唾液分泌量低下条件」を設定し、食品の排出挙動に及ぼすそれぞれの影響を評価できることを示しました。
- ・
本手法は高齢者向け食品の開発や評価への活用が期待されます。
模擬咀嚼部に装着して使用します
研究成果の活用
本研究で開発した実験法は、高齢者にみられる咀嚼力や唾液分泌量の低下を、機器を用いて模擬し、それらが食品の咀嚼過程に与える影響を分離して評価できる技術です。これにより、高齢者の口腔機能を考慮した食品の開発や評価への活用が期待されます。
研究の目的
食品を食べる際には、歯でかみ砕き食品を細かくすると同時に、唾液と混ぜ合わせて食品の状態を変化させています。高齢者の場合、咀嚼力や唾液分泌量の低下により、この過程が変化することが知られています。しかし、これら口腔機能の変化が咀嚼過程における食品の状態に及ぼす影響を、機器を用いて客観的に評価する手法は限られていました。また、模擬口内で人工唾液と混ぜ合わされた食品(食塊)を送り出す機能がない咀嚼シミュレータでは、人工唾液や食塊が内部に滞留するため、咀嚼から飲み込みまでの食品の状態変化を十分に評価できないという課題がありました。
そこで本研究では、咀嚼プロセスシミュレータ「オーラルマップス®」に新たな食品排出機能を追加し、食品のかみ砕きと唾液との混和の総合的な結果としての排出挙動を評価する実験法の構築を目的としました。さらに、咀嚼力および唾液分泌量の低下を模擬した条件を設定することで、高齢者にみられる口腔機能の変化が食品の咀嚼過程に与える影響の評価を試みました。
明治グループサステナビリティ2026ビジョンとの関係
明治グループは、「明治グループサステナビリティ2026ビジョン」において「こころとからだの健康に貢献」を活動テーマの一つとして掲げ、具体的な取り組みとKPI※1を設定しています。
本研究は、その取り組みの一つである「“咀嚼~嚥下”のプロセスにおける、嚥下運動の可視化、新たな模擬装置の開発、実験方法の確立」に関する研究活動の一環として実施したものです。加齢に伴う咀嚼力や唾液分泌量の低下を機器上で模擬し、それぞれが食品の排出挙動に与える影響を評価する実験法を開発するとともに、その成果を学術論文として公表しました。
今後も当社は、咀嚼から嚥下に至るプロセスの理解を深め、高齢者をはじめとする多様な方々にとって食べやすい食品の研究開発に取り組んでまいります。
※1重要業績評価指標。https://www.meiji.com/sustainability/contribution/health_nutrition/
論文内容
タイトル
高齢者を想定した条件下における咀嚼中の食品排出挙動の評価:ORAL-MAPSを用いた機器評価法
(Dynamic bolus expulsion during mastication under elderly-oriented conditions: an instrumental method using ORAL-MAPS)
方法
- ・
咀嚼プロセスシミュレータ「オーラルマップス®」に新たな食品排出機能を追加しました。
- ・
ローストピーナッツを試験食品として、高齢者を想定して標準条件から咀嚼力を50%低下させた条件、および唾液分泌量を50%低下させた条件を設定し、模擬咀嚼中の排出挙動を評価する実験を行いました。
- ・
排出率※2、および排出率が80%に達するまでの咀嚼回数(C80)などの指標を用いて、各条件を比較しました。
結果
- ・
標準条件では、咀嚼回数の増加に伴って排出率が上昇しました。一方、咀嚼力低下条件および唾液分泌量低下条件では、食品の排出が遅延しました(図1)。
- ・
C80は、咀嚼力低下条件で標準条件より増加しました。また、唾液分泌量低下条件では評価した咀嚼回数内で排出率80%に到達しませんでした(図2)。
n=5, 誤差範囲は標準偏差,*は咀嚼力低下条件が、†は唾液低下条件が標準条件に対して有意差があることを示す。
考察
- ・
本研究により、食品の排出挙動を時系列で捉え、咀嚼条件による違いを比較する新たな機器評価法を提案しました。
- ・
咀嚼力低下条件および唾液分泌量低下条件で食品の排出が遅れたことから、これらの条件が食品の排出挙動に影響することが示されました。
- ・
本手法は、高齢者にみられる咀嚼力や唾液分泌量の低下が食品の咀嚼過程に及ぼす影響を、機器上で比較評価する手法として活用できる可能性があり、高齢者の口腔機能を考慮した食品の開発や評価への応用が期待されます。
※2排出率:模擬咀嚼中に、食品がどの程度模擬口内から排出されたかを表す指標です。値が大きいほど、多くの食品が排出されたことを示します。