「神奈川県産官学共同 新型コロナウイルス抗体価社会調査プロジェクト」中間報告~毎日のヨーグルト摂取が抗体価や免疫機能を向上させる可能性が明らかに~

地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所が中心となって、地方独立行政法人 神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター、公立大学法人 神奈川県立保健福祉大学、株式会社メタジェン、株式会社 明治(代表取締役社長:松田 克也)にて進めている共同研究において、ヨーグルトの摂取が抗体価やさまざまなウイルスに対する免疫機能を向上させる可能性があることを明らかにしました。

本プロジェクトでは、今後発生する可能性がある新たなパンデミックへの対策に向けた科学的知見を得る目的で、新型コロナウイルス抗体保有者の生活習慣や腸内環境を解析する共同研究を昨年より実施しています。(共同研究開始時のプレスリリース https://www.meiji.co.jp/corporate/pressrelease/2022/1104_01/index.html

研究成果の概要

ヨーグルトを毎日食べている人は、毎日は食べていない人に比べて新型コロナウイルスワクチン抗体価※1が高く、新型コロナウイルスに反応する免疫細胞(T細胞)の割合も多いことがわかりました。

図:研究概要の詳細図。(左)ヨーグルトを毎日食べている人、(右)ヨーグルトを毎日は食べていない人
図1.結果の概要

先行研究でヨーグルトの摂取がインフルエンザワクチンの抗体価を高めることも報告されており※2、今回の研究によりヨーグルトの摂取がさまざまなウイルスに対して、免疫機能を高める可能性が示唆されました。

研究成果の活用

本プロジェクトでの研究成果を起点に、新型コロナウイルスをはじめとする新興ウイルス感染症に対する新たな予防習慣の提唱を目指してまいります。

※1ワクチン抗体価とは、ワクチン接種によりつくられる抗体が血中に含まれる量。ワクチン抗体価が高いほど、感染した場合の重症化を防ぐことができるといわれている。

※2Hemmi J et al. Biosci Microbiota Food Health. 42 (1), 73-80(2023).

中間報告にいたった調査概要

方法

対象者を①ヨーグルトを毎日食べている人②毎日は食べていない人に分けて、血中のワクチン抗体価と免疫細胞(PBMC※3)の応答性を比較し、食習慣との関連を解析しました。

結果

・ヨーグルトを毎日食べている人は新型コロナウイルスワクチンの抗体価が高値だった。
・ヨーグルトを毎日食べている人は新型コロナウイルスに反応する免疫細胞の割合が高値だった。

ヨーグルトを毎日食べている人はワクチン抗体価が高く、新型コロナウイルスに反応するT細胞の割合も多いことがわかりました(図2)。

これらの結果は、新型コロナウイルスのワクチン接種回数、新型コロナウイルスの感染の有無、年齢などの影響を除いた解析(多変量解析※4)を行った場合でも同様に認められたことから、ヨーグルト摂取習慣の効果がより明確に示されました。

※3PBMCとは、末梢血単核球(Peripheral Blood Mononuclear Cells)の略称。PBMCには、T細胞(CD4+細胞/CD8+細胞)、B細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞、樹状細胞などのリンパ球が含まれる。

※4多変量解析とは、複数の変数データから変数間の相互関連を分析する統計的技法の総称。重回帰分析、ロジスティクス回帰分析、主成分分析などが含まれる。

図:左(A)ワクチン抗体価(相対値)のグラフ。/右(B)新型コロナウイルスに反応するT細胞の割合(相対値)
図2.ヨーグルトを食べる頻度とワクチン抗体価、新型コロナウイルスに反応する免疫細胞の関係

(A)ヨーグルトを毎日は食べていない人の平均を1とした時の血中のワクチン抗体価(新型コロナウイルスSタンパク抗体価)
(B)ヨーグルトを毎日は食べていない人の平均を1とした時の新型コロナウイルス抗原で刺激した際のCD4+T細胞中の新型コロナウイルスに反応する細胞の割合

本プロジェクトの全体概要

目的

新興ウイルスの新たな出現の可能性が示唆される中、免疫機能の維持やワクチンの接種などにより感染を防御・軽症化することが重要です。ワクチン接種後の抗体価には個人差があることが知られており、ワクチンを接種したにもかかわらず十分に抗体価が上がらない場合や、早期に抗体価が低下する場合もあります。そのメカニズムについて腸内細菌との関連も示唆されておりますが※5、その詳細は不明です。

本研究では、食習慣や腸内環境が免疫細胞の応答やワクチン接種後の抗体価に関係しているのではないかと仮説を立て、新型コロナウイルスに対するワクチン接種と免疫細胞応答の関係性、また抗体価が上昇または維持しやすい人に特徴的な食習慣や腸内環境を明らかにすることを目的として研究を行っています。

※5Hirota M et al. Commun Biol. 6, 368(2023).

研究期間と調査概要

2020年度:基盤となるコホート研究を実施(ベースライン調査)
2021年度:1年後の追跡調査
2022年度~24年度:新型コロナウイルス抗体価とPBMCや腸内環境を調査(本研究)

研究デザイン

観察研究

研究参加者

・地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所(神奈川県海老名市、理事長:北森 武彦)
・地方独立行政法人 神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(神奈川県横浜市、総長:古瀬 純司)
・公立大学法人 神奈川県立保健福祉大学(神奈川県横須賀市、理事長:大谷 泰夫)
・株式会社メタジェン(本社:山形県鶴岡市、代表取締役社長CEO:福田 真嗣)
・株式会社 明治(本社:東京都中央区、代表取締役社長:松田 克也)

地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所 腸内環境デザイングループ グループリーダー 福田 真嗣 

写真:福田真嗣

ワクチン接種によって誘導される抗体価やその持続性が人によって異なることが以前から報告されており、腸内細菌との関連が示唆されていました。今回の研究で、ヨーグルトの継続摂取という食習慣が、ワクチンに反応する免疫細胞の増加や、それに伴う抗体価の増加に関連することが明らかとなりました。食習慣は腸内細菌叢にも影響を与えることから、今後は腸内環境への影響も解析することで、「食−腸内環境−免疫」連関の詳細を明らかにしたいと考えています。将来的には本研究成果を社会実装することで、ワクチン接種前にこういった食習慣を意識することでワクチン接種効果を高めるなど、「食−腸内環境−免疫」連関に基づく新たなヘルスケア産業の創出を実現したいと考えています。